第10話 誘拐しに来た暗殺者



「謹んでお受けいたします」


 そう言って、目の前の暗殺者…そして私の専属メイドが頭を下げる。

 あ、名前を聞いていない。


「おなまえは?」

「スレイと申します」


 スレイさん、か。


 偽名だな。


 だって、鑑定に『名前:オルティア(偽名使用中:スレイ)』って表示されてるもん。

 鑑定、便利。


 まぁひとまずはスレイと呼ぶことにしよう。



 そこからは、お父様に「部屋に戻れ」と言われたので、大人しく戻った。

 お父様とスレイは何か手続きをする必要があるようだ。

 

 さて、暇になったし図書館で本でも読もう。









 そして昼になり、スレイが図書館にやってきた。


「本日より、正式にリエラルオーティ様の専属メイドとなりました。スレイでございます。

 これからどうぞ、よろしくお願いします」


 挨拶に来たみたいだ。

 私は一旦顔を本から上げる。


「よろしく。わたしのことは、リエラって呼んでいいから」

「わかりました、リエラ様」


 …うーん、全然表情が動かない。

 まるで機械。

 さすがは暗殺者、といったところだろうか。おそらく、ここに来る前は他の場所に潜入したり、誰かを暗殺したりしていたのではないだろうか。いや、確実にそうだろう。


 表情からは何も読めないので、スキル『読心』を使う。


『誘拐するのはしばらく立ってからのほうがいいかしら。まずは信用してもらうところから始めないと。事を起こしたときに真っ先に疑われるのは、私だろうから…』


 あぁ、誘拐か〜。

 暗殺じゃなくてよかった〜、って、まぁどっちでもいいんだけど。

 てっきり私を殺しに来たと思ったんだけどなぁ。

 誘拐、誘拐か……。

 うーん……目的は身代金とか?

 でも、それなら公爵家の令嬢を狙うのはリスクが大きすぎる気が…。

 だって、この王国では公爵家って王族の次に偉いんだし。

 そこの子供が誘拐されたとなったら、国中に捜索願いが出されて、同時に大量の兵士を動かすことになると思う。

 大騒ぎになるような依頼を、マフィアが受けるかなぁ?


 まぁ、考えてもしょうがない。

 考え込んでいた間、スレイの心をずっと読んでいたが、どうやらスレイも依頼の理由などは知らないらしい。まぁ、暗殺者ってそんなもんか。


 先程心を読んでわかったように、まだ誘拐を実行するのはしばらくしてからのようだ。

 信頼関係を築く…どれくらいかかる?1年くらいあればできるかな?


 それまでは影精霊に影武者をしてもらおうかなぁ…。

 いや、さすがに授業があるなら受けといたほうが良いよね。

 じゃあ、授業がない日は森に『テレポート』使ってレベル上げしに行こっと。









 大体1ヶ月後。

 家庭教師による授業が始まった。


 ……意外と覚えることが少ない。まぁそう感じるのは私が前世、成人だったからだろう。

 普通の4歳児にとって、これは苦行に違いない。

 マナーに一般常識、この国の歴史、この世界の地理、数学、外国語、etc…。

 …貴族の令嬢って、大変なんだね。


 私的には内容は簡単だから大丈夫。

 というか、面白い授業も多いので、引き続き頑張って授業を受けたいと思う。


 そして、一週間に2日ある授業がない日は、精霊に影武者をしてもらって、魔獣の森へと出かける。

 もちろんレベル上げのためである。

 

 今日は森の中腹で狩りをする。

 ここらへんに来るのは初めてだ。もっと入り口付近で狩りをしていたし。


 やはりゲーム通り、森の中心に近くなればなるほど魔獣が強くなる。

 魔物の種類も、今まで戦ったことのある魔獣の上位種だったり、新しく見る種類だったり。


 私にとっては、この強さの変化も誤差だけど。


 サクサク魔獣の首を狩って、空間魔法『亜空間収納』に放り込んでいく。

 家出のときといい、本当にこの魔法は便利である。


 ただ、無限に中に入るとはいえ、売ることはできない。


 ゲームの知識によると、一応この国には冒険者ギルドがあるらしいが、私のような子供が利用できるわけがない。


 強い魔獣を持ってくる4歳児。

 怪しすぎる。


 というわけで、『亜空間収納』の中には魔獣の死体が溜まっていく一方だ。

 どうにかしたいけど、今はどうしようもないからな…。


 とりあえず保留にして、今は魔獣狩りに集中しよう。

 


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