第2話 五年後

22歳だったはずの私は17歳くらいの姿になり、人里から少し離れた山の麓で薬剤師をやっていた。



薬草の匂いが充満した広い部屋を見て、ため息を吐く。



(考えてみれば、あれから5年も経つのか)



川に落ちて死んだはずが、目が覚めて、12歳くらいの子供の姿に戻っていたのだ。


通りがかりのクソジジイ……ではなく、薬剤師のお爺さんに拾われた。

珍しい薬の原料を探していたとかで辺鄙な山の奥にいたところ、私が倒れていたらしい。


その爺さんも先日亡くなった。


体を戻した代償なのか、剣が触れなくなってしまった。

剣に触れると目眩がして、視界が歪むのだ。


体だけ巻き戻ってしまった私は、剣術と無縁な人生を歩まざるを得なかった。

厳しいが知識のある爺さんに教わり、私は薬剤師になっていた。



コンコンという音と共に店に人が入って来た。



「リーシャ、胃腸薬を十個くれ」


「ハイハイ」



この料理人のオヤジさんは試作を作っては食べ過ぎてよくお腹を壊すらしい。



(試作を作るのやめればいいのに……まあ賄いをいただいている身で言えることじゃないけど。)



もともとは爺さんの知り合いで、爺さんの薬を気に入ってこんな山の麓まで買いに来るようになったとか。



「そういえば、鉄の王子がまた戦に行ったらしい」



鉄の王子とは、この国の第二王子のことを指す。私が騎士をしていた頃に護衛していた人だ。


噂によれば、既に二十歳であるのに婚約もせず、武道の道を極め、戦場に向かっては敵を徹底的に叩き潰す冷酷な人になってしまったらしい。


昔は護衛の私にも気にかけてくれる優しい人だったのに、今はもう成長して心身共に随分と違う姿になっているんだろう。



「なんで?」



そんな第二王子が戦場に行くことなどいつもの話なのに、毎回気になってしまう。



「東の帝国が荒れてて、その隣の国が助けを求めてきた……とか、なんとか客が言ってた」


「東か……」



東の国はこの薬屋の目の前の山脈を越えたところにある。

標高が高過ぎて山頂では夏でも雪が溶けないほどなので、東の帝国の人がこの山を越えて来たことはないが。



(殿下は無事だろうか?)



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