近所の幽霊マンションの話 (八百万物語 投稿時期不明)

近所の幽霊マンションの話

八百万物語 


例の呪いの写真を見て思い出したことがあるんでここに投げたいと思う。この件に関しては俺は傍観者でしかないから、あんまり怖くないかもしれない。書きながらなので話が前後すると思うし、気ままに読んでくれればと思う。


葛○の幽霊マンションって廃墟があるじゃん。都市伝説だとあのマンションから合わせて8人が飛び降り自殺をしたってことになってるんだけどさ、きちんと数えてないけど俺の記憶だと犠牲者はもっと多かった印象。でも、飛び降りたのはそのくらいかも。けど幽霊マンションなんて悪名がつく前は子供が多く住んでて、普通町内で1つだった子供会が、マンションで1つあったくらいだったよ。


うちの地元の話をすると、詳しくは伏せるけど子供を標的にした惨たらしい事件があったから、平均より防犯意識の強い地域だった。些細な不審者情報でもすぐ集団下校になったし。そんな中で、小3くらいの時に、さっき言った事件の犯人が釈放されて、あろうことか地元で目撃されたっていう噂まで流れ出したんだ。それからしばらくして市内の小学生が殺される事件が起こった。さっき言った事件のトラウマが根強く残っているわけだから、前の事件の続きだって思わない人はいなかったし、それで地域がとてもピリピリし始めた。


目撃の噂が流れた時は警備を強化することを渋っていた警察もさすがに危機感を覚えて、それ以来通学路がサミットかって思うくらい厳戒態勢になったんだ。警官や地域の人に監視されて息が詰まる登下校にも慣れてきたころ、学校へ向かってたら遠くでパンパンパンって音が鳴り響いた。当時の俺は銃声って気づかなかったけど、周りの大人は騒然としてた。

後からG田っていう幽霊マンションに住んでた同級生のお父さんがパトロールしてた警官から拳銃を奪って、G田と奥さんを撃った後に自殺してたんだって聞いた。誇張かもしれないけど、みんな頭に一発ずつって噂だった。俺は遠くにいたから見てなくて実際のところはわからないけど、確かに聞こえた銃声は3発だけだった。


G田の家は、親父さんが時間に融通の効く仕事に就いていて、学校とか地域の活動にも積極的に参加する人だった。マンションで独自の見回りパトロール隊が、G田父の呼びかけで編成されたくらい活動的なお父さんだった。もちろん、G田父の仕事も順調そうだった。

G田父がそういう人だったから、G田家も仲良さそうだったし、一家心中の心当たりなんてなかった。家庭の事情を外のガキが察せるはずもないし、本当は何か深刻な問題を抱えていたのかもしれない。


けどもっと不思議なのがさ、いくら至近距離とはいえ、何の経験もない人が、警察から拳銃を奪ったって言う緊迫した状況なのに、2回連続でヘッドショットを決めたってことなんだよね。


それが自殺ラッシュ(不謹慎だけど当時はそう呼んでた)のスタートだったと思う。しばらくしてから、マンションに住んでた家族が飛び降りたり失踪したりとかが続き始めたんだ。最初はそういう出来事の連続も人が多いからってことが片付けてたんだけど、しばらくしてからさすがにそこのマンションの住人だけってのはおかしいってことで、幽霊マンションって呼ばれ出したんだよね。


それでこの前ふと思い出したんだけど、マンションの掲示板に、例の呪いの写真が貼ってあったんだ。あの、浴衣を着て俯いてる女のね。あそこのマンションの友達の家行ったときに見てるんだよ。その上に「この女に注意」書いてあった。G田父の字だった。

G田父は地域活動に積極的なタイプだったから、そういう張り紙をするのもあの人らしいなと思う。

確かにああいう事件があった地域だから、保護者がそういう事件に神経質になるのも理解できる。でも今思えば、犯人が目撃されてからG田父のような一部の保護者達の怯え様は尋常じゃなかったと思う。本当はその事件の犯人とは別の存在に怯えてたんじゃないかって思うんだよな。


(メモ:ネット掲示板「八百万物語」で名作として語られる怪談。初出不明。2014年以降から確認される)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る