第12話「ダンジョンの深層実況」

 名前も知らない冒険者たちは疲れをとって動き出したのだが、連中に動きが出たところで配信の同接が大きく増えたのでフロアを進んだときに疲労回復のポーションでも置いておこうかと割と真面目に検討した。あんな動きのないシーンが長いとスポンサーが嫌がるだろうしな、見ていて面白くないし。


 あと、カレンの実況で同接が増えているのでスポンサーを用意していないのは失態だ。受けるかどうか分からないからと即興でやらせてみたのだが、成功するなら広告の出稿企業を探しておけばよかった、しかしこれも後知恵でしかないな。


 ま、スポンサー希望への宣伝と割り切るならそれも良いか。人間達にはほどよく頑張ってくれ、攻略されても困るが、浅い階層で死なれても盛り上がらんからな。


「魔王様、なかなかの数字ですな」


 ブレインも感心したように言っているが、コイツがカレンを連れてきたんだから『予想通りです』くらいに言ってもいいのにな。別にそれが不敬だとは思わんし、有能ならむしろアピールした方がいいだろう。


「ああ、金が入ったら寸志を与えるよ」


「ありがとうございます、とはいえ、収益は今回の配信ででないのが残念ですな」


「いいさ、その代わりお前が金を出してくれるスポンサーを見つけてくるだろ?」


 俺の言葉にブレインは大きく頷いた。まったく優秀な部下を持つのはありがたいことだ。出来ればそういう部下がもう少しいれば助かるんだがな。


「さあ冒険者たちが二階層で動きました! どんなトラップに引っかかるのか! 果たしてこの哀れな人間達は無事生きて帰ることができるのか! 注目の二階層をみんなで見ましょう!」


 そろそろ本格的に攻略が始まったので、それに伴って実況も熱を帯びる。カレンが煽り文句を言う度に同接が増えていく、コイツ有象無象だと思っていたら思いのほか優秀だな。


「二階層には何を用意していましたかね……」


「これといって珍しいものは無いな。岩が上から降ってきたり、睡眠ガスが噴き出す程度だ」


 ブレインもロクな準備をしていない事は知っているだろう、不安そうに俺に訊ねてきた。二階層から殺しにかかるようなトラップは仕掛けていない。序盤はもっと見ていて面白いトラップを仕掛けているだけだ、まだまだ殺しにかかるには階層が浅すぎる。配信を始めたときから致死性の高いものは取り去っておいたからな。


「大丈夫なのでしょうか……?」


「カレンのお手並み拝見するには丁度いいだろ」


 不安の中で実況が始まった。


「さあ人間達は無事この階層を突破出来るのでしょうか? これは気になるところですね! みんなで人間達のあがく様を見ましょう!」


 そうして二階層目の配信は始まる。早速動く人形が出現していた。この階層で苦戦するような連中にまともな魔獣を当たらせれば確実に死ぬので強さの調整がきく土人形に任せている。スライム程度なら出してもいいが、わざわざ魔物の命を賭けることもないので色々使い勝手がいい方を使っているんだ。


「おーーーーーーっと! 早速木偶人形が出てきましたね! 人間たちは臨戦態勢に入りました。この程度のクソ雑魚くらいには勝ってもらいたいですね! あまり私を失望させないで欲しいものです!」


 そうして連中が雑に作ったゴーレムと戦闘を始めた。木と土で作った人形なのでそんなに強い相手でもあるまい。この程度に負けていたらダンジョンによく来れたなと思うほどだ。


 戦闘で剣が抜かれ、杖をかざされたところでさらに同接があがった。この調子で増えてくれるなら嬉しいものだ。しかし魔族も人間がなんだかんだ言って好きなんだな、愛情と呼ぶにはあまりに歪んでいるので、せいぜいペットレベルの愛着だとは思う。脆弱な人間たちが魔族や魔物を相手にするのは弱者が必死にあがいているので魔族の心を打つのだろう。


