第2話 状況説明
「―と。俺は別世界の人間でなぜかここに移動してしまったんですよ
時空連続体の超ひも理論によるグルブル位相転移だと思いますが」
「よし、つまり別の世界からきたってことか」
割って入り無理やり会話を切るようなセリフで俺の言葉を遮ったみたいでなんだか腑に落ちない返答だが
どうやら言いたいことは伝わったようだ。それにしても…
「なぜ言葉が通じるんでしょうか?時空間干渉による前頭葉の負荷に際した
最近判明したファレース硝液による相互認識の錯覚。ダーゴ循環でしょうか」
それなら合理的だ。だが幻覚作用による相互理解は机上の空論と言われていたが俺自身によって実証できたようだ。興味深い
そう考えている間に嘆息を吐いて恩人の人は口をついて
「あのさ、さっきからよくわからない言葉遣うのやめろ
もっとわかりやすくしゃべってくれない?」
「あー・・・すみません。悪癖でした。
要するにどうして知らない言葉がわかるのかわからないんですよね」
「別にどうでもいいんじゃないそんな事?」
「いえ、原因究明は必要です。どんな副作用を及ぼすか分かりません
この解を証明しなければ夜も眠れない!!」
「ならさっき君が言っていた睡眠薬調合すればいいじゃない」
「そーいう問題じゃないですよ!!知らないってことは怖いんですよ
だから対処方法がわからないと薬を用いても治りません!!」
「はえー、なんだ。知りたいじゃなくて知らないのが怖いのか」
「当たり前でしょ!!」
「私貴方をちょっと誤解してたみたいだ。知る為なら何を犠牲にできる気の触れた人かと思ってた」
「そんなオーディンみたいに殊勝な事できませんよ。俺は人間ですから」
「おーでぃん?」
「知識の神様です」
「ほー、神様はそっちの世界にもいるんだな。神様を知ってることは信者か何かでもあるのか?」
「いえ、一般教養の範囲ですね」
「あと、その敬語は地か?」
「いいえ、初対面の人に失礼のないようにしてるだけです」
「じゃー素に戻って、その喋り方むず痒いのよ」
「じゃ、遠慮なく…。はあ、いったい何がなんやらわかんねーな…」
ある程度会話をしていたおかげか落ち着きを取り戻した。エンドルフィンが脳をめぐる。だがそれにより現実を直視してしまう
今不安で不安でたまらない。機械が近くにない事実が怖すぎる。
何か、書くものはないか…。だが周りにはパソコンどころか物を書く紙も筆もない
俺は今何も持っていない。数式を方程式を書くためにはこのあばら家を鋭利なもので刻むしかない
だがもしこの家が彼女の家ならばそんな非常識なことはできない
俺は常識人だ。そんな突飛なことはできないが。
「あの…」
「何?」
「この家は君の家なの?」
「いんや。近くに合ったボロ屋だよ。こんな穴だらけの場所で住めるわけないじゃない」
「つまり誰の家でもない空き家?」
「うん。そうだけど?」
「あの、頼んでいい?何か尖ったものとかないかな?」
「尖ったもの?ナイフなら一応…」
「貸して!!」
「うお!?」
取り出されたナイフを奪うような形で取り即座に地面や壁に数字と文字を書く。
書かれた方程式は法則性も何もないが今ある知識で出来る範囲をやっておきたい。
「この状況を説明できるファクターよりも今現在俺が出せる理論とこの世界の法則性の齟齬の多寡。現行法則と既存方程式が理論として確立できるかの証明。俺が生き残れるための術の構築に研究用のラボの確立が最低限必要だ。別世界の異なる法則下によってもたらされる式と構成元素。原子という概念はあれど魔法というオカルトが絡んだ場合の式の変更点。既存法則に囚われる危険性の考慮。ファークライドの暗雲の証明はミスット数のバリド偏重であることの確認をしなければカタスの壁は突破できないしそもそも俺の記憶は確かなのか知識は間違っていないか事態も確認が必要で
ひたすらにただひたすらに数式を書きなぐりながら自身の正気と正確さを確かめる。
もう式を描くことでしか自己証明ができる気がしない
流石の俺も奇行に走っていることは自覚できるので奇異な目で俺を見ている視線を感じ取れる
あ、そういえば基本的なことを忘れていた。
「そういえば君の名前は?聞いてなかった」
「あ、ごめんごめん。私も忘れてたよ。私はクオーリア・ヴェンゼフォン。
クローリアで良いよ」
「俺も洋平で良いよ。悪いね。変なことをしてる自覚はあるけどこうしないと落ち着かないんだ」
「ああ、まあ知らない場所に飛ばされたら混乱するのはわかるよ。別に咎めはしないけど…洋平って錬金術師?さっきから術式や魔法陣を書いているように見えるしさっき言ってた金属関係だと魔法じゃない気がするんだけど…」
「まあ、近いね。と言っても錬金術なんて大仰なこと出来ないけど」
「洋平の世界にも錬金術は存在するのね」
「まあオカルト。迷信なんだけどね。でも俺はアリだと思う。科学のひとつと捉えているよ」
「カガク?洋平の世界の錬金術ってこと?」
「まあ分かりやすく言えばそうだね。錬金術は後世で嘘って言われてる。魔法もね」
「おかしな世界だなー」
「まあ世界ごとに法則が違うことは証明されてるから」
マルチバース理論における多元的過負荷反転現象。
ビッグクランチによる内包物質が伝播しそれぞれの系統樹に分かれる現象。
その証明は6=√55Rによって解はなされているが
言っても通じないだろうので言わないでおく。
それにその理論が証明されているという法則がこの世界で通用するかも疑問だ。
もしかして未知の法則と理論で構築されたらお手上げだ。
俺は知っている事しかできない。
唯一出来たのはメカニック技術くらいで本来なら出来た数式をメゲルガ大学に提出し推薦入学する予定がご破算だ。
「なんか…色々やべーことになってるな」
「あ、終わった?ならナイフ返してよ」
「ごめんごめん。ありがとね」
そう言って彼女のナイフを手渡して腰を落ち着ける
状況整理とルーティンによる整理が終わり気持ちも落ちつけた。
やはり科学方程式は正義。素数並みに信頼できる
そして興味深いのかクオーリアは俺が刻んだ数式とそれを証明する法則式を眺めている。
これはあくまで落ち着くためのもので正確な解がなされているかは不安ではあるので見ていても面白くはない。というか普通ならこんなものに興味は持たないハズなのだが
「へえ…よくわかんないけど整ったバランスのいい術式ね
魔法に転用できるかも…」
「え?クオーリアって魔法使いなの!?」
「そうよ?そういえば言ってなかったわね…」
どうみても旅人の服装にしか見えなかったので理解が及ばなかった
オカルトはある程度精通しているが彼女の所作で魔法使いだと看破できなかった自分が悔しい…!
「魔法。見たことないからわからないんだよな…」
「じゃあ見てみる?後学のために」
「是非!!」
最高の提案を出すクオーリアに即答で返事をした。
魔法。未知の力。それを科学的観点で構築する機会が訪れるとは
この世界に来てよかったことがひとつ増えた。
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