第8話 家出?


 魔獣の森に出かけてから数日後。


 レベル16になって、できることが増えた。


『現在の基礎ステータス

 STR:198

 AGI:213

 VIT:90

 INT:392

 DEX:220 』


 強くなってるよ…!!!

 一桁だった頃から比べたら全然違う。

 例えば、魔法を出せる範囲が広くなったし、威力も上がった。

 試しに窓の外に雨を降らせる。

 すると、雨雲が上空に発生し、雨がふりはじめた。

 といっても、公爵邸の一部くらいしか降ってないけど。

 でも、大きな進歩である。

 それに、チカラも強くなった。

 本を十冊くらい持てるくらいに。

 ……たくさんの本を持って歩く幼女。絵面がシュール。

 まぁ誰かに見られるわけでもないからいいんだけど。


 さて、これからやることはもう決まっている。

 というか、準備はできている。


 後は夜を待つだけなのである。





 今日も公爵夫妻と夕食は別。

 ジルカは申し訳無さそうにしているけど、気にしてない。

 風呂などを全て済ませて、ベッドに入ると、「おやすみなさいませ」と私に声をかけてからジルカが退室する。

 そして、足音が遠ざかっていった。


 さぁ、行動しよう。


 まず、『気配察知』『探索』を使用して、人がこの部屋の周りにどれくらいいるかの確認を行う。

 ……扉の前に二人、天井裏に一人。昨日と一昨日も一緒だった。

 あ、天井裏の人は暗殺者じゃないよ?公爵家の暗部の人。1時間ほど私を見守る係である。

 だから1時間は大人しくしとかないと。

 

 1時間後。

 よし、暗部の人がいなくなった。

 早速ベッドから身を起こし、空間魔法『亜空間収納』を展開。

 この魔法はとても便利。先日本を見て習得した。

 無限に収納できる上に、中に入っているものの一覧を見ることができる。


 その『亜空間収納』の中から、先日夜中にコソコソ屋敷を調べ回って見つけた黒色のローブを引きずり出す。

 さらに、先日夜中に(略)見つけたハサミを出し、ローブの裾を切る。

 大人用だから長いのである。


 …よし、いいくらいの長さになった。

 そしてそのローブを着用。

 

 よし、準備は整った。

 一応『亜空間収納』の中身一覧をみて、持っていくものが全てあるか確認。

 ……全部揃ってるね。


 あとは、スキルと魔法を使うだけ。


 まず、気配を『隠蔽』で隠し、魔力も隠す。

 で、色彩魔法『カラーチェンジ』で自分の髪と瞳の色を変える。

 元々黒色の髪に紫色の瞳だったからなぁ…全然違う色にしたほうがいいだろうから、銀色の髪に赤色の瞳にしてみよう。

 自分が今どんな感じかわからないので、部屋にある姿見で自分の姿を見る。

 …うわぁ、ファンタジーっぽい……。けど、さすが公爵令嬢。めちゃくちゃ似合ってる。

 じゃあ色はこれでいいや。


 そして、影魔法『ドッペルゲンガー』で私そっくりの影人形を作り出す。しかし、これは色がついていない、真っ黒な人形なので、色彩魔法『着色』で色を付ける。

 おお、私そっくりだ。

 人形は裸だったので、私がローブを着る前に着ていたネグリジェを着せる。

 よし、これが私の影武者。


 あ、そういえば、何をするのか言ってなかったかもしれない。


 私は今夜、家を出ます。


 

 といっても、私がこの家からいなくなったら大騒ぎになるだろうし、そうなったら国中に捜索願いが出て、すぐに捕まりそうな予感がした。


 そこで私が考えついたのは、影武者を置いておくこと。

 しかし問題は、そんな人材は周りにいないということ。


 それならば、作ってしまえば良いのだ!


 というわけで、数日間魔法について研究し、この影武者人形を生み出したのである。


 だが、このままではただの人形。動かないし、すぐバレるだろう。もしくは死んだと思われるかも。


 それも解決済みである。


 召喚魔法『影精霊召喚』を使う。

 すると、目の前に魔法陣が出てきて、さらにそこから黒い人型の精霊が出てきた。


『あなたがわたしをよんだの?』


 頭に幼い声が響く。これはおそらく、目の前の精霊の声だろう。


「そうだよ。時間がないから早口で言うね。

 まず、わたしの記憶をのぞいて。で、その記憶のとおりに、わたしのフリをして生活して」


 端的に説明する。

 精霊には下位、中位、上位に主に分けられているんだけど、私のレベルで呼べるのは中位精霊まで。

 たぶん、目の前のこの子も魔力の大きさから中位だと思われる。

 それでも、本によると、十歳児並みの賢さはあるみたいだから、理解できるはず。


『…わかった。記憶をのぞいたよ。

 あなたとわたしの性格もにてるし、できると思う。

 そこのお人形、使っていいんでしょ?』

「もちろん」



 よしよし、大丈夫っぽい。

 精霊が人形に入って、動き出すのを見守ってから、私は窓を開ける。


 家出の経路は、空だ。

 今のレベルだと、重力魔法で飛べるのは十分くらい。

 一度街へ行く必要はあるが、『隠蔽』もかけてあるし大丈夫だろう。


「がんばってね」

『いってらっしゃい』



 影精霊に見送られて私は窓から飛び立つ。





 さらば公爵邸!




 私は自由だ!

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