「魔王様、いい感じですね」


「ああ、そうだな……しかしまあ……あいつらが苦戦しているのを見るとゴーレムの調整は難しいと思うよ」


 人間たちはゴーレム相手に苦戦していた。それほど強く作ったわけでもないのだが……


 リーダーの使っている剣がゴーレムの四肢を切り落とすことすら出来ていない。アイツは鍛冶屋に騙されて不良在庫でも掴まされたのだろうか? なかなかあそこまでのなまくらは見つけられないぞ。映像で見れば普通の剣だが、実際に見たらまともに切れないのが分かるだろう。そう考えると配信技術を強化して剣の切れ味が分かるくらいの画質にするべきなのかもしれない。他の魔族は小さい画面で見ているとは言え、やはり画質はいいにこしたことはない。


「あの……連中、ゴーレムに負けそうですね」


「そうだな」


 流石にブレインも心配になってきたらしい。同接数が増えているのにここで退場させるのは惜しい。仕方ないな……


「あいつらを維持している魔力を減らす、所詮は魔力で動いている人形だ、いくらか弱体化させればあの雑魚どもでも勝てるだろ」


「いいのですか? 一応魔物なのでは?」


「人形だよ、俺が作った人形を潰すのは自由だろう? 別に命が入っているわけじゃないんだ、見世物だよ、見世物」


 俺はそれだけ言ってゴーレムに流していた魔力を減らした。魔力で出来た人形なのでその結合が弱くなり体の強度が下がる。これだけ弱体化させればあのクソみたいな剣でも攻撃が通るだろう。


「おっと! ここで人間の必死の反撃です! おお! 一体倒しました! さあこの調子で無事生き残ることが出来るのでしょうか!」


 カレンには聞こえないように会話をしていたので、あの人形が弱体化したのは伝わっていない。人間が必死になる様を見るために同接が跳ね上がった。配信の状態を見ると配信している魔導具が魔力不足で遅延を起こしていたので魔力を追加しておいた。まさかここまでとはな……


「これは人間の意地ですね! ゴーレムを倒せるなんて涙ぐましい努力ですね! さあここから先にはどんな運命が待ち構えているのか? この階層の魔物は倒しましたが、まだトラップは残っています! 人間がそこまでバカだとは思いませんしこのまま通過されてしまうのでしょうか!」


 雑魚相手に強い魔物は必要無い。下層には確かに魔物を配置しているが、浅いところで強いやつを用意しているほど部下が沢山いるわけでもないしな。残念ながら魔王の財政では豪華な面子を全部のダンジョンに配置出来るほど裕福ではない、悲しいが現実に見合ったことをするしかない。


「ああーーーーーーー!! 人間が落とし穴に引っかかりました! なんという油断と慢心でしょう! 調子に乗った人間の末路としては正しいですが期待外れですね! はい、残念ですがクソ雑魚にダンジョン踏破は不可能でした!」


 俺が目を離している間に終わってしまっていた。それにしても落とし穴かよ……しょーもないトラップに引っかかるなよ。わざわざ人形の強さを調整してやったのが全ておじゃんじゃないか、アホくさ。


「リスナーのみんな! 魔王軍はいつでも応援を歓迎しています! 人間たちの面白い無様さが見たいなら是非次回も視聴してくださいね! それでは、待て次回!」


 そうして配信は終わった。


「ま……魔王様、私の実況はいかがでしたか?」


 ホント実況の時だけ性格が変わるな。まあいいか。


「いい仕事だったぞ。この調子で次回も頼む。魔王城の空き部屋を使っていい、面白そうな人間がダンジョンに入ってきたら呼ぶから頼むぞ」


「は……はい!」


 良い笑顔で配信部屋から出て行くカレンを見送った。ブレインには「スポンサー探しは頼む」と指令を出してその日は終了した。


 後日、カレン宛のファンレターや実況者への寄付が届いたのだが、カレンが「実況の設備投資に使ってください」と俺に寄付をしてきたのでもっと高画質で配信が出来るように魔導具を買った。スポンサー無しでも儲かるときがあるんだなと俺は一つ学んだ。

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