第14話「ダンジョンド素人の探索実況」
俺はようやくダンジョンの開発を終え、そのダンジョンを人間たちに宣伝するように噂を流した。結構苦労したが、なんとか開発完了したのでダンジョンを生成して人間たちが入れる位置に入り口を設置した。
広報のための間諜は出したし、後は人間がやってくるのを待つだけだ。有能な部下が広告はもう既に収録済みなので後はこれをダンジョンに挑戦している間に所々挟むだけでいい。
いや、簡単そうに考えたが上手くいったらの話だ。なかなかそんな単純にはいかないんだがな。
人間が無事入ってくるかを不安になって待っている。一応人間が挑戦しやすいように初回訪問では難易度の下がるサービスをしている。トラップのボタンが重くなっていたり、そもそも高難度のトラップが作動しなかったりと、初心者にも挑戦しやすい構造にした。人を判断して二回目以降の挑戦で難易度が標準になる仕組みだ。成功体験を与えるのが人間には大切らしい。
「くだらん……」
思わず本音が口をついたが、死んだらアンデッドになれることもほぼ無いのにやたら弱い人間に合わせる必要はあるか……神のやつも随分と不完全な生き物を大量生産したものだな。
そこでドアの前から声がかかった。
「魔王様! 人間が新ダンジョンに向かっています!」
ブレインの声だ。
「入れ」
それだけ言うと、ブレインとカレンが入ってきた。しっかりと配信準備が完了しているな。
「失礼します。ダンジョンの監視機能で人間の反応を検知しました」
「そうか、入ってくると思うか?」
「おそらくは」
ならば良いことだ。精々がんばってくれ。
そして配信セットをブレインが準備していき、カレンが実況するための席に座る。これで人間が入ってこなかったら笑えない冗談だな。
ああ……そういえば……
「ブレイン、広報のアルマには褒美を取らせておけ」
宣伝って大事なんだよなあ。どこまであてになるかは分からないにしても、ダンジョンの広報担当を用意しておいてよかった。せっかく作ったのに気付かれもしないというのは悲しいからな。
「はい、ヤツには報奨金を与えておきます」
さて、ダンジョン入り口を映すかな。
手元のコントロール用水晶に手をかざしてダンジョン入り口を投影する。きちんと人間が来ているのを確認してから配信をしないと配信事故になるからな。
そして映像にはダンジョンに向けて歩いているパーティ一行が小さく映った。ここいらにめぼしいものは無いのでダンジョンに来ていると推定していいだろう。ここまで来て引き返すこともないだろうから準備をするか。
「カレン、実況の準備はいいか?」
「バッチ来いですよ! 私の語彙力が火を噴きますよ!」
カレンにそれほど語彙力の豊富さを感じたことはないのだが、本人がいい気になっているのでそれには突っ込むまい。後は補助役のブレインだな。
「ブレイン、人間たちの観測を頼むぞ」
「はい、仰せのままに」
さて、それでは配信予告でもするか。この調子なら時期に人間が来るので短気な魔族もイライラしないくらいの早さで配信を始められそうだ。
手元のボタンを押して配信準備の通知を全魔族に送る。待機するヤツがどれほどいるかは分からないが、中には始めのところを見逃したから残りも見ないというヤツもいるのでそう言った連中を取り逃してはならない。今回はスポンサーも増えたことだし見せ場を沢山作って同接をガンガン増やさないとならないからな。
配信準備を送ると結構な数が待機に入った。人間たちはまだ遠くに見えるだけだ。ダンジョン入り口を映しながら『人間接近中!』とテロップを入れて流す。何か音楽でも入れれば良かったかなとも思うが、そこまでやるのは今のところ難しい。それに魔族にとっての何よりの音楽は人間の悲鳴だ。それを邪魔するような要素を入れることもないか。
「同接が無事増えていますな」
「そうだな、カレン、悪いがフリートークで人間たちがダンジョンに入るまで繋いでくれ」
「無茶を言いますね……まあなんとかしましょうか」
そう言ってカレンは当たり障りのない話を始めた。これで場を繋ぎながらダンジョンへの期待を持たせられるな。
かなりの無茶振りをした自覚はあるのだが、カレンはなんとかトークスキルで場を繋いでいる。幸いなことに今回の人間はなかなか歩が早く、地平線の方に見えていたのになかなか早くやってきた。
「さて、ここからが本番だな」
「人間がダンジョンの扉を開けました! 見たところ初心者のようですな」
「さあやって来ました! 今宵の生贄はコイツらだアアアア!」
カレンがテンションを上げて実況しているのはさておき、ブレインが言っていた人間たちの実力を測ってみる。見たところ初心者装備をしているが、全部がくたびれているように見える。金が無くて新調出来ないのではなく、これで十分用を為すと舐めているのだろう。その証拠にダンジョンに入ろうとしているというのに何の注意も払わずニヤけている。
まあいいか、クリアされるのを前提にしたダンジョンだし、何より慎重にトラップや敵をチマチマ倒されては画にならん。このくらいイケイケでやっている方が配信に向いている。
俺は入り口を映していたのをダンジョン入り口の階段の映像に切り替える。人間の声が入ってきた。
「なあスカル、あんたを信用しない訳じゃあないんだが、こんなに親切なダンジョンがあるのか? たいまつも要らないってあり得るのか? いや、実際壁が光っちゃあいるが、なんのためにこんなサービスをしているんだ?」
スカルと呼ばれた男は寡黙なのか一言だけ返した。
「信頼出来る情報筋がソースだ」
男三人に女一人のパーティ、実力はまだ分からないが、少なくともアルマがしっかりと広報をしてくれていることはよく分かった。
「さて……何から始めたものかな……」
そう小さくつぶやいた俺の顔はきっと大層悪い顔だったのだろうと思う。こうしてダンジョンの攻防は始まった。
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