第21話「一時の休憩」

「魔王様、連中、調子いいみたいですね」


「そうだな……」


 俺たち三人は退屈な展開になった配信をうんざりしながら見ていた。ダンジョンに入ってきたパーティはミミズの群れを討伐した後は順調にダンジョンを攻略していた。こんなものを配信してもたいして面白くないのだが、じゃあ代わりに配信するものがあるかといえば無いのでそのまま流している。


 カレンも退屈なのか、時々こうして俺に愚痴りながら実況をしている。人間達が結束して戦う様はいまいち退屈だ。このダンジョンのボスとして置いているのはサンドリザードだ。人間にとってはそこそこ強いのだが、このパーティなら難なく倒すだろう。


「お、トラップ部屋に入ったようですね」


「ああ、あそこか」


 それだけでどの部屋に入ったか分かってしまう。たっぷり罠を設置した部屋だ。そこかしこに触ったり踏み抜いたりしたら落とし穴や飛び出すトゲなどがあるが、サービスのためにトラップのスイッチになっている箇所の色を変えたりしているので苦労する要素が無い。


『なんだこの部屋!? 空っぽじゃねえか、しかも変な模様が描いてあるしよう』


 そうか、あまりにもトラップのスイッチが多すぎて模様に見えてしまっているのか。とはいえ、二三個体験すれば分かるだろう。そこまでバカだとは思っていない。


『えー……人間達はこの罠が大量に仕掛けられた部屋から無事脱出出来るのでしょうか』


 調子よく進んでいるものだからカレンの実況にも身が入っていない。やる気を出してくれと言いたいところだが、俺もやる気が無いので無理もないな。


「魔王様、これはもう事故配信なのでは?」


 ブレインが退屈そうに中止を進言してきた。そんなことを言われてもなあ……


「中途半端に止めるよりはマシだろ。どっちにせよそろそろボス部屋に当たるだろうし、クリアされてもいいんじゃないか」


 俺も投げやりに返す。順調に進む人間達にドラマ性も何もあったもんじゃない。


『おい! この部屋は罠が仕掛けてあるぞ! 気をつけろ!』


「「「え?」」」


 人間のその声に三人で驚いた。あんな見え見えのトラップに引っかかったのか? わざわざ目印まで付けているんだぞ?


 映像の中では、飛び出した刃で軽く頬を切った人間が映っている。いや、そのトラップはわざわざ真っ赤なブロックに触れないと発動しないはずなんだが……まさか壁のいかにも怪しい部分を触ったのか?


『おっと! 人間のミスです! ここまで着てのミスは痛い! 勇敢な連中かと思いましたが案外バカのようですね』


 慌ててカレンも実況に戻った。人間がバカで首の皮一枚で繋がったか。クソつまんない配信で終わるかと思ったのだが、案外なんとか盛り上がりそうだ。いい感じに罠に引っかかって欲しいものだ。


『おい! 色つきの場所がトラップだ! 気をつけろ!』


 おや、気付いてしまったか、これ以上引っかからないか?


『そんなこと言われてもどの色が安全なのか分かんねえよ! これだけ色つきがあるんだぞ!』


 そういえばトラップを大量に仕掛けたので色つきブロックが大量にあるんだった。そうか、そのせいで通常の足場とトラップの区別が付かなくなったのか。自分でも無駄に大量に仕掛けたかなと思っていたが案外何が成果を上げるか分からないものだ。


「案外引っかかるものですな」


 ブレインもこんなものに引っかかるとは思っていなかったようだ。


「安心しろ、人間向けに死なない程度にしているからアイツらが多少引っかかっても死ぬようなことは無い。死にゃあしないだろうさ」


 当配信はご家族で安心して見られる配信です。そう言いきってもいいだろう。刃物や鈍器の類いには死なない程度に威力を落としてある。毒を使ったようなトラップも仕掛けていない。しかし人間がここまで引っかかるとそのうち死ぬんじゃないかと心配になってくる。映像の中では今度は火傷を少しだけする程度の炎が吹きだしている。アレに引っかかるのか……


『さて、次は何を踏むでしょうか! おやおや、壁に安易に触りましたね、そこは雷が流れるトラップです!』


『ピギャア!』


『おい! 大丈夫か? うわっ!』


『何やってるんだ! うおっ!?』


『何があった!? 痛い!』


 電流が流れるトラップに引っかかったやつに安易に触るから連鎖して人間達に電流が流れてしびれていく。アホなのか? 安易に助ける前に観察しろよ、少しくらい考えれば危険なのは分かりそうなものだろ。


『ハハハ! 人間達が引っかかりましたね! このマヌケ面をご覧ください!』


 かなり下がっていた同接がトラップが発動しだして上向いてきた。そんなことを見て居る間に連鎖的に引っかかっていく。電流でしびれたせいでふらつき、さらに足がトラップのブロックを踏む。


『うおっ!?』


 今度は摩擦がまったく内部ロックを踏んで転ぶ。そして転んだ先には冷水が降り注ぐトラップが……こうして連鎖的に罠が発動していく。コイツらバカなんだろうな。そのおかげで助かってはいるんだけどな。


『人間は愚かですね、そんなことを言っている間に今度は虫が降り注ぐトラップを踏みました! 勝手に混乱していますね、マヌケな連中です』


「魔王様、ここまで先を読んで罠を仕掛けたんですか?」


 ブレインが俺に尊敬のまなざしを向けてくる。


「いや、アイツらがとんでもなくアホなだけだ」


 決して俺の手柄というわけではない、ただただ運が良かっただけだ。トラップだってネタがないから引っかかってくれるといいな亜程度に思って作った部屋だ。作るときにヤケクソになって大量にトラップを仕掛けたのが良かったと言うだけのことだ。


 しかし、人間には注意力というのがないのだろうか? いくらカラフルになっているとはいえ、トラップのスイッチには魔力が流れている、それを感知出来れば完全回避が可能なように作ったはずなんだがな。


「なあブレイン、人間って魔力が見えないんだっけ?」


「見えるものもおりますが……それなりの魔導師ならばという話ですね。今来ている戦士たちには不可能でしょうな」


 大丈夫かよアイツら!? よく今まで生きていたな! そっちの方に驚きだよ、すぐに死んでいてもおかしくないような連中だぞ、ダンジョンまで来るのも相当苦労したんじゃないのか?


「魔王様、トラップ部屋というのはなかなか数字が取れそうですな」


「そうだな……問題はトラップのバリエーションか……それは追い追い考えるとして、この設計の部屋はレギュラー入りしても問題無いな」


 こうして一つの定番が配信にできたのだった。

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