第12話 『影炎』
〈ゴーデル視点〉
この化け物が、公爵令嬢だと?
そんなこと、聞いていない。
まず、俺がマフィアを設立したのは、何となくだ。
ただ、俺には居場所がなかった。
ルベル王国にはスラムがあり、俺はそこで生まれた。
毎日飯をあさり、大人からは暴力を振るわれる日々。
そんな生活から抜け出したかった。
転機が訪れたのは、7歳のとき。
この国では、7歳になれば誰でも教会で『鑑定』を受けることができる。
極まれに、平民からも強いスキルを持った人や、多数のスキルを持っている人が見つかるからだ。
そして、俺も強いスキルを持っていた。
それは、『剣術』、『体術』、『支配』、『魔力感知』。
これらのスキルを持っていたことで、俺は一躍良い扱いを受けた。一時は貴族から養子縁組の話が出るほどに。
しかし、そんな話もすぐに立ち消えた。
貴族が俺の出自を聞いて、取り消したらしい。
理由は、俺がスラム街出身だから。
俺は、絶望した。
俺だって同じ人間なのに、生まれが悪いからって差別されるのか。
同時に、貴族への怒りや憎しみが湧いた。
俺を下に見やがって。
いつしか、俺は貴族に一矢報いたいと思うようになっていた。
それから、俺はスラム街の連中にも腫れ物を触るような態度を取られるようになった。
強いスキルを持っていると知って、復讐されるのを恐れたらしい。
俺はそんな空気が嫌で、スラムを出た。
そして、しばらく魔獣の森で魔獣狩りを行った。そうすれば、強くなれると聞いていたからだ。
そして、数年後にスラムに戻ったとき、俺の存在は忘れられていた。
それはそうだ。ここの連中は、その日のメシさえ確保できないことが多い。知り合いが数日後に死んでいる、そんな場所だ。自分のことで精一杯なのに、他人のことを気にしている余裕なんかないだろう。
再びスラムに居座るという考えもあったが、やめた。
そんなことでは、貴族の連中に一泡吹かせられない。
そこで考えたのは、マフィアを作ること。
今この王国ではマフィアが勢いづいている。
大きなマフィアは、下手な貴族よりも権力を持っている。
しかし、俺にはマフィアを設立するノウハウがない。
どうするか……そう考え込んでいたときに出会ったのが、俺のマフィアの初期メンバー。
全員スラムで生まれ育ち、俺と同じような経歴を持つ奴ら。路頭で迷っていたところをスカウトした。
みんな俺の考えに賛同し、倒した魔獣を売り払った金で、俺はマフィア『影炎』を設立した。
それから数年。
マフィア『影炎』は消えかかっていた。
原因は、暗殺業務が激減したこと。
この王国のマフィアの一つ、『ポルカ』は暗殺依頼を主に請け負っていたが、そこのマフィアにに目をつけられた。
俺達に依頼してくる者も減り、今後に迷っていた時。
大きな依頼が来た。
『公爵令嬢の誘拐』
単純に考えたら、無謀すぎる依頼だ。
公爵家と言ったら、貴族の中で一番偉いと言っても過言ではない。
もちろん警備も厚い。何度か『ポルカ』も暗殺者を送ったらしいが、全部失敗したと聞いている。
そこの一人娘をさらう?『ポルカ』でも無理なら無理に決まっている、そう思ったが。
上級魔道具の貸与、メイドへの推薦。
貴族からそのようなことを言われた。
大体、上級魔道具による魔法を防げる魔道具は、常時発動させていたら大量の魔石が必要になる。それに、人が防ごうとしても魔力量の関係で事前にわかっていないと無理だろう。
それに、メイドとして公爵家に潜り込めば、いつでも作戦が決行できる。
……いける。
そう思ったのは俺だけではなく、作戦に参加するメンバーもだろう。
だから、俺はその依頼を受けた。
今はそれが間違いだって思ってる。
俺は『魔力感知』を持っているので適性魔法である火魔法、風魔法、闇魔法を使うことができる。
それに、資金確保のために魔獣をたくさん狩ったことで、強くなったし、上級魔法も使えるようになった。
強さには自信があった。
なのに。
どうなってるんだ。
目の前の公爵令嬢に向かって、『影炎』初期メンバーであるオルティア――今はスレイだったか――と絶えず攻撃をしかける。
スレイも、上級魔法をいくつも持っていて、攻撃の合間にそれを使用している。
しかし、目の前の化け物には傷一つつかない。
風魔法『ハリケーン』で切り刻もうとしても、火魔法『地獄の業火』で燃やし尽くそうとしても、闇魔法『ブラックホール』で消し飛ばそうとしても。
何をしても、化け物は魔法の中心で微笑んでいるのだ。
どういう原理かわからない。
それに、この化け物はこの地下施設全体に結界をかけている。
俺達が上級魔法をいくつも放っても、周りに何も影響がないのがその証だ。
その分魔力は減っているはず、なのに。
化け物の魔力は減らないし、そもそも、元々魔力が少ない。
どうなっているんだ。
これは影武者なのか。
そもそも人間なのか。
全て夢なのではないか。
魔力が底を尽きたことで、倦怠感に襲われる。思わず膝をついてしまう。
だが、戦いをやめるわけにはいけない。
スレイがまだ戦っているのに、自分だけ休むわけには……そう思い、再び立ち上がろうとしたところで、化け物が、小さな口を開く。
「…そろそろいいかな?」
ゾッとした。
おそらく、スレイと二人同時に後ろへ下がったのは、人間としての防衛本能だったのだろう。
そして、次の瞬間襲ってくる、謎の重圧。
俺達は、地に伏せさせられた。
あまりの重さに、立ち上がることすらできない。
俺は今、生まれて始めて、心の底から恐怖を感じている。
「ねぇ、はなしを聞いてほしいんだけど、マ――」
化け物がなにか言っているが、聞き取れない。
俺の意識は遠ざかりつつあった。
あぁ、本当に、ツイてない人生だ―――
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