第11話 攫われた!


 スレイがメイドになってから1年たった。


 といっても、授業と魔獣狩りを繰り返し続けただけなんだけど。


 私は5歳になり、レベルはなんと93!

 

 ……1年でレベルカンストしないのかよ、って?


 レベルが上がりにくいの!ここまで高レベルになると!


 もう森の中腹あたりではレベルは上がらない。

 よって、今は森の中心付近で狩りをしている。


 中心付近の魔物は、とても手強い。

 当たり前のように高位魔法を持ってるし、罠を張っているときもある。

 私も一回瀕死になりかけた。聖魔法『リザレクション』で事なきを得たけど。

 

 そんな感じの魔獣狩りだが、意外と楽しい。

 強敵を倒したときは嬉しいし、あと一歩のところで逃げられると悔しい。

 まぁ、こうやって楽しめるのも私が強いからだろう。

 

 どれだけ魔獣を倒すのが簡単でも、油断はしないようにしないと。

 足をすくわれてはたまらない。もしかしたら、私よりも強いものがこの世界にはいるかもしれないし。





 まぁそんなこんなで過ぎた1年だが、今日は特別な日だ。


 だって、スレイが私を誘拐するのが今日だから。


 私は今スレイと同じ部屋に二人っきりでいるが、そんな素振りはない。


 だが、『読心』で心を読んでわかったことだ。

 だからこれは確実に起こるだろう。

 対処するよ、私がマフィア『影炎』の本拠地に行けるように。


 スレイはどうやって私をさらうかということも思い浮かべていたので、本拠地には行けそうな気がするんだよねー。


 スレイの作戦は、こう。



1、十時くらいになって、私が寝たら魔道具で屋敷にいる全員を眠らせる。


2、私が途中で起きないように精神魔法『スリープ』をかける。


3、部屋から脱出して私を本拠地に連れて行く。


4、私を依頼人に受け渡す。



 こんな感じらしい。

 魔道具はずっと持ち歩いていたようだ。

 横目でスレイを見る。

 そして、スレイがつけている小さいブローチに『鑑定』をかける。


『魔道具:睡蓮のブローチ

 詳細:精神魔法『昏倒』が込められている。

    効果は2日間(変更可能)

 範囲:使用者から半径三百メートル以内の生物(使用者を除く)(変更可能) 』




 すごーい…これが魔道具……。

 魔道具を見るのは初めてだ。

 いつか作ってみたいものである。


 まぁ、この魔道具も、スキル『状態異常無効』があったら効かないと思うし、大丈夫だろう。ゲームでは『昏倒』は『スリープ』の上位の魔法で、状態異常という扱いだった気がする。


 

 でも、私が起きていたら混乱するだろうし、寝たフリはするけどね。

 状態異常にかかっていることは鑑定すればわかるけど、スレイはスキル『鑑定』を持ってないみたいだし、他の魔道具も持ってないから大丈夫。多分寝たフリもばれない。









 そして夜になった。


「リエラ様、おやすみなさいませ」

「うん…」


 少し眠そうな声で返事をする。

 そして、私に近づき、私の額に手を乗せる。

 さらに、何かボソボソ呟き始めた。


 ……あ、これ詠唱だ。

 この世界の人々は、特別なスキルを持ってない限り魔法を使うには影響が必要なんだった。

 自分は『無詠唱』を持っているから忘れていた。


 そして、魔力が私を覆うのを感じる。どうやら『スリープ』をかけたようだ。予定通り。


 私は目を閉じる。寝たフリだ。

 すると、スレイは私の体を抱きかかえた。


 また、ボソボソ声が聞こえる。魔道具を使うのにも詠唱がいるのか。大変だな。


『スリープ』の詠唱は数秒だったけど、魔道具の詠唱は中々長い。大体一分くらい。

 多分、それだけすごい魔道具ということだろう。


 スレイは私を抱えたまま、何かを呟きながら走り始める。

 そして感じる浮遊感。

 窓から飛び降りたのか。


 でも、着地の衝撃はあまり感じない。

 目を閉じてるから鑑定できないけど、スレイの魔法適性は確か、風と地、精神だったかな?

 地魔法で衝撃を地面に吸収したのか、それとも風魔法で落下速度を着地前に緩めたのか…わからないけど、魔法の参考になる。

 なかなか他の人が使う魔法を見る機会がないからね。



 スレイ再び走り始めたが、速度を緩める素振りはない。

 このままアジトに直行か。

 ちなみに、走ってるけど、揺れが少ない。これは暗殺者だからなのかな?足音もない。すごく快適。



 数十分間走り続けて、ようやく止まった。

 と思ったら、下り始めた?

 どうやら階段を降りているらしい。

 悪役の本拠地って地下にありがちだよね。ここのマフィアもそうなのかも。



 数十段階段を降りて、立ち止まる。


「久しぶりだな、今はスレイって名乗ってるんだったか?」

「そうよ、でも無駄話をしている暇はないんじゃない?

 公爵家に出入りしている者に気づかれたら大変だから、早く戻って『昏倒』を解きたいんだけど」


 私は目を開ける。

 スレイと話しているのは、大体30歳前後に見える男性。

 背が高くて、顔が厳つい。190センチはありそう。

 体型はヒョロっとしてる?でも、多分強いと、魔力を見たらなんとなくわかった。


 ちなみに、スレイはそんなに背が高い方ではない。160センチくらいかな?この二人が並ぶと身長差がよくわかる。


「そうだな、じゃあ公爵令嬢を――」


 言いかけたところで動きが止まる。

 そして、バッと後ろに下がった。バックステップみたいな感じと言ったらわかるだろうか。

 私が目を開けて、男の方を見ていたからだろう。

 スレイはそんな男を不思議そうな目で見る。


「急にどうしたの?」

「……おい、『スリープ』を掛け忘れたのか?」


 スレイも、慌ててバッと私の方を見る。

 目が合う。

 とりあえず微笑んでみる。


「……何で」


 スレイが呆然とつぶやいた。

 そして、私から腕を離した。

 ……ちょっと、お姫様抱っこの状態から落とすのはひどくないか?

 受け身を取らなかったら痛いし、無様なので、重力魔法『重力操作』で宙に浮く。

 そして、クルンとひっくり返ってきれいに着地。


 スレイと男が、信じられないものを見るかのような目で見てくる。

 

「…その様子だと、掛け忘れた様子ではないな。

 悪いが、気絶してもらおう」


 そう言って、一瞬で私に近づき手を手刀の形にして、私の首めがけて振り下ろす。


 しかし、それを食らうような私ではない。


 その腕を掴み、背負投げ。


「ガッ……」

「ゴーデル!?」


 ほぅ、この男はゴーデルという名前なのか。覚えておこう。


 目を見開いて投げられたゴーデルを見ていたスレイだったが、すぐに正気を取り戻して、私に接近した。

 その手にはナイフが。

 そして、的確に私の喉を狙ってくる。

 …避けてもいいけど、ここは実力を見せるために、あえて―――


 ガキンッッッ


「………え?」


 首で受ける。


 しかし、私の首には傷一つつかない。

 当たり前だ。私の防御力をいくつだと思っていらっしゃる。

 VITが4桁ですよ。

 スレイもそこそこの強さはあるみたいだが、そんなにレベルは高くなかった。おそらく、暗殺者だから魔獣相手の戦闘をあまりしていないのだろう。

 一応人からも経験値は得れるらしいが、相当強い人を倒さないと経験値はあまりもらえないらしい。




 さぁ、実力は見せた。


 この人たちは、どう出る?



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