第10話「新規ダンジョンを考える」
「ダメだ……」
目の前に投影したブループリントに手をかざすとフワッと煙になって消えた。ダメだ、こんなダンジョンを攻略させても数字が取れない。もっと人間の醜さを見せなくては魔族が楽しい映像にならない。こんなヌルいギミックでは全滅させることは出来ても心の絆を試すことは出来ない。
今回作ってみた天井が落ちてくるのでそれを全員で一定時間支えれば解除されるトラップではダメなんだ。力を合わせればなんとかなるようなものは脱出に成功したときにいまいち面白くない。作るならもっと人間関係を破壊したり、不信感を募らたりする結果になるようなものにするべきだ。
そう考えれば人間達に苦痛を与えるトラップよりも、あえて入ってきた人数より少ない金貨を与えてそれの分配で揉めるような人間を見せた方がいい。単純に人間を倒すより、あえて身銭を切って相手の信用問題を起こすことの方が見ている側にとっては楽しいだろう、何しろ魔族はろくに税金を払っていないからな。人間に与えたものだって自分の金が入っていなければ気にすることはないだろう。
「そうだな……」
考えながら一部屋の設計を考える。例えば入ってきた人数より少ない数の宝箱を用意して、開けた人間に最適化された魔導具が手に入るというのはどうだろうか? 説明まで書いておけば欲に目のくらんだ連中の中にどうやっても手に入らないやつが出ることになる。そんな時に人間は報酬を得られなくても納得出来るのだろうか? そうして揉める人間達を眺めるのもオツかもしれない。
「保留だな」
それを低威力の炎魔法で部屋の設計として机の上にある紙に焼き付けた。人間達を争わせるにはどうするのが効率的だろうか? なにもわざわざ魔族が正面切って戦うことはないのだ、人間にはありがたいことに同種族で殺し合うという自滅を誘う意志が混じっている。わざわざ魔族を消耗させて必死に戦う相手でもないだろう。せいぜい
問題と言えば意志を持った魔族と違って戦いの場面が面白くないことだ。割と致命的であり、判断力もほぼ無い。そういったものに相手をさせれば画が単調になり面白くないものになってしまう。人間への妨害なら十分な役に立つのだが、見ていても面白くはない。
では……どんなトラップを仕掛けたものだろうか? たとえば女が入ってきたなら天井からホワイトスライムのシャワーが降り注ぐ仕掛け……いや、スポンサーが怒りそうなことはやめておこう、この手の需要があるのはオーク界隈くらいのものだ。
いっそ入ってきたら入り口が閉まって、ダンジョン内のクレストを百個くらいコンプして扉にはめないと出られないダンジョンというのはどうだろう、足止めにはなるし、人間関係をギスギスさせる効果くらいはあるかもしれないが同接が稼げそうなネタではないか。なによりそんなダンジョンは初めに入った連中が実態を話せば誰も寄りつかない過疎ダンジョンになってしまう、それは避けたいな。
「魔王様、失礼します」
ブレインが室内に入ってきたので魔力で映していたブループリントを握りつぶして考えを変えることにした。
「どうした? ダンジョンの突破報告か? それとも新しいスポンサーが現れたりでもしたか?」
そんな冗談半分の話をすると、ブレインは驚いた顔をして返答をしてきた。
「はい! スポンサーに名乗りを上げた企業が五つほどコンタクトをとってきました。業種などを調べて健全な経営をしている企業ばかりですな」
ほほう、そんな美味い話が突然わいて出るとは思わなかった。五つもよく物好きが応募してくれたものだ。
「あの配信、そんなに好評だったのか?」
するとブレインの顔色が微妙に変わった。何か言いたそうだな。
「実は……呪いの石像や、絵画の中の亡霊などの移動が自由に出来ない魔族たちから好評でして……皆さん身分証はもっていますからな。戦うこともなく置物にされている連中が身分証を魔力で目の前にもってきて楽しんだそうです。やはり娯楽の少ない連中にはなかなか好評のようですな」
なるほど、それは考えていなかった。そういや魔族の中でも念動力は使えるが、自由に歩いて移動は出来ないような連中もいる。そうかそうか、娯楽のない連中相手の商売というのは盲点だった。何しろあいつらみたいなのは文句を言う手段もほぼ無いからな。
「よくやった。しかし五社か……ダンジョンの数が圧倒的に足りないな」
「魔王様が人間を撃退するために作ったダンジョンがあるではないですか!?」
驚くブレインにそれではダメなのだと教える。
「確かに攻略されていないダンジョンはある。しかしこの前作って人間をおびき寄せたのは『配信向けの』ダンジョンなんだ。普通のダンジョンなんか使えば弱くてどうしようも無い連中がすぐ死ぬだろう? つまりは配信は出来るが面白くはならないんだよ」
「なるほど、確かに魔王様が作ったダンジョンは特別殺意が高いですからな。始まってすぐに死なれてはスポンサーに顔向け出来ないということですか」
「そうだ、スポンサーにも申し訳ないし、そんな配信を続ければ同接数も減る可能性は十分にある。どちらかと言えば後者の方が問題だな。スポンサーは最悪新しく見つければいいが、つまらないと決めつけられると誰も見なくなる、そっちの方が困るんだ」
残念だがそういうことだ。しかし既存のダンジョンでも使えるものは使わないと設計が進んでいないのでダンジョンを作る事さえ出来ていない。
そうなるとどうやって人間を集めるかになるが、こちらには洗脳済みの人間がいる。当面は人間側の対処はそちらに任せるとして……
「ブレイン、割と人間量に近いダンジョンのいくつかからそこを守っている魔族を退避させてほしい。出来るか?」
面食らった顔をするブレインだが、俺の言葉からなんとなく察したようで、「了解しました、部下を動員して出来る限り安全に退避させます」
「退避が完了したら教えてくれ。そのダンジョンをリフォームする。中に魔族が入ったまま作り替えるわけにもいかないからな」
人間が入っている可能性というのは知ったことではない、人間の領地に近いとは言え、魔族領にあるのは間違いないダンジョンに入ってきたのはそのパーティの問題だ。死ぬ可能性はあるが、そこは映さないので問題無い。見ている側だって映らない部分には興味がないはずだ。
バタンと音を立ててブレインが出て行くのを見送った。割と察しのいいやつで助かるな。案外優秀だし、何なら俺を召喚しなくてもアイツがなんとか出来るんじゃないかと思うくらいだ。
とはいえ、アイツにダンジョンの改造は荷が重いな。そこは俺がやるしかないのだろう。
結局、設計のブループリントは書物入れにしまって既存のダンジョンの一つを投影して考える羽目になった。次の配信は様子見でぬるめのダンジョンにしてやるか。
俺はそっと目を閉じた、心地よい疲労感が湧いてきて意識はズズズと沈んでいった。
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