第3話 失望の晩餐


 さて、ステータスの隠蔽が終わったところで、今後のことを決めなくては。

 そう思い、まずは隠蔽スキルをオフにする。すると、全部の文字が再び表示された。あれ?ずっとオンにしとかないといけないのか?と思ったが、ほとんどの文字が灰色になっている。なるほど、灰色の部分は隠蔽で隠したところらしい。確かに、全てのステータスが見たくなったときにいちいち解除するのは面倒だもんね。

 その後、ステータスパネルを消す。なんとなくスキルの発動はつかめた。もう一度ステータスパネルを表示する。…やはり、声に出す必要はないらしい。確認を終えたら再び消した。


 今後のこと、ねぇ……。

 できること、あるか?外にも出られないのに?

 もし今の私が弱ければ、部屋の中でステータスを鍛えるのもいいかなって思ってたんだけど…強いし。

 まぁとりあえず、侍女でも呼ぶか。


 ベッドから降りて、サイドテーブルに置いてあった呼び鈴を鳴らす。

 少しして、廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。


 バタンッッッ


「リエラ様!お目覚めになったんですか!?!?!?」


 この人はジルカ。私についている侍女だ。

 ちなみに専属侍女ではない。専属侍女はもうすぐ決めると公爵―――お父様が言っていた。

 この人はあくまで一時的な私の侍女。

 それにしても、少しびっくりした。すごい勢いでドア開けるし、大声出すんだもの。

 

「あたまいたいから、しずかにして…?」

「あ、すみませんリエラ様。頭をお打ちになったんでしたね。他に痛いところはございますか?」

「とくにない」

「そうでしたか。ならば、お父君とお母君にリエラ様がお目覚めになったとお伝えしに行きますね!」

「うん」


 ジルカが部屋から出ていく。


 そういえば、私は頭を打ったんだっけ?

 でも、全然痛くないんだよね。

 さっき痛いって言ったのは、声がうるさかったから静かにしてもらうためだ。別に本当に痛かったわけじゃない。

 何故だ……あ、そういえばHP満タンだったな。

 スキルにも、継続回復とか言うものがあったし、それのお陰で治ったのかも。ありがたいことだ。


 

 しばらくすると、ジルカが戻ってきた。


「晩餐なので、ご案内します」

「うん」


 どうやらお父様とお母様はすでに食卓についているらしい。

 ジルカの後ろで長々とした廊下を歩くと、大きな扉の前で止まる。ここは公爵家の食堂だ。

「リエラ様がご到着なさいました」

「うむ」

 扉の向こう側から低い男性の声がした。おそらくお父様だろう。


 そして、ジルカによって扉が開かれる。

 部屋の中には長い食卓、そして豪華な服を着た二人。私のお父様とお母様だ。

 とりあえず席に向かう。

 ジルカが椅子を引いてくれたので、座る。


 しばし無言。


「……リエラ、目覚めたのだな。良かったぞ」

「心配したのよ」


 静かな部屋に響く二人の声。


「…ありがとうございます」


 ……なんだろう、この違和感は?


 あ、そっか。私はもっと心配されてると思ってたのかも。愛されているなら、部屋に来てくれるし、もし仕事が忙しいなら、食堂に入った瞬間に抱きつかれたりするのかと思ってたんだ。

 だが、実際はそうじゃなかった。

 意識を失ってたのに、こんな淡白な反応。

 もしかして…。

 いや、愛されていないと決めつけるのも良くない。

 愛の形は人それぞれって言うしね。

 まぁ、それを確かめるすべはない――いや、あるかも。

 こんなスキルを持ってたんだった。


『スキル、読心』


 心のなかで使用する。

 するとどうだろうか。

『……か……』

 ……すごい、何か聞こえてきた!


『死ななくてよかったな。この子は王太子の婚約者として使おうと思っていたからな。何としてでも婚約にこぎつけねば――』


 スキルをオフにする。

 ……心が急に冷めていく感じがする。

 なるほど、この人たちは私のことを政治の道具だと見ているわけか。

 確かに言われてみれば、ゲームの行事などでも公爵夫妻が学園に来て、リエラと会っているという描写はなかった。それは、ヒロインをいじめるためにずっとヒロインの後をつけて、機会を伺っていたからだと思っていたが、本当に学園に来ていなかったか、それとも他の偉い人たちと喋っていたか、そんな感じな気がする。

 ……そっか。なら、リエラは断罪イベント時に無駄死にしたわけか。

 いや、まだわからない。お母様の心は読んでないし。

 読心を使用。


『この子が死んだら後継ぎはどうする予定だったんでしょう?養子縁組も検討するべきかしら…』


 はい、アウト。この人も私を道具だと思っているらしい。

 …こんなひとたち、守る必要ないよね?





 結局晩餐は、ほとんど会話を交わすことなく終わった。

 リエラの過去の記憶をたどってみても、それはいつも通りらしい。

 そして私は、食堂でお父様たちに一つお願いをした。


 それは…図書館の使用許可。


 もちろん快く了承してくれたよ。

 本に興味を持つことは良いことだ。って言ってた。

 え?なんでこんなことをお願いしたか?


 アレの使い方を学ぶためだよ!


 アレって何かって?


 魔法だよ!


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