第6話 頭のおかしい生徒会長

 今朝はコンビニに寄る時間がなかった。

 そのため、俺は昼休みを迎えるなり購買へと向かっていた。


 するとその道中、廊下の一端で人集りが出来ているのを見つけた。


 大勢の女子が、一人の男子生徒を囲っている。


「先輩、お弁当作ってきたんです! 一緒に食べてください!」

「わ、わたしも作ってきました! わたしのを食べてください!」

「抜け駆けズルい! あたしが先なんだから!」


 リアルでは中々目にしないモテっぷり。


 でもそれがウチの生徒会長──天草圭人あまくさけいと先輩だ。


 アイドルにも引けを取らない抜群のルックス。

 人当たりのいい笑顔が張り付き、声も澄んでいて、文武両道。


 どうしてウチのような平凡な学校にいるのか不思議な完璧超人だ。


(しかしあれが山野の彼氏なんだよな……)


 本人が言っていたから間違いないだろうけど、少し信じがたい。


 あの爽やかな立ち振る舞いからは暴力を振るう姿が想像つかないからだ。


(と、早くしないと売り切れちまうな)


 天草先輩の横を通り過ぎていく。


 すると次の瞬間、左手首を強引に掴み上げられた。


「あ、やっと来てくれた。待ってたよ」


「は? え……俺ですか?」


 星のエフェクトが出るような笑顔で、話しかけてくる天草先輩。


 あまりに突然の展開に、俺は動揺をあらわにしてしまう。


「うん。じゃ、場所移動しよっか」


「いや、ちょ、ちょっと……人違いしてません⁉︎」


 天草先輩は俺の手首を掴みながら、ずんずんと進んでいく。


 女子集団から鬱蒼とした視線を向けられる。だがそれが気にならないくらい、天草先輩の奇行に戸惑っていた。


 連れてこられたのは屋上扉の前の踊り場。


「はぁ……はぁっ……いきなりどういうことですか。どなたかと間違えてませんか」


「あはは、ごめんごめん。女の子に囲まれて困ってたんだ。それで君のこと利用しちゃった」


「はぁ……じゃあ俺はもう戻っていいってことですか? 早くしないと購買売り切れちゃうんで」


「んーん、ダメ。今言ったのは建前。僕はあそこで春太くんのことを待ってたんだ。ああして囲まれちゃったのは誤算だった」


 俺を待ってた?


 生徒会長で、色々と目立つ存在だから俺が一方的に認知していたけど、面識はないよな?


「待ち合わせした覚えないですけど。てか、なんで名前知ってるんですか」


「そりゃ知ってるよ。だって春太くん、かえでちゃんと寝たでしょ」


「は?」


「だから楓ちゃん……あー、山野楓って言った方がわかりやすい?」


 俺を混乱させる展開が続きすぎて、頭が痛くなってきた。


 たらりと頬に汗を伝わせながら、上擦った声で。


「一体、何のことですか。山野のことはクラスメイトですし知ってますけど、寝たとかそういうのは言っている意味がよく……」


「惚けなくていいよ。だってアレは僕が命令したんだし」


「は?」


「春太くんと寝るように、僕が楓ちゃんに命令したの」


 和かに笑みを浮かべながら、とんでもないことを言い出す天草先輩。


 俺はゴクリと生唾を飲んでから。


「な、なんでそんな命令をする意味が……大体、俺と天草先輩ってなにも接点がないじゃないですか」


「うん。接点はないよ。でも僕、春太くんのカノジョに興味があるんだ。あんな美人な子、そうそう見かけない。アレでモデルとか芸能活動やってないのは奇跡だよね」


「何が言いたいんですか……」


「端的に言うと、僕が彼女を狙ってもいいか了承がほしい。彼氏である春太くんが了承してくれるなら、後で面倒な揉め事になったりしないでしょ?」


 本格的に頭が痛くなってきた……。


 突飛なことが連発されすぎててオーバーヒートしそうになってくる。


「それ、断ったらどうなるんですか」


「想像に任せる」


「脅しってことですね」


「そう言わないでよ。それにカノジョと別れろって言ってるわけじゃない。楓ちゃんは今後も好きにしてくれていいしさ。どうかな、悪い話じゃないでしょ?」


 柔らかい口調で、脅迫まがいのことをしてくる天草先輩。


 俺は首筋を指の腹で掻きながら、重たく息を吐いた。

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