第19話「ようやく人間第二陣が来た」

 俺はせっかくなので人間どもをおちょくるために、ダンジョンの入り口に『いらっしゃいませ! 安全なダンジョンになっております!』と書かれた看板を付けておいた。信じるかどうかは分からんが、確かに危険はほぼ無いし、ウソは書いていないな。人間がそんな看板を信じるかどうかはまた別ではある。


 そんなことをしながら、人間を接待する準備万端で配信準備を終えていたら、ダンジョン入り口に仕掛けた水晶が遠くの方に人間の存在を感知した。コボルトに苦戦する連中が来たのかと思うと正直気が重いのだが、こちらにもスポンサー様がいるのでなんとか善戦してもらう必要がある。今になって難易度をもっと下げておいた方が良いななどと思ったがもう手遅れだ。


 そろそろ来そうなので、ベルを鳴らしてブレインとカレンを呼んだ。その途端にこの部屋のドアが開いて入ってきたのでおそらく二人とも部屋の前で待機していたのだろう、仕事熱心で結構な事じゃないか。


「魔王様、人間が来ましたね」


「配信準備完了です!」


「お前らは相変わらず仕事が出来るな」


 よし、それじゃあ人間達がたどり着くまでスポンサーの映像を流すかな。今回は出来るだけ広告を流せるように時間があればとりあえず広告を流せるようにしている。そのためにしっかりダンジョンに休憩所も作ったからな。別に人間のために作ったわけではないが、結果として配信時間を延ばすことが出来る便利な部屋だ。


「魔王さま、男四人のパーティなんですけど今回の新トラップの需要無いんじゃ無いですか? 触手には女の方が映えますよ?」


「触手じゃない、スワンプワームだ。あとそう言った不健全な路線で売り出すつもりは無いからな」


 カレンが隙あらば碌でもない考えを主張してくる。全年齢向け配信なんだから言葉に気をつけろっての。


「じゃあ広告を流すぞ、人間が来たら実況出来るように準備をしておけ」


「りょうかーい!」


 ノリが軽いやつだな。有能ではあるんだがなあ……


 さて、今回のスポンサーは数が多いからな、最低限全スポンサーを一周は流さなければならない。それ以上広告を流してもいいが、そこまでやるには人間がかなり健闘しなければならない。今回来た連中がどれほどの実力かは知らないが、頼むから入ってすぐ逃げないでくれよ……


「さあ今回も始まりました! 脆弱でひ弱な人間によるダンジョンチャレンジ! 今回こそは攻略に成功するのか? 乞うご期待!」


 カレンのナレーションの後で俺は出稿されている広告の配信に切り替える。外食産業をやっている企業もあるのだがよかったのだろうか? スワンプワームが映ると食欲が失せそうな気もするが……魔族には悪食な連中もいるしな、そういった連中や、ペットの餌を探しているそうには刺さりそうだな。何事もやってみるものか、さて、どうなることやら。


「魔王様、今回の挑戦者は攻略すると思いますか?」


 ブレインがそう訊ねてきた。


「分からんな、今回のダンジョンはランダム性が入っているから楽勝の可能性もあればいくら行っても終わらない可能性もある。一応配信がだらけたときのために強制排除スイッチは用意してあるがな」


「そうですね、ダラダラ長くしただけでは飽きられる可能性もありますし、御賢明な判断だと思います」


 そして配信画面の方には広告が流れていることを確認して、管理者用画面で人間達の様子を確認した。マッチョの筋肉の塊のような集団が来ている。華がないな、もう少し見た目のいい女冒険者が入っていると同接数が増えるのだが……


 まあいい、頑丈そうな人間なら多少トラップを強力なものにしても大丈夫だろう。色香で稼ぐのは諦めてギミックで楽しませる方向にしよう。この様子なら多少の怪我で退くようなことも無さそうだしな。


