第4話 知らされた指輪の真実

 時は少し遡る。


 元婚約者に去られたウルフェン王子は呆然としていた。あんなにあっさり受け入れるとは。彼女の性格からして弁明しようとしたり、泣いてすがるかと思ったのだが。振り上げた拳をどうしていいのか分からない状態だ。


 そして参加者達も疑惑の目を向けている。ジェレミアが何故自分の恋人のことを知ったのか不明だが、罪状を読み上げて新たな婚約者のお披露目会が逆に糾弾の場になりそうだ。

 実際にはマリアと公然といちゃついていたのだから知らぬは本人ばかりなりなのだが。


 そんな彼の元に従者がやってきて小声でそっと耳打ちした。


「ウルフェン様。国王様があなたの部屋で急ぎの話があるそうです。至急部屋にお戻りください」


 この場に居ても針のむしろになるだけだ。父親にフォローされたのだと思って部屋に急いだ。


 しかし、彼の予想とは違う事態が待ち受けていた。


「馬鹿者! 私に一言も相談無しに勝手に婚約破棄をするな!」


「ち、父上。晴れのパーティーを台無しにして申し訳ございません。ジェレミアの悪行をさらし、新たな婚約発表のつもりが……」


 パーティーを台無しにされたから怒られていると思った彼は平謝りしたが、国王の怒りは別のところにあった。


「婚約破棄にも手順がある。破棄をしたなら直ちに婚約指輪を返してもらう必要があったのだ」


「え? それは正式な手続きの場で行えばいいのではないのですか?」


「あの指輪は特別だ。あれにはまっている石はトリプライトという石だ」


「それは聞いております。三つに割れやすいから願いが三つ叶うと言う言い伝えがあると。しかし、あれは割れていないから別の石かと」


「あれは本物だ」


「ならば今から使いを出して返して貰えば……」


「とうに使いの者を出している。割れやすい対策には、強化魔法をかけているから、今のところは割れない」


「ならば割れる恐れは無いですね。そんなに慌てなくても……」


「願い事が叶うのも本当だ。既に


「え?」


 ウルフェンはそんな機会があったのだろうかと訝しんだ。


「実はそなたが産まれた時、息をしていなかった。王妃は冷たくなっていくそなたを抱き寄せて泣きながら『この子を生き返らせて』と願ったのだ。その直後、トリプライトは光り、そなたが生き返ったのだ」


 初めて聞く話に衝撃を受けた。自分が難産だったとは聞いていたが、トリプライトのおかけで生き返ったとは。


「王妃は感謝の気持ちをこめて強化魔法をかけて指輪にした。『この指輪はこの子の未来の王妃に託して』と言い残し、そなたが三歳の時に亡くなった。王妃の遺志を継いで指輪をジェレミアに贈ったのもそのためだ」


「母上、そんなことが……」


 ウルフェンが涙をこらえていると、国王は続けた。


「だから、


「そうなりますね」


「愚か者、まだ気づかぬか。突然婚約破棄されたジェレミアが恨みを持ってそなたの死やこの国の不幸を願ったら叶ってしまうかもしれないのだ」


「え……」


「婚約者のエスコート無しで参加して、唐突に破棄を言い渡されたのだ。プライドの高いバイト家のことだ。恥をかかされたと恨みを持ってもおかしくはない」


 そう言われてやっと彼は事態を飲みこみ、震え声で王に抗議した。


「なぜ、教えてくれなかったのですか、父上」


「晴れの舞台に婚約破棄を発表するとは誰も考えぬからな。婚礼の儀のあとに知らせるつもりだったのだ。

 あれは強い願いに反応する。わしも手に入れた時に『豊作になるように』や『交易が成功するように』と私が願ったものは叶わなかった。国の政より后の子どもを想う母の強い想いに反応したのだ。だからジェレミアが強い恨みや憎しみで願ってしまったら……」


 国王が皮肉をこめて説くとウルフェンの顔色は真っ青になっていった。国が滅ぶ、自分が死ぬとはパーティーの前には思いもよらなかったことだ。せめて恋人以外の誰かに婚約破棄の件を相談していれば防げたかもしれない。しかし、手遅れだ。


「では、では、ど、どうすれば」


「早馬の帰りを待つしかない。指輪を回収できればなんとか安心だからの。お前への叱責はまた改めてする」


「俺は、俺は……なんてことを」


 ウルフェンは恋人の存在もパーティーのことも考えることができなくなって、へたり込んでしまった。

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