第5話「視聴者数を稼ごう!」

「ふーむ……」


 俺は魔王戦用部屋のデスクに突っ伏して悩んでいた、それというのもダンジョンの設計が上手くいかないのだ。


 コンコン


 ドアをノックする音が聞こえたので『入れ』と言う。ここに来るヤツなんてアイツくらいしかいない。他の連中は俺を恐れながらなおかつ信用出来ないということで滅多に来ない。来ると言えば俺を召喚した……


「魔王様、新ダンジョンの設計はどうですかな?」


 ブレインだ。コイツは割と平気で俺に接しているが、自分が殺されないと確信でもしているのだろうか? 結構な胆力だとは思うがたまには遠慮してもいいんだぞ?


「良くない、さっぱり進まんよ」


 配信の方もあのダンジョンに来た連中を追い返したり、最奥の部屋の景品を与えたりして誤魔化し誤魔化しやっているが、こんな方法が何時までも使えるはずもないので早いところ新ダンジョンも作らなくてはならんのだがなあ。


「魔王様、深く考えすぎでは? もっと入ってきた人間が一歩目で八つ裂きになるような分かりやすいダンジョンを作られてはいかがでしょう」


「お前なあ、確かにそういうものも作れるけど、それを作って人が集まると思うか?」


 シンプルに難易度を上げるのは簡単だが、そんなダンジョンに入ってきたいという物好きもいないだろう。人間が入ってこなければダンジョンを作っても意味が無い。それともう一つそれをやりたくない理由がある。


「俺は魔族の子供が見ても構わないようなダンジョンを目指してるんだよ」


 即死トラップとなるとどうしてもグロテスクなものになるからな、配信を視聴出来るカードを魔族のほとんどが持っている状態で惨状を流せばクレームが届きかねない。


「愚見を述べさせていただくと魔族は人間がどうなろうとそれほど気にしないかと思いますが」


 言いたいことは分かるがな。


「スポンサーへのイメージってものがあるだろう、まだ見つかっていないが、見つかったときに『過激なのはやめてください』と言われたら全部無駄になるんだぞ」


 難しい話だが魔族でも金持ちは結構我が儘だ。平気で俺たちにもたてついてくるので油断がならない、オマケに権力もそれなりに持っている。


 よくもまあ面倒な事を我ながらやっているなと思うが、魔王城の連中に給金を払ったらギリギリの生活からは抜け出したいしな。


「失礼しました。魔王様はそこまでお考えでしたか」


 ブレインだって考えていないわけでもあるまいに、俺に却下されたら即座に意見を曲げてくる。だからこそ平気で進言も出来るのだろう。


「水責めのトラップが作りやすいが、いまいち動画として面白くないんだよなあ……水没させるとデリケートなトラップに影響することもあるし」


「ふむ……では部屋を徐々に熱していくというのはいかがでしょう? 熱源は炎魔法で十分ですし、水責めよりもじわじわと人間を痛めつけられますぞ」


 なるほど、耐熱装備をしていようが暑いものは暑いからな。その部屋に入れておけば勝手に体にダメージが蓄積していくわけか。


「案の一つとして保留しておこう。スポンサー探しの方はどうなってる?」


 ブレインはやや狼狽しながらも答えた。


「いくつかの企業がダンジョン配信に興味を持っているようです。ただ……後ろ暗い企業が少し多いようでして、我々で応募企業の精査をしているところです」


 案外考えてくれているやつもいるようだ。しかし感心しない連中も応募してきたか、イメージ戦略としては間違っていないのでそういう企業が出てくるのも仕方ないな。


「スポンサー探しは続き任せる。俺は今あるダンジョンの改変をしておく、マンネリもいいところだからな。少しは刺激を与えないとな」


「ははっ! では失礼します」


 バタンと音を立ててブレインはドアの向こうに行った。さて、どんなダンジョンを作れば魔族に受けるだろうか? 一応要望は届いているのだが……


「流石に入ったやつの服だけを溶かすスライムは設置出来ないよなあ……」


 何故かそういった意見が多かったのだが、その意見に載ってしまうと誰でも健全に見られるダンジョンではなくなってしまう。それはマズい、全年齢対象の子持ち魔族にも安心してみせられるダンジョンを目指しているのだ。そんな一部には大絶賛されるだけのギミックを設置するわけにはいかない。


 ちなみに全身を溶かすスライムもあるが、そちらは視聴者に大変不快な思いをさせる可能性があるため封印している、危険の芽は早めに摘み取らなければならない。


 転がる岩とかどうだろうか? 召喚前にそういうギミックを見たことがあったが、あれは逃げ切れるのを前提にしているからいいようなものの、それを設置して潰される人間が出たらあまり見たくない画になるだろうな。


 それなら……トゲの床は、無理だな。人間はトゲの床に落とされたら死ぬ。連中の体は魔族のそれほど頑丈ではない。二回三回とチャレンジしてほしいこちらとしては、痛い目には存分に遭ってほしいが、死ぬようなことが遭っては困る。いい塩梅でいけるトラップは何か無いだろうか?


 ペラペラと『盗賊とトラップ史』という書籍を手元に収納魔法で取りだしてめくっていく。この本は効率的なトラップの仕掛け方が載っているので結構アテになるのだが、少々殺意が高すぎる。初手で『勇者でも殺せる! 罠の基礎』だからな。少しばかり強すぎるトラップが多いので、それをマイルドにして実装しなければならない。そのまま設置したら死者が大量に出るだろう。


 しかも歴史のある本だけあって、あまりにも回避の難しいトラップがずらっと並んでいる。確かに人間がトラップに引っかかってくれてもいいのだが、『引っかかるかな? お、かかるか?』というドキドキ感を大切にしたいので確定で殺せるようなトラップでは困るのだ。


 ふと、一つの項目が目に入ったので指を止めてそのページを読んだ。そこに書かれていたトラップはシンプルなもので、とても深い穴の上に分かっていないと踏み外すような足場を作っておくというものだった。これは使えるのではないか?


 穴の底を浅めにして、底に転移の魔方陣を設置し、落ちたらダンジョンの外へ排出されるというトラップはどうだろうか? 底が見えない方がいいので闇魔法で穴の底を見えないようにしておく必要はあるが、なかなかスリルがあるのではないか?


「とりあえず設置してみるか……」


 簡易ルートのボス部屋前に設置してっと……


 遠隔からダンジョンの仕組みを変更する。あっという間にいかにも危なそうな部屋が出来た。しかも人間達もこの部屋に繋がる道が安全だと知りつつあって、こちらを通ることが多いので突然部屋が追加されれば驚くだろう。


 部屋が完成したので俺は人間が入ってくるのを待つか。さっさと来てくれないかなあ。


 幸いにもすぐにダンジョン探索者がこの部屋に入ってきた。おそらくマッピングしてそれを売るのだろう、製図用のペンと紙を持っている。


 その部屋に入ると入り口の扉は消えて一方通行になる。そこで配信用のボードには目新しいものが設置され、それに挑戦する人間が現れたということで視聴者数は大きく跳ねた。


 その探索者は無事穴に落ちてダンジョン甲斐に排出される結果になったのだが、俺はなかなかの成果に満足したし、この本を少し値が張ったのだが買っておいて良かったと思った。

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