第15話「パーティの戦力を分析しよう!」
「さて、今回の人間は新ダンジョンの開場記念にどんな頑張りを見せてくれるのでしょうか? 精々がんばっていただきたいものですね!」
新ダンジョンの初挑戦者ということでカレンの実況にも熱が入っている。人間たちがすぐに諦めない程度にはサービスしたので即逃げ出すようなことはないだろう。簡単に攻略出来ない程度の難易度を考えるのには苦労した。ダンジョン作成のスキルに難易度調整もつけてくれればどんなに楽だっただろうな。
そんなことを考えている側から連中がトラップ床を踏んだ。いやいや、わざわざトラップと分かりやすいように他の床と比べて色を変えていたんだぞ、そんなことも分からないのかあのアホどもは。
「魔王様……大丈夫でしょうか?」
「どうだろ……? 思ったよりアホだぞアイツら」
もう少しマシだと思ったんだがな。早速トラップを踏んで上から降ってくる岩を必死に避けたり防御したりしている。死ぬようなものじゃないが、この先少しずつ難易度が上がっていくことを考えると期待薄だな。
「おい! 楽勝なんじゃねえのかよ! フェルト! お前が信頼出来る情報って言うからここに来たんだぞ!」
フェルトと呼ばれた女は泣き顔で反論している。
「だってこんなに危ないって思わないじゃない! スカルだって楽勝だろって言ってたじゃない!」
「おっと! ここで仲間割れでしょうか! こういうのを見るのは面白いですねえ!」
魔族的にはこういった映像は美味しい。しかし逃げられては肩すかしを食らうだけだ。
そこでタンク役の男が落ち着いた口調で言う。
「まあ待て、まだ魔物も出てきてないんだ、少し消耗したし休憩していこう」
「……そうだな」
「そうね」
「……」
なんとか話はまとまり、逃げ出すという選択はなくなったようだ。ホッとしたのだが、とりあえず休憩時間のようなのでスポンサーの広告を配信する。連中の動きが出るまで垂れ流しておけば問題無いだろ。
今回のスポンサーは食品業者と衣料業者だ。特に衣料業者は『魔族に似合う服』というのを標榜して広報活動に励んでいるらしい。魔族は丈夫な服を作れるから一着をずっと着ることが出来るので、その業者は魔族にもお洒落の概念を普及させたいらしい。俺にはいまいち分からないのだがきっと深い考えが合ってのことなのだろう、知らんけど。
そして冒険者たちが再び動き始めたので広告を終え、配信を再開する。
「魔王様、今回のパーティは無能すぎるような気がしますが……」
「分かってるよ。そんな難しいものは設置していないし多分大丈夫だろ……きっと……」
流石の俺も断言は出来ない。さっきのトラップにしたって、ダンジョンが暗いと間違って踏むだろうからわざわざこのダンジョン全体に照明をつけたんだぞ、その上で踏むような無能に何を期待しろというのか。
「さあこのダンジョンに挑戦するのは勇者なのかただのバカなのか! 移動を再開しました!」
カレンも実況になるとテンションが上がるんだよな。暗いままぼそぼそ解説されても困るのでいいことだ。
「さて、どうなりますかな? 連中にも少しは頑張って欲しいものですが」
ブレインも心配そうにしている。画が面白くないというのは大問題だからな。
「気にしすぎだ。人間の生き死になんてどっちにせよ俺たちからすればただの娯楽だろ? 死んだら死んだで楽しむしかないんだよ」
「そういうものですか……」
納得はいっていないようだが、この人間たちに多くを期待するのはやめよう。どうにもならないものはならないんだ、時には諦めることも肝心だろ。そもそも人間に魔族並みの生き汚さを期待しても無駄だ。
「さあ人間たちも通路に入りましたね、さあどんなトラップがこの先に待っているのか? 無事突破出来るのでしょうか?」
一応通路にも飛び出す槍などはセットしているが、飛び出す条件が槍の飛び出す穴の前に立っており、近くの三つのブロックを順番通りに押せば飛び出すというあまりにも条件の難しいものだ。そんなものに引っかかるわけが……
「おやおや、悪運が強いようです! なんと槍をかわしました!」
カレンの声に驚いて配信画面を見る。槍の前でへたり込んでいる男が映っていた。いやよくアレを発動させられたな!? 並の無能でも普通あんなものに引っかからないぞ。
「ブレイン……俺は見逃したんだが一体どうやってあのトラップを発動させたんだ?」
「穴の前に立ち止まっている人間が『トラップがないか気をつけろよ』と言ったところで周りにある怪しいブロックを適当に押していっていましたね。多分トラップの解除ギミックだとでも思ったのではないでしょうか」
「連中はアホなのか……?」
いやいや、あんな分かりやすいトラップにかかるなよ。『危険』とでも書いておけばよかったのか? と言うか俺が悪いのか? あんなもん普通は引っかからねえよ。
「しかし、人間たちはまだ進んでいくようです! あのマヌケどもが一体どこまで進んでいけるのでしょうか! リスナーの皆さんも是非どこで脱落するか考えてみてくださいね!」
画面には体勢をなおして警戒しながら進んでいる人間が映っている。よかった、根性だけはある連中のようだ。これで引き返されたら大ブーイングだろう。人間に合わせてもっとトラップを簡単にしておいた方がよさそうだな、後で改造しておこう。
次のトラップは……ボタンをヒント通りに押していけば扉が開き、失敗すると弱めの炎魔法が発動するやつだな。流石にほぼ答えのヒントをつけているのに引っかかるほどアホではないだろう。何しろヒントが『血の色をしたボタンを押し、続いて木の葉の色のボタンを押し、最後に土色のボタンを押せ』というものだ。こんなもの間違えたら人間には意識が無いんじゃないかと疑いたくなるレベルだぞ。
そうして順調に進んでいき、ボタンのトラップに着いた。
『ふむ……血の色をしたボタンか、普通に考えれば赤いボタンだが……』
『待て、魔族には赤くない血を持ったやつもいるぞ、それに虫や魚の中には血が青い種類もいる』
『なるほど、引っかけというわけか』
なんでそうなるんだよ! ご丁寧にお前ら人間に合わせてやったのに無駄に深読みするんじゃねえよ! それならもう少し慎重に進めやアホが!
「魔王様、あの人間たちに少しイラッとしました」
「安心しろ、俺はキレそうだ」
「さあこのおとぼけ四人組は無事このトラップを突破出来るのでしょうか? 人間たちが長考に入ったのでいったん広告を流しますね!」
「ふぅ……」
広告が流れている間にカレンは休憩に入った。ダンジョンの映像では延々と人間たちが揉めている。
「魔王様~! 人間たちがバカすぎて辛いんですが……」
「すまん……なんとか頑張ってくれ」
カレンも実況していてイライラしているようだ。無理もないし当然のことだと思う。人間がもう少し賢いと期待した俺がバカなのかもしれない。あまりに無能だから無能向けに作ったら深読みしだすとかバカの集まりじゃないか、こっちの事情も少しは汲んで欲しいとさえ思うんだよ。
そしてしばしの広告の後、パーティがボタンを押す決心をしたようなので再び配信画面に切り替えた。そのトラップでは案の定というかなんというか……少し火傷をしていた。火力を抑えめにしていて良かったと思うよ。
一応失敗しても炎を噴き出すものの扉は開くのでパーティはその先に進んでいった。アイツらはあまり賢くないがやる気だけはあるので助かるよ。
そうしてそれなりの同接を見ながらダンジョンの改造を考えた方が良いなと思った。
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