第2話 精霊のお仕事

『改めて自己紹介すると私の名前はトリプラ。この宝石の精霊』


「はあ」


 にわかに信じがたいが、喋る以上は本物だ。


「精霊が宿る指輪、確かに国宝級ですね」


『それだけじゃないけど、今は説明をする時間がないわ。婚約破棄なんて恥をかかされたから勘当されたりしない?』


「トリプラ様、心配してくださってありがとうございます。その通り父は勘当するでしょう。とりあえず、家に婚約破棄の知らせの使いが来る前に早く帰って家出の準備をします。自衛できるだけの魔力はあるので、手持ちの宝石を持ち出せばしばらく旅はできるでしょう」


『そう、既に決意しているのね。それからトリプラ様じゃなくてトリプラでいいわ』


 全く一人ではないのにジェレミアは安堵した、返していたらトリプラと話ができなかったからこれで良かったのかもしれない。


「トリプラ、もしもこの指輪が王家に返されたり、壊れたらどうなるの?」


『壊れたら私は消滅。王家に戻されたら私と話せなくなるだけ。三つ願いを叶えたらしばらく眠りにつくから目覚めるまではただの石になるわ』



 もしかしたらとジェレミアは思い出したように尋ねた。


「もしや、この指輪の石はあなたの名前にもなってるトリプライト?」


『そうよ』


「ひぃっ! トリプライトに似せた別の石と思って普通にダイヤやルビーみたく扱ってたわ。本物のトリプライトなんて割れやすいと言われる石なのに、なんてものを指輪に! これじゃあなたが早く消滅してしまうじゃない!」


 そう、この石の名前の由来は3つに割れやすいからという単純なもの。こんな指輪にしたらあっという間に壊れるはず。


『あ、そこは王家が強化魔法かけてるから大丈夫よ。理由は長くなるからあとで』


「よ、良かったぁ」


『ほら、早く家に戻るのでしょ。安心する前に馬車まで急いで。家から持ち出すものでも考えておきなさい』


 そうだった。急いで馬車のもとに着くと御者が不思議そうな顔をしている。


「ジェレミアお嬢様、パーティーはまだ終わってないのでは?」


「気分が悪いから早く抜けてきたの。早く休みたいから急いで馬車を出して」


 なんとか誤魔化し、馬車に乗り込む。


 私はこれからを考えた。勘当される前に家を出よう。旅に出るなら自衛魔力はあっても貴族令嬢では犯罪に巻き込んでくれということになる。裕福な商人の令嬢あたりに扮しないとならない。お忍びに使ってた平服を使うつもりだが、それでも立派過ぎるかもしれない。

 そのへんは幼馴染であり、乳兄弟でもあるメイドのスピネラが詳しいだろう。彼女の服を借りるのもありだ。やはり資金はいるから宝石類も必要だ。


 そして、もう一人の幼馴染のであり、スピネラの兄でもある護衛騎士のローレンがボディガードをしてもらえたら嬉しいが、この時間にローレンを呼び出して事情を話せるのかと不安になった。


『ほら、着いたわ。まだ使いは来ていないから急いで!』


 トリプラの声で我に返る。そうだ、まずは両親を欺いて部屋に戻り、身支度しなくてはならないのだ。


「ジェレミア?! まだパーティーは終わっていないのでは? 何があったのだ?」


「お父様……。そうなのですが、緊張のあまりか具合が悪くなってしまって。スピネラ、薬湯と部屋に持ってきてちょうだい。それから『青い石』も」


「かしこまりました、お嬢様」


 よし、なんとか誤魔化したジェレミアはホッとした。部屋まで小走りにならないスピードで歩いて向かう。支度は恐らく三十分くらいが限度だと考えた。


「気分が悪いというにはいやに動きが早いな?? それに王子の婚約者としてのお披露目会でもあるから、具合悪くても退場するなと言い含めたはずだが」


 父親は当然ではあるが、怪しみだしていることにジェレミアは気づかなかった。

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