第9話 2ヶ月後


 魔獣の森へと家出してから、約2ヶ月たった。


 そして、一ヶ月前ほどに4歳になった。



 2ヶ月で変わったこと?……レベル。あと、身長かな?

 大体1メートルくらい。まぁ、いざとなったら姿変えれるから別にさほど重要じゃないんだけど。


 いちばん重要なのは、レベル。

 2ヶ月前は16だったけど――


『レベル:63』


 2ヶ月前の約3倍。

 これは大きな進歩。だって、全ての基礎ステータスは今、4桁を超えたし。レベルが高くなるにつれて、レベルアップしたときの基礎ステータスの増え幅も大きくなるのだ。


 ちなみに、最初は魔獣の森の入り口付近で、人に見つからないように魔獣を狩っていたが、その付近で見られる魔獣は、弱い。多分レベルが低いのだろう。

 そのうち、レベルが全然上がらなくなった。

 よって、今は魔獣の森の中心と入り口のちょうど真ん中付近で狩りをしている。

 結構良い経験値稼ぎになるし、魔獣の強さもそこまでじゃない。

 まぁ、70レベルくらいになったら森の中心付近に近づいてみようかな?


 あ、そういえば、『祝福・加護・呪い』の欄にあった『神の応援』の効果がわかった。森に入って一週間ほど立ってから思い出して、鑑定してみた。

 それは、ステータスが全盛期の状態を保つこと。

 どうやら、最初からHPやMPの数値がすごかったらり、スキルの数が異常だったりしたのはこれのおかげだったようだ。

 基礎ステータスは含まれていなかったらしいけど。それでもありがたい。

 更にこの祝福?のすごいところは、スキルを封じたり、魔法を使えなくしたり、能力を減衰させたりする魔法やスキルの効果を消すらしい。

 つまり、私はどんな攻撃でも弱体化しないということだ。

 すばらしい。

 この祝福らしきものをくれた神様に感謝しようと思う。



 さて、本題だ。

 今は、真夜中。具体的には、朝の2時くらいである。

 そして、私は公爵邸に戻ってきている。

 今まで、私の影武者がどんな生活を送っているのか、精霊の『感覚共有』という魔法でずっと観察していたのだが。

 昨日、動きがあった。



 それは晩餐のこと。

 2ヶ月間、あまり姿を見せていなかった両親と食事をとることになった。

 しばらく沈黙を保っていたが、もうすぐ食事が終わるというところで、お父様が口を開いた。


「お前が倒れたことで先延ばしにしていたが、明日、お前の専属メイドを決めようと思う」


 やっと!私にメイドがつく!

 前からほしいと思っていたんだよねー。

 何故かと言うと、スキル『鑑定』でメイドたちを鑑定していたら、称号に『ルベル王国の諜報員』とか、『ベナティア家所属の暗殺者』とかあったんだよね。

 そして、公爵令嬢につけるメイドに、戦えない人がなるとは考えにくい。

 十中八九、暗部の人が護衛兼メイドになるはずだ。

 私はスキル『暗殺術』を持ってるし、観察させてほしい。



 寝ているフリをしている影精霊に声を掛ける。

「かえったよ」

『…おかえりなさい。今日帰るって言っていたものね』

 急に帰ってきたらびっくりすると思って、昨日のうちに連絡済みだ。

 来ているネグリジェを脱いで、私に着せるように頼む。

 すると、影精霊は、人形への憑依をやめて、目の前に出てきた。


「おつかれさま。ずっとみてたけど、かんぺきだったよ。

 なにかご褒美、いる?」


 記憶を覗いたからといっても、人のマネを完璧にするというのはなかなか難しいことだ。

 しかし、この子は2ヶ月間、公爵邸にいる誰にもバレることなく、私になりきってくれた。

 影精霊は少し驚きながらも、悩み始める。

 そして、少し間をおいて、つぶやくようにぽつりぽつりと話し始めた。


『…なら、あなたの影にしばらく住まわせてくれないかしら。

 影精霊にとって、魔力の多い影に潜むことは心地が良いし、精霊としての格が上がる。

 だって、あなたの影はドラゴンよりも魔力が多そうに見えるもの…』


 まじか。

 ドラゴンよりも魔力多い…さすが真ボスのスペックだ。

 というか、そんな簡単なことでいいのか。

 もちろん、すぐに了承する。


 私はネグリジェを着せられ、ベッドに横たわる。ちゃんと体は清潔にしてるよ。生活魔法『クリーン』で毎日キレイにしてるし、水魔法で一応体を流してきたし。


 ちなみに、ここまで帰ってきた方法は、出ていったときと同じ。こっそり窓から入ってきた。

 もちろん誰にも見つかってない。

 『気配察知』を使っていたし、精霊と『感覚共有』して、私の部屋の周りに護衛以外がいないことも確認済みだったし。


 少し手間だったけど、これからは大丈夫。なぜなら、レベルが上がって、空間魔法『テレポート』を使えるようになったから!


 いや、一応公爵邸にいたときも使えたんだけど。しかし、あの頃はレベルが低すぎて、5メートルくらいしか移動できなかった。

 レベルが上がった今では、いったことがある場所で、直線距離十キロメートル以内なら転移可能!

 まぁ、長距離の転移が可能になったのは森の中で、可能になってからいったことのある場所しか転移できないようだったから、一回帰る必要があったけど。


 メイドだけつけてもらったら、一度森に帰ってまたレベル上げしよっと。



 それにしても、明日が楽しみだ。

 だが、寝ないのも体に悪いし。

 影精霊が私の影に沈んでいったことを目で確認して、私は瞼を閉じた。








 おはようございます!

 現在、朝の七時くらい。時計がないから正確な時刻がわからん。


 あ、時計自体は存在すると聞いている。

 大きな時計が王城にあるらしい。

 また、作れないことはなさそうだ。だって、この世界の時計は『魔道具』という、魔力で動く道具だと聞くし。

 しかし、時計作成はコストがすごいから、あまり作る人がいないそうだ。

 たしか私のスキルに『魔道具作成』というものがあったし、図書館の本に『錬金魔法』という魔法も書かれていたから魔道具は作れるはず。

 いつか時計も作ってみたい。もっと作りたいものはあるけどね!


 さぁ、今日もジルカの先導で食堂に向かう。

 感覚共有で見てはいたけど、ここを通るのも久しぶりだ。

 

 食堂にはお母様とお母様はいない。おそらくもう朝食を済ませたのだろう。

 急いで、しかし上品に食事を摂る。

 マナーの授業はまだだけど、専属メイドをつけてもらって少ししたら始まる気がする。

 心の準備をしておかないと。



 ちょうど朝食を食べ終わる頃に、両親がやってきた。

 

 後ろにたくさんのメイドさんを引き連れて。


 うわぁ…数えなくてもわかる。これ、軽く五十人を超えてるんじゃない?

 よくこんなに人を集めたね…まぁ、公爵令嬢の侍女ともなれば給料はいいだろうし、当然のことなのかも。


「この者たちは、他貴族によって身元を保証されている。

 よって、この中から専属を選ぶと良い」


 とお父様が言って、メイドさんたちは全員頭を下げる。


 一人ひとり鑑定をかけていく。

 …やはり、戦えない人はいないようだ。ほとんどの人が暗部に所属している―――あ。


 この人にしよう。



「お父様、この人にします」



 私が選んだのは、大体二十歳くらいに見える、黒い髪に緑色の瞳の女性。

 そしてこの人は――


『称号:マフィア『影炎』の暗殺者』




 私が待ち望んだ、マフィアの関係者。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る