第3話 帰れたなら


「なかなか恐竜出てこないな。なぁ、どこにいるとか分からんの?」

『把握してません』

「肝心なところで頼れないんだよなぁ」

『……』

「でもでも。本当にすごいと思うよ、こんなの作って。すごいリアル!フィトンチッドとマイナスイオンを感じちゃったよ」

『ありがとうござます。衝動に任せた結果です』

声に、はにかんだ様子が窺えた。

「へぇー、衝動に任せてもこんなすごいものができちゃうんだ?」

『違います。衝動に任せた、から、出来たんです』

「勢いで作ったんだよね?」

『勢い、大事です。衝動があるってことは、溢れるほどエネルギーがある状態ってことです。

それは、計画を立てて精緻に組み立てていくのも大事ですが、何かを生み出すのにエネルギーはあるに越したことはありません』

「そういうものですか」

『はい』

衝動はエネルギー、か。モノ作りをしない人間としてはない発想だ。私は全然モノを知らないなぁ。

『着きました』

「え?」

『この先です』

目の前には、洞窟の入り口がぽっかりと空いていた。


「で、どう思う藤岡ちゃん?何事もなく辿り着けると思う?」

「ムリじゃないかな?さっきも罠張るぐらい知能あるみたいだし、逃げ場のない洞窟で確実に捕食するつもりじゃないかな?」

「なるほど。じゃ、中で待ってるパターンと、洞窟入った後に入り口を塞ぐパターン」

「塞ぐパターン。より確実に逃げられない方を選ぶと思う」

「わかった。まあ、帰還場所は奥なんだし逆に好都合か。じゃあ、藤岡ちゃんが先に洞窟入って。オレが後ろを警戒するよ」

「了解」

そうして吉田君は銃を両手に構え、私はアイテムボックスからカンテラを取り出して左手に持ち、洞窟の中に入っていった。

しばらくカンテラの灯りだけを頼りに真っ暗な中を歩いていくと、前方でカタッと小石が転がるような音がした。

視認しようと、そちらにカンテラを向ける。

「違う藤岡っ!後ろだ!」「え?」

振り返ると、私に跳びかかっているヴェロキラプトルが視界に映りこんだ。

ずどぅーーーん!

ストロボを焚いた様な閃光の後、銃声が洞窟内に響いた。

光で視界が戻らない。耳鳴りもひどく音がまったくわからなかったが、今も私が無事だという事はきっと吉田君が撃ち仕留めてくれたんだろう。

ただ、何故ヴェロキラプトルは待ち構えていたのだろう。絶対入り口を塞ぐハズだと思ったのに。それに……あと、一体いなかった?

「……げろっ!」

徐々に耳と目が正常になっていく。

「逃げろ、藤岡!」

入口の方で吉田君がもう一体のヴェロキラプトルともみ合いになっていた。マスケット銃で必死で爪と牙を抑えている。

ヴェロキラプトルは洞窟内部と入り口とにそれぞれ一体ずついたのだ!挟み撃ちにして、より確実に仕留めるために。

「で、でも」

「いいから早く!俺もすぐ追いつくから!」

ウソだ。今にも爪が吉田君に刺さりそうだ。今すぐにでも食べられそうだ。そしたらまた滝つぼからやり直しになってしまう。今度は吉田君一人で。

何より、一緒にここまで冒険してきた吉田君を置いていくなと、言っている。

私の中の衝動が、彼を助けろと、耳元で叫んでいる。

私に冒険しろと、唆してくる。

私は肚をくくるとカンテラを地面に叩きつけて両手で銃を持つ。漏れた油に引火して、ゆらゆら揺れる火はさっきよりも明るく洞窟内を照らしだした。

「吉田君っ!!ここから無事帰ったらさ!」

「なんだ!?」

私は銃を構えた。

「私と結婚してっ!!」

「は!?」

私は目を閉じると祈るようにして引き金を引いた。あらぬ方向へ向けて。

引き金を弾くと、しばらくしてストロボのような閃光と、銃声が鳴った。

ギュワッ!?っと、ヴェロキラプトルが悲鳴をあげてたじろいだ。

私は目を開けると、すぐさま吉田君に駆け寄り、マスケット銃を振り上げてヴェロキラプトルを殴りつけた。

私は私の銃の腕を信じてない。もみ合いになってる吉田君に当てない自信がなかった。

だから、より確実な方法を選んだ結果、こうなった。

殴り飛ばされたヴェロキラプトルは吉田君から離れた。

「ナイス、藤岡!」

吉田君はアイテムボックスと素早く呟くと、指で操作してパラシュートを取り出した。

「これでもくらえ!」

パラシュートに絡まったヴェロキラプトルは藻掻きながらも、なかなか抜け出せないでいた。

「こっちだ!」

「うん!」

私は吉田君に手を引かれながら奥に進んだ。


私たちは洞窟の奥に不自然な部屋を見つけたので中に入った。中に入ると

『お疲れさまでした。帰還を開始します』

と、声が聞こえてきた。

「ねえ、吉田君。さっきのセリフってフラグって立ちそう?」

「え、さっきの?ああ、いや、死亡フラグは立たないと思うけど……なあ、本気?」

「本気」

「……なあ、とりあえず、藤岡ちゃん。一緒に佐賀の観光地巡りから始めよっか?」

「 うんっ!!」

色々忘れてるような気もするけど、今日ぐらいはそれでもいいや!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

観光には向かない場所 dede @dede2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