第22話「ボス部屋の前にて」

 それから様々なトラブルに見舞われたパーティはようやくボス部屋の前までたどり着いていた。なかなかやるじゃないか、所詮人間なのだからパーティが瓦解するかと思ったぞ。


 そのくらいはやってくれないと困るのだが、一応ほぼ攻略成功ということになるだろうか。中にいるのはトカゲが一匹だ。このパーティなら負けることはあるまい。


 そんなわけでパーティはボス部屋の前の休憩ポイントにて休憩をしていた。


「魔王様、この部屋は必要だったのでしょうか?」


 ブレインが人間を休ませる必要があるのかと訊ねてきた。


「うーん……広告を流すために作った部屋なんだがな……もう全部流しちゃったし、広告の再走でもするか?」


「魔王様! そういうのは視聴者に嫌われますよ!」


 カレンがそれを否定してきた。広告が少ない方がいいのも確かだな。過剰に流して企業イメージが悪くなるのも良くない。じゃあ何を配信で流すか……


「私がトークで場を繋ぎましょうか?」


 そういや一応カレンはトークに強いんだっけ。人間はかなり消耗しているのでそれが回復するまで持つかどうかは分からないが時間稼ぎにはなるだろう。


「いいだろう、任せた」


「はい!」


 良い笑顔でそう答えてカレンは一人でトークを始めた。それが続いている間にボス部屋に強制移動させるべきか少し考える。それで人間に死なれても気分が良くないし、ボロボロの人間を大したことのない魔物が倒す映像なんて面白くもなんともない。人間には勝つにせよ負けるにせよもう少し善戦していただきたい。


『実は私、最近魔力トレーニングにハマっていましてね』


 カレンが割とどうでもいいことを話しているのが聞こえる。よくやるよ。


「これは見ていて楽しいんでしょうか?」


 ブレインはカレンが場を繋ぐことに疑問を呈している。


「とはいえ、数字がなんとか横ばいにはなってるからな」


 配信の状態を見ると同接はそれなりにいた。この動かない画になってからそこそこ減った同接だが、カレンのトークが始まってからなんとか減りが緩やかになった。それを考えると無理をするのは悪手だろう。


 休憩部屋に罠や敵をだすべきかと考えたが、それではなんとかした後にまた休憩を始めそうなのでそうもいかない。ついでに言うなら人間達が男ばかりで休息を挟んでも華がないんだ。見ていて楽しくない。


「ふーむ……何かイベントでも起きればいいのですが……」


「無茶言うなよ、あのパーティはなかなか優秀みたいだぞ? そう簡単には潰れてくれないだろ」


 ブレインとしては人間を潰したいようだが、俺はそうもいかない。人間にはほどよく消耗してもらって死なない程度に崩壊してもらわないと困るんだ。ただ圧倒的な力で潰せば良いというわけでは無い。


「とりあえず広告を一つ流すか……」


 俺は配信映像をスイッチして、もう既に流した広告を再配信する。多少のサービスはしてやろう。向こうも嫌な顔はしないだろう。数回の配信でそこそこの金にはなっているしな。


「魔王様! 私の超絶面白いトークに広告を挟まないでくださいよ!」


 カレンがそう言っているが、『昨日の夕食はですね~』なんてトークだっただろうが、魔族の一体どれだけがお前の夕食に興味を持つんだよ? 今流している広告はそれなりに好感度が高いものだ。ゴリ押ししない程度にイメージをあげるのが目的なので押しつけがましくもないし、少しくらい流しても嫌われはしないだろう。


「人間にしてはそこそこ頑張りますね、下等な連中なりには意地があるのでしょうか?」


 ブレインがきちんと人間を評価しているな、珍しい。


「このパーティがなかなかやるってだけの話だろ。全部がこんなレベルだったら魔族が危うくなってるよ」


 覚悟を決めたパーティとはなかなか強いものだ。攻略させたくないダンジョンには強制排除トラップが必要なのかもしれないな。そんなズルをしていれば同接が減るだろうからそれを使うには注意が必要だがな。


「いっそボス部屋の前にもう一部屋繋げるというのはどうでしょう?」


「金を出すのが人間ならそれもいいんだがな……部屋の出口に『この先ボス在中』と書いちゃってるしなあ……これで終わらなかったら詐欺だのなんだのリスナーに言われるだろ」


「尺の都合もありますな、なんともままならないですな」


 魔族は夜行性のやつもいるし、尺を伸ばすことも可能だが、無闇にダラダラ流しても仕方ないだろう。いつ見てもいいと言うことはみなくても問題無いと言うことだ。そんなことになれば一番ウケるところで広告を流された企業と、魔族が見ていないところで広告を流された企業で不平不満が溜まっていくだろう。全てが見せ場という映像を作りたいという理想はあるからな。


 映像の中の人間達は干し肉をかじって水を飲んでいる。きっとボスに備えて体力を回復しているのだろう。まあ頑張ってくれ。


「しかし人間というのは面倒なものですなあ。一々この程度で体力が切れるとは」


 ブレインがそう言っているが、魔族でも体力のないやつはいるぞ? そう言った連中は魔力で体力の少なさをカバーしているから分かりづらいだけだ。


 カレンはここのところの城下町で見つけた面白い店を話している。聞いている方が面白いかどうかは別として、よくもまあここまでポンポン話題が出てくるものだ、それだけは感心するよ。


「ボスをもう少し盛り上がる魔物に交換しましょうか? このままではサクッと倒されて終了ですよ?」


 うーん……確かにボス戦が面白くないというのは思っている。しかしどうすれば視聴者にウケるだろうか? 強いボスを置いて圧倒するのは簡単だがつまんないしな。


 ほどよく強いというのは難しいものだ。


 そんな時、人間達が立ち上がった。いよいよボスに挑むつもりだろうか? そう考えて広告を終了して配信画面に戻すと同接がそれなりに増えた。見ていて楽しい戦いか、どうしたものかね。


『おっと、人間がそろそろボスに挑むようですね、カレンちゃんの面白トークも一時休憩としましょうか』


 アレが面白トークではなかったとか突っ込みたかったが、俺は演出を入れた。ボス部屋の扉から紫色の煙が湧き出てくる。無害ではあるがいかにも強い相手がいそうな雰囲気を出したいのだ。


 しかし男四人のパーティでもそこそこ同接は稼げるんだな、『女性に優しいダンジョンです』と付いたダンジョンでも作ろうかと計画していた俺としては少し意外だ。


「さて、ボス部屋ですね」


「魔王様、落ち着いてくださいね」


「バカいえ、あんなもので一々慌てられるか」


 そうして連中は無事ボス部屋の扉に手をかけたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る