第7話 約束を守れるなら俺のカノジョはお好きにどうぞ

「そう言わないでよ。あ、そうだ。楓ちゃんは今後も好きにしてくれていい。それにカノジョと別れろって言ってるわけじゃない。悪い話じゃないでしょ?」


 柔らかい口調で、脅迫まがいのことをしてくる天草先輩。


 要約すると、天草先輩は麗華に対して好意があるみたいだ。

 だが、麗華には彼氏がいるため、迂闊には近づけない。正確にはトラブルになるのを避けたいのだろう。


 少しの沈黙の後、俺はゆっくりと口火を切った。


「正直、俺の麗華に対する恋愛感情は冷めているので、お好きにどうぞって感じではあります」


「ほんと? 話が早くて助かるなっ」


「でも、その前に少し確認してもいいですか」


「うん、いいよ」


 天草先輩は踊り場に放置されている椅子に腰掛け、足を組む。


 俺も天草先輩にならって近くの椅子に座った。


「山野に暴力振るってるというのはマジですか? 頬に絆創膏貼られてるんですけど」


「ヤダな誤解だよ。たまたま僕の手が当たっちゃっただけ」


「いや山野から聞いてるんですけど、彼氏から暴力振るわれてるって」


「んなこと話せとは言ってないんだけどな……」


 ポツリと吐き捨てるように言う天草先輩。


「事実ってことですか?」


「うーん……まぁ、楓ちゃんにも非はあるけど、事実ではあるね」


 最初こそ惚けてきたが、素直に認めてくる。


「仮にも、山野は天草先輩のカノジョですよね。俺と浮気するよう命令するなんて常軌を逸してませんか?」


「恋は一過性のものだと思うよ。僕はもう楓ちゃんに興味ない。今は、春太くんのカノジョに興味がある。ただそれだけ」


「だいぶクズですね」


「君が僕のことを非難できる立場なのかな?」


 まぁ、俺も天草先輩と大きくは変わらないか。


「それもそうですね。確認したいことは終わりです。天草先輩が、麗華のことを狙うのは好きにしてください。ただ、一つ俺と約束をしてください」


「約束?」


「麗華に無理強いしたり、脅迫まがいのことをするのはやめてください。もし、麗華に拒絶された時は潔く身を引いてください。麗華の合意が取れているなら浮気でも略奪でも好きにどうぞ」


「なんだそんなことか。了解。初めからそのつもりだから安心して」


 天草先輩は爽やかな笑みを浮かべると、すっくと席を立った。


「じゃ、僕はもう行くね。楓ちゃんはすごく都合のいい女の子だから、好きに使ってあげてよ。飽きたら捨ててくれていいから」


「はぁ……了解です」


 階段を降りていく天草先輩を目で見送りつつ、俺は肩の力を抜いた。


 とにかく情報過多だった。

 確かに、山野が俺に接触してきたのは不自然だったもんな。


 天草先輩からの指示があったとするなら、整合性は取れる。


(もうこんな時間か……購買まだ残ってるかな)


 俺は腕時計を一瞥してから。重たい腰を上げた。

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