第3話 残業自慢

私はIT業界で働いている。システムエンジニアと呼ばれる職種である。

最近は「人気の業種」になってきたとの噂も聞くが、私が新人として入社した20年前はとてもブラックな業界だった。


何がブラックかと言うと色々あるが、やっぱり「残業」だろう。

定時内に終わる仕事量では無かったのも事実なのだが、この頃は

「いや~、先月は残業〇〇時間だったよ」という「残業自慢」なる物があったのだ。

今思うと…とても恥ずかしい発言である。「定時内に仕事が終わらない」という自分の無能さを堂々とさらしているだけなのに、あの頃は「残業している人=仕事が出来る人」という謎の方程式があったのだ。


悲しいかな私の住んでいる地域は東京や大阪と比べると田舎なので、そういった考えを持った人がまだいるのも現実だ。


残業が多いと、どうなるのか。

睡眠時間が無くなり、食事も偏り、ストレスもたまり、うつ傾向になるのである。

あの時代、多かれ少なかれ、うつっぽい感じになった人は多かったと思う。


「〇〇さんは『うつ病』なので気を付けて接して下さい」と注意喚起がある現場もあったぐらいだ。

うつは珍しくなかったので「病院通ってるんですか?」とか「何か薬とか飲んでいるんですか?」とか気にせず聞いたりしていた。今思うとある意味すごい光景である。


デリカシーの無い悲しい時代だった思うが、この時代があったからこそ今の時代があるのだろう。






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