「魔王様、人間一行が着いたようです」


「うむ」


 配信画面を入り口の映像に切り替える。むさ苦しい画が映るが、全員その顔に恐怖とも畏怖ともとれそうな顔をしていた。


『なあ、この看板はなんだ?』


『知るかよ、ダンジョンに入ってくる連中を舐めてるんだろ』


『魔族もバカだな、これじゃ攻め落としてくれといっているようなものだぞ』


『気にすんなよ、どうせ魔族のすることなんて理解不能なんだろうぜ』


 そうして四人がダンジョンの扉を開けた。これで新ダンジョンに入るマヌケどもがまた増えたな。


「よし、ダンジョンの連結を切り替える。新機能に問題は無い」


「はい、承知しました。カレン、実況を」


「分かってますよ」


『さあ、やって来ました暑苦しい四人組! 今回の挑戦者たちはどこまで進めるのか? そして新ダンジョンの機能とは? 乞うご期待!」


 そうして入った初めの部屋に簡単な説明をおいているのでそれを連中に読ませた。


『なんだぁ? 『簡単に逃げられると思うなよ』だと? このダンジョンを作った連中は人間様を舐めてるんじゃねえか? 逃げるわけねえだろ』


『いいじゃあないか、連中が人間を舐めているならその分攻略だってしやすいんだろ』


 ふふふ……そうだそうだ、せいぜい手のひらの上で踊りながら人間の僅かな寿命を無駄にするがいい。魔族にとっては僅かな時間でも短命の人間どもには悪夢のような時間になるさ。全ては無事に進んでいる。人間どもはやはり愚かだ。


 さて、始めの部屋はどこに繋がるだろうか? それも気になるが部屋の連結をランダムにしてカレンは実況が出来るのだろうか? よく考えてみると即興で実況しなければならないというのは少し難易度が高いかもしれない。


 そう思ってカレンを見ると、コクリと頷いたので『任せろ』ということだろう。多少心配だが、カレンの方が俺やブレインに実況させるよりは上手いだろう。部下を信用することも上のものの務めだな。


『さあ人間達が始めに入る部屋は……サウナ部屋だ! アツアツの部屋に規定時間滞在するとドアロックが解除される過酷な部屋です! これは女性がいないのが非常に惜しい! この筋肉たちは暑さに耐えることが出来るのか! タイマーが切れるまでの耐久部屋です!』


 初手でサウナ部屋か……女騎士でも入っているかもしれないと思い用意していたが、まさかこの面子がここにはいるとは思ってなかった。期待している画とは違うんだよなあ。まあ女騎士が脱ぎだしたらある程度のところでぼかしをかけないといけなくなるし、ある意味では健全といえる。


『なんだよこの部屋は! 暑いなんてもんじゃないぞ!』


『見ろ! 出口に時計がついている。おそらくこれが時間になれば解除されるはずだ。なに、大した時間じゃない。俺たちだって水くらい持ってるんだ、お前ら気合いの入れどころだぞ!』


『おうよ!』


『任せとけ! 耐えるのは得意だ!』


 さて、どこまで耐えられるものやら。幸いサウナ部屋は時間制なので特別危険がおよぶことはない。映像が変わらないので所々に広告を流す時間が出来る。男四人が汗をかいていく姿よりはまだ需要があるかもな。


『おっと! 人間たちが座り込みました! 果たしてこの部屋に耐えられるのか? しばし広告をご覧ください!』


 カレンがこちらに目配せしてきたので、俺は広告を流した。一社くらいが限界だろう。そこそこ長尺の映像を出してきたところもあるし、流すには丁度いい場面だ。


 そうして広告に切り替えて俺はそっとカレンの方を見る。なんかアイツ微妙に熱っぽい顔をしているんだよなあ……それに触れるとやぶ蛇になりそうだし黙っておこう、知らなくて良いことはあるしわざわざプライバシーを暴いて面倒なことを起こす必要も無い。


「魔王様、早速貴重な水を飲み始めましたよ」


 ブレインの言葉でダンジョンの画面を見ると、男たちが汗をダラダラ流しながら水を飲んでいた。荷物はそこそこあるようだが、どれくらいの割合が水なのだろうか? 貴重な水を安易に消費しない方がいいと思うのだが……


 そうして広告が終わった頃にはサウナ部屋から出られる寸前の時間になっていた。時計が音を立てた途端にパーティ全員が次の部屋へ大急ぎで駆け込んでいく。まったく根性のない奴らだ。


 おもちゃとしては頑丈そうなので精々がんばってくれ、俺たち魔族を楽しませて欲しいものだ。


 そうしてむさいパーティのダンジョン攻略放送はようやく動きを見せてきた。

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