第9話 嘘を吐いた覚えはありません
麗華に対して募らせていた鬱憤を、気付いたらぶち撒けていた。
自分で思っていた以上に麗華への情が冷めているようで、スイッチが入ってからの俺は止まらなかった。
麗華には徹底的に拒絶の意思を示し、身体に触れてこようものなら振り払った。
そうして日を跨ぎ、翌日。
俺が登校する頃には、隣に麗華の姿はなかった。
「事実上はもう別れたって感じですか?」
「どうかな。まぁ、このまま時間が経てばそうなると思うけど」
ここ一週間くらいは、四六時中俺のそばに麗華がいたため、山野とはほとんど話せなかった。
昨日あったことをありのまま山野に伝えてから、俺はずっと彼女に聞けず終いだったことに触れる。
「それで山野は? 俺になにか話してないことない?」
「私が、彼氏に命令されて塩見くんと関係を持ったことですか?」
「お、おう。そうなんだけど、濁したり惚けたりしないんだ」
「彼から、塩見くんと接触した話は聞いたので。隠しても無意味かと」
随分とあっさりしてるな。
「山野は、天草先輩に言われた通りの行動をさせられていいの?」
「構いません。そうすれば、私は彼から離れられるので」
「離れられる?」
「彼は塩見くんのカノジョさんにご執心です。このまま上手くいけば、私は彼から振られます。ようやくお役御免になるということです」
「要するに、山野は天草先輩と早く別れたいってこと?」
「端的に言えばそうですね」
前に聞いた時は、恩があるから自分から別れを切り出すことはできないとか言っていた。
けど、別れたい気持ちはしっかりと芽生えているらしい。
「塩見くんを騙し、私のために利用してごめんなさい。言い訳にしかなりませんが、塩見くんがカノジョさんに酷い扱いを受けていたのは知っていましたし、相互で利益があると思ったので彼の命令には従ったんです」
「別に怒ってない。山野がいなければ、今も俺は麗華の召使いだった。むしろ感謝したいくらいだよ」
「そうですか。それなら少しは罪悪感が薄まります」
「ちなみに俺らの浮気関係自体はどう言う感じに……」
恐る恐る切り出すと、山野は本から目を離し微笑を湛えながら。
「塩見くんにお任せします。確かに私は命令されていましたが、塩見くんに対して嘘を吐いた覚えはありませんので」
「さいですか。じゃあまぁ……よしなに」
俺は頬のあたりを掻く。
山野は柔らかく微笑むと、読みかけの本へと意識を戻した。
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