賠償
三日月 青
賠償
わざとではなかった。
一般車道にしては少しスピードを出し過ぎていたとはいえ、俺のせいではない。
よくありそうな事件だった。急にピンク色のゴムボールと女の子が飛び出してきたのだ。死物狂いで急ブレーキを踏んだが、手遅れだった。
それでも幸いというべきか、俺には財産も、目撃者もいたため、過失犯とはならずに済んだ。俺に非はありながらも、不運な事故として処理され、金を払い、遺族に謝罪をして、その事件は幕を閉じた。
しかしその後、俺は罪悪感に悩まされた。
あの子はこれから明るい未来が待っていただろうに。
事故とはいえ、俺が殺してしまったのだ。
それでも前を向いて、せめてもの償いをしようと思い、今まで以上に他人へ、特に、幼い子供へ親切に接した。
自分で思うのもなんだが、俺は責任感が強かった。事件後はひたすら亡くなってしまった女の子への贖罪に専念した。
ある日、昔の友人に、何故それほど他人に献身的なのかと問われた。問われた俺は、過去の事件について語った。申し訳ないことをしたという思いや、それから日々、せめてもの償いのつもりで児童施設へ寄付したり、自分を戒めていることなどを淀みなく語った。
事件後、何回か聞かれたことのある質問なので、同じことを繰り返した。
俺の話しを最後まで聞いていた友人はやがて、複雑な面持ちで口を開いた。
「それは償いになってないよ。その女の子のお墓に日々お参りに行ったり、遺族と顔を合わせたりしているならまだしも、他のことに専念しているなんて。償いは被害者にすることであって、赤の他人にすることじゃない。だから君の場合、一生背負うことなんだ。償いはできない。」
俺は唖然とした。そんなことはない、俺の行動は償いになっていたはずだ。
沈黙を反論と受け取った友人はなお、話を続けた。
「たとえば、ある人が足元を見ずに転んでしまい、前の人のぶつかってしまったとする。しかし、前の人は気にせず行ってしまい、その人は誤り損ねた。そこで、たまたま横を通りかかった人に詫びることで、ぶつかった本人に誤った気になっている。そこで、また足元を見ずに走り始める。君がやっていることはそういうことだ。」
スピード違反を見張っていた警察の友人は、罰金を受け取りながら男に話した。
賠償 三日月 青 @mikazuki-say
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