第8話 カノジョへの恋愛感情は取り返しがつかないくらい冷めている
付き合い始めて七ヶ月の記念日にプレゼントを渡してからというもの、麗華の機嫌がすこぶる良い。
麗華はだらしなく頬を緩めながら、俺の腕にベッタリと絡んでくる。
「麗華。最近少し距離が近すぎないか」
「ん? 付き合ってるんだから当たり前じゃん」
「いやまぁそうなんだけど……一日中俺の隣にいない?」
「えへへ、嬉しいでしょ?」
つい先日まで俺に横柄だった麗華は幻覚なのかと勘違いしそうになる。そのくらい大きな豹変ぶりだ。
どうにも機嫌さえ良ければ、召使いではなく彼氏扱いをしてくれるらしい。
「ねぇ、なんで無視すんの。嬉しくないの?」
「え、ああ……嬉しいよそりゃ」
本音を言うと、別に嬉しくない。
やはり、麗華に対する恋心は冷めている。
「ねえねえハルくん。天草先輩ってわかる? ウチの生徒会長なんだけど」
駅のホームで電車が来るのを待っていると、麗華が突然そんな話題を放り込んできた。
そういえば、天草先輩と接触してから一週間は経っている。
「ああ有名だし知ってるけど、天草先輩がどうかした?」
「どうっていうか……なんか、最近やたらとあたしに話しかけてくるのよね。廊下歩いてる時とか、偶然すれ違うことが多くて。これまで特に接点もなかったし、ちょっと不思議っていうか」
「へえ……まぁシンプルに考えるなら麗華に興味があるんじゃないか?」
「あたしに興味? それおかしくない? だって天草先輩ってカノジョいるじゃん。ほら、ハルくんの隣の席の女の子」
「なら、生徒会長として下級生とも交流を持ちたいとかかな」
「あーなるほど。納得納得」
得心がいったと頷き、麗華は一層俺との距離を詰めてきた。
「ちなみに、さ……もしも、本当にハルくんが言ったみたいに、天草先輩があたしに興味持ってたらどうする?」
「どう? いや、どうもしない」
「は? 意味わかんない、なにどうもしないって! カノジョが他の男に狙われてたら一大事じゃん! そんなの普通見過ごせなくない⁉︎ あたしが天草先輩に取られてもいいわけ⁉︎」
「そうは言ってないだろ。でも、もし天草先輩に言い寄られて麗華が揺らぐならそれまでじゃないかな。麗華こそ、どうして俺がなにかすることを求めるの? 天草先輩に言い寄られても相手にしなきゃ良いだけの話だろ」
俺が言い返すと、麗華は一瞬戸惑いの顔を浮かべた。
反論してくるとは思ってなかったみたいだな。
「な、なによそれ……あたしがどうなってもいいんだっ?」
「そんなことは言ってない。歪曲するな」
「なんなの! なんかハルくんおかしい! は、ハルくんはあたしのこと大好きでしょっ?」
「麗華。お前どんだけ自分に都合がいいんだよ……」
唐突に、俺の胸の内に溜め込んでいたものが漏れ出た。
「記念日を忘れてたのは俺が悪かった。そんな毎月のようにお祝いするものだって認識なかった。けど、だからって……麗華の意にそぐわなかったからって、何ヶ月も冷遇されて召使いのように扱われて罵詈雑言だって浴びせられた」
「だ、だからそれは、ハルくんに気づいて欲しくて……」
「頭おかしいのか。それで気づくわけがないだろ。俺はもう麗華が好きじゃない。麗華を好きな気持ちを冷めさせるにはアレは十分すぎる仕打ちだったんだ」
「え、ちょ、ま、待ってよ! あたしそんな話したいわけじゃ!」
狼狽する麗華。
しかし俺の口は止まらない。一度開いたら湯水のように次から次へと飛び出してくる。
「俺は麗華の都合のいい王子様じゃない。全部、思い通りにはならないし、なれない」
「あたしそんなこと思ってない! 思い通りになればいいだなんて……」
「とてもそうは見えないよ。……少しは自分の言動や行動振り返ってみたら?」
「ま、待って。待ってってばハルくん!」
俺が歩き出すと、麗華は慌てて俺の後ろを追いかけてきた。
麗華に対して積もり積もった鬱憤。
別にぶち撒ける気は無かったが、気がついたら漏れ出ていた。
でもまぁ、俺と麗華の関係はかなり前から破綻している。
もう、どうだっていいか。
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