第13話「初心者向けダンジョン作りました」

「よし……これでいくか」


 俺は誰もいない中で独り言を言った。新ダンジョンの方針がようやく決まった。ブレインとカレンには後から伝えればいいだろう。特にカレンは即興で実況が出来る才能が有るようなので子細を伝える必要は無いと思う。


「とりあえずトラップだな」


 ダンジョン作成用の魔導具に魔力を流して階層を作っていく。魔物は後から置けばいい、とりあえずトラップの作成が優先だ。今回は針山の天井でも作っておくか。


 後は落とし穴は基本だな、問題は力不足なくせにダンジョンに入ってきた初心者をどうやって追い返すかだ。面倒なのでいっそダンジョンの入り口に入場出来る基準を書いて貼り付けたくなるな、それを信じるかは人間次第だが、映像として面白くないものは配信したくない。


「そういえば……」


 この前、完成したと聞いた魔力壁でも設置するべきだろうか? アレは確か言っていいかの魔力しかないと通れないという代物だったはずだ。無能を排除するにはぴったりのトラップだな。


 石版をとりだしてその設備を見る。大した値段ではないし採用しても問題あるまい。スポンサーがつけば十分元が取れる良心的な価格だな。


 通信機能を使用してトラップの購入をする、仕組みが表示されたのでその通りにダンジョン入り口に魔力壁を張る。しかし、設定はどうするべきか、あまり強力に排除するとロクに入って来られなくなるし、入ってきたやつの実力があまり高いと軽々と攻略されてしまう。その辺の調整がダンジョン作成の醍醐味だ。


 理想はトラップに引っかかるかどうか微妙な連中がギリギリ入れるレベルがいい。ただ、人間のレベルを知らないので基準がさっぱり分からない。配信して面白いやつが入れないと困るんだよな。


「うーん……」


 しばし考えて下級魔族程度の力があれば入れる程度に設定した。このくらいでいいだろう。何より視聴者の魔族に合わせれば見ている側もハラハラドキドキするはずだ。自分とあまりに実力が離れているとあまり面白くない。魔族に実力のあるやつもいるが、やはり狙うなら大多数を占めている一般魔族を想定して作るべきだな。


 魔力壁の設定が終わったら後はトラップの調整だ。針山の天井にしても死なない程度に調整が必要だ。人間は基調は道化だからな、失敗するのは大歓迎だが死人を出して訪問者が減っては本末転倒だ。あくまでも笑えるラインギリギリを攻めなければならない。


「落とし穴は外部への転移陣をそこに張るだけで楽だなぁ……」


 どうにもダンジョン作成スキルには殺意マシマシのものが多いので困る。人間は弱いので下手をすれば深い水に落としただけでも死んでしまう。脆い生き物だと思うがそれに配慮してやらないとな。


 トラップ一覧を眺めるのだが、いまいち良いものが無いな。鉄球が落ちてくるとラップくらいなら死なないだろうか? とりあえず設置して、落ちてくるものを鉄球以外にするか……


 スキルで表示されているマップの一室に踏むと上から桶が降ってくるものを作る。くだらないトラップだが流石に入ることが可能なレベルの人間ならこの程度では死なないだろう。標準のまま設置すると巨大な鉄球がいきなり落ちてくる即死トラップになるからな、きちんと弱体化しておかねば。


 調整が難しいな……桶を落とすにしても、木製だと面白くないが、オリハルコンの桶を高いところから落としたら人間は死ぬんだよな、人間は神が作ったと言うが、随分と繊細で微妙な設計をしたものだな。その点魔族は頑丈だからあまり配慮しなくていいので楽なんだよな。


「魔王様、失礼します」


「おー……ブレインか。なんかあったか?」


「対応がいい加減すぎませんか?」


 ブレインの忠告も結構だがそんなことを言われてもな。


「別にいいだろ、魔王に威厳があったらもう少し税を納めるやつが多くなるだろ。どーせみんな魔王の仕事にも身分にも興味なんざ無いんだよ」


「そんな自棄にならないでください、新しいスポンサーが見つかったんですよ」


 おお、出来る部下がいてありがたいな。まともな部下が少ないので少し優秀なだけでも十分助かる。噂では魔王の寝首を掻こうとしている連中を始末しているとの噂もあるが、そこまでして魔王の座が欲しいかね、民衆がまともに税も納めないので心労が絶えないぞ? そんなものに憧れなくてもいいだろうに。


「それで、次のスポンサーはどんな企業だ?」


「それが……この前、カレンの実況付きで配信したところ多数の企業が広告の出稿を希望しておりまして、現在怪しい業者や支払いをきちんとしないようなものを弾いているところです」


 おお、随分景気のいい話だな。それとカレンのやつ案外優秀じゃあないか。いずれ寸志でも出してやるとするか。それはともかくスポンサーが見つかったとなると配慮するべきことも増えるな……


「スポンサーウケのいい展開を考えておくよ、どんなところが名乗りを上げたんだ?」


「食品業者に馬車の制作をしている工場、他にも公共事業をやっているところまで入ってきているんですが……最後の業者は拒否しておいた方がいいですな」


「そうだな、癒着だのなんだの言われても面倒だ。公共事業に関わりそうな連中は外しておいてくれ」


 早速ご機嫌とりが現れたか、ご苦労なことだ。スポンサーになる前に税金をしっかり払う方が先だろう。魔族は税金で行う事業の担当業者ですら税金をまともに払っていない正気とは思えない連中もいるからな、どの面下げて魔王城に来たのかと問いただしたくなるよ。


「では利害関係の薄い業者を優先いたします」


「ああ、頼むよ」


 そしてブレインは頭を下げて出て行った。分かったのは新規のスポンサーに食品業者や馬車の製造業者が入ったということだ。つまりダンジョン内で食中毒を起こすようなトラップは仕掛けられないし、交通事故を連想させるようなものもアウトだということだな。


 スポンサーが増えると自由度が減る、分かってはいるが面倒な話だ。ああ、そういえばカレンのやつに実況するときに禁止ワードを伝えておかないとな。アイツは結構その場のノリで喋っているから下手なことを考えずに言う可能性もある。やれやれ、どうあっても苦労することは避けられないな……


 結局、設計段階だったダンジョンはそれなりの改変を迫られたのだった。

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