第18話「こちら新機軸のダンジョンになります」

「魔王様、アルマよりの報告です。先日新ダンジョンに挑戦したパーティが解散したとのことです」


「あー……アイツらだよなぁ。まぁ無理もないか、まあ解散したってああいう連中はダンジョンに関わるだろ。せいぜい次回に期待しておくさ」


 あの敗走を見た限り当面は実力を蓄えて欲しいところだ。戦果があのハリボテ一体では自慢などできるはずもないし、逃げた先で笑われるだろうしな。せいぜい全員経歴ロンダリングをしてから再挑戦してもらうことを期待しておこう。


「それは分かった、あそこに再挑戦しようとしている連中がまだいるという話だったな」


「はい、話が逸れてしまい申し訳ありません。現在町で急速に名を上げたパーティが挑戦しようと向かっているところですね」


 ふむ……どのくらいの難易度にするべきだろうか? 聞くところによると前回のアレでも町の中では有能で知られている方だと言うからな。人間は基本無能だが、それに合わせる方も大変だ。


 一応ダンジョン入り口のガーゴイルレプリカは修復したが、基本構造はそのままだ。これといって強い敵もいなければ、よほど運が悪くなければ死ぬようなことのないトラップばかりだ。死なれるとどうしてもスポンサー受けが悪いしな。人間がいくら娯楽になるとはいえ、それを無闇に消耗するべきではないし、ダンジョン配信はあくまでも魔族の家族が笑いながら見られる配信を心がけている。


「しかしそのままというのも芸がないな……」


 俺はそう独りごちた。ある程度前回のパーティで攻略に失敗したところの情報は出回っているだろう。種の分かっている手品で驚くほどに人間は愚かではない。アイツらは脆弱で非力だが知能は魔族の平均より高い。素直に正面切って戦えば負けないような相手でも、人間は時折戦略を練って戦いに臨む。その事は覚えておかなければならない。


「魔王様、一つ具申してもよろしいでしょうか?」


「なんだ」


 ブレインのアイデアか、それなりに面白いものだと助かるのだがな。


「各部屋の接続を変えるというのはどうでしょう。迷宮じみたダンジョンにするのもまた一興かと」


 なるほど、そういえばダンジョンの部屋の構造を変えるのは簡単だ。終盤のトラップが入ってすぐ出てきたり、クリア前の魔物が雑魚一匹にしたりすることも出来る。ランダムに設定して行き当たりばったりのダンジョンにしてしまうと言うのはなかなか面白いな。


「試しにやってみよう。ブレイン、なかなか面白いことを思いつくな」


「ありがとうございます」


 俺はダンジョンの構造を水晶に表示させる。部屋と部屋の構造を片っ端から作り替えるか? それもまた面倒なんだよな。クリア出来るか出来ないかの調整が難しいんだ。


 ああでもないこうでもないと部屋の構造をいじっていて気がついた。『ダンジョンが時間に応じて変化すればいいんじゃないか?』


 そう、ある部屋に入っているとその間に部屋が移動して後ろの部屋も前の部屋も変わってしまう。進むにも戻るにも上手く出口なり脱出陣なりを見つけなければならない。それなら挑戦者の方も必死に何とかしようとするだろう。少なくとも安易に逃げ出して成果は無しなんてことは減るはずだ。


「さて、ブレインのアイデアを採用するとして、カレンはそれで問題無く実況出来るか?」


 カレンは悪い笑顔を浮かべて頷いた。


「私がどれだけトークを鍛えてきたと思ってるんです? アドリブなんて大得意ですよ!」


 お前売れないアイドルだったそうだな、と言う言葉は飲み込んで、実況も中継も問題無い上、見ていて新鮮というお得なダンジョンが出来てしまう。しかもダンジョンの仕組みを複雑にしなくても、各部屋の接続を変えるだけなので真四角に配置してそれを移動させるだけで済む。これなら移動して通路を作ってと行ったコストとも無縁だ。


 よし、それでいくか。


「ブレイン、アルマは後どのくらいで挑戦者がダンジョンに来ると報告してきた?」


「報告が昨日で、おそらく明日には着くとの報告です」


「そうか、ならさっさとダンジョンを作り変えるか」


 ダンジョンの作りかえはあっという間に終わった。何しろ簡単な構造でそれぞれの部屋を移動するようにするだけだからな。通路が必要だと上下移動など面倒な作りの階段などが必要だが、このダンジョンは部屋と部屋が繋がるので通路を作る必要が無い。チョロくて助かるな。


「魔王様! もう終わったのですか!?」


「ん? ああ、単純な仕組みだしな、チョロい作りで助かるよ。ただ……マンネリ化もするからいつもこうとは出来ないがな」


 いくら新しい作りでも何度もやればマンネリになる。新しいからいいわけで、たまに使うならともかく、毎回それではどのダンジョンも変わらなくなってしまう。変化するダンジョンが変わらないというのもなんだかおかしいが、とにかく新鮮な驚きを魔族の皆に届けてスポンサーを満足させなければならない。


「そうですよねー、演劇でも売れ筋のテーマを延々やってる劇団は嫌われますもん。色々やらないと飽きられちゃいますからね」


「カレン、失礼だぞ。魔王様、申し訳ない……」


「いや、それは事実だし言い方はともかく謝る必要は無い。とにかく俺たちには新しいものが必要だからな。ドンドン新しいアイデアを出してくれ。もちろんブレインも思いついたら提案をしてくれると助かる」


「はい……仰せのままに」


 と言うわけで俺は二人を下げてダンジョンの設計を再開した。トラップは前回と同じでいいだろうか? この前はほとんど入ってこなかったし、ほぼ未知のダンジョンになっているが、せっかくだから新しいものを設置したいところだな。


 飛び出す針とか……人間じゃあ死ぬよなあ。お! そういえば魔族領で害虫が大量発生してたな。虫責めとかいいんじゃないか。それに魔族の害虫なので人間の領域に広がったとしても魔族が困ることはない。


 俺は転送するアイテムに、スワンプワームを含めておいた。今日の発注なら十分今日中に届くだろう。何よりあのミミズを好き好んで在庫に抱えておきたいやつはいない。早く捌けないかと商人どもも思っているだろうし買い取ってやろう。もちろんきちんと密封はさせるがな。


 よしよし、新しさと新しさが一つになって斬新なダンジョンになったな。後は時間と共に部屋同士の接続が変わる仕組みにして、移動中に人間が真っ二つになるような事故を起こさないよう、扉が開いている間は動かないようにする。これで大体完成だな。


 さて、ここに挑戦する連中はどの辺にいるかな。


 遠隔地を映してみると、なんと人間のパーティがコボルトに襲われていた。まったく世話が焼ける。コボルトの世話まで気が回っていなかったな。


 俺は念話でコボルトに餌の配給所を伝える。そうすると人間などに興味をなくし、集団で給餌器に向かっていく。ポカンと残された挑戦者たちを眺めながらふと思う。


『たかがコボルトに苦戦するのか……先が思いやられるな』

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