第30話 メイド

「ではうちのクラスの出し物は陰陽師らしく霊符書き体験です。普通の陰陽師も霊符書きの仕事に就かなければやらないらしいから、陰陽師からしてと新鮮だし、もし外部のお客さんが来たとしても楽しめると思うので頑張っていきましょう!」


 色々と議論が白熱して暴力に発展しそうだったが、山田がまとめてくれたおかげで霊符書きに落ち着けた。やっぱり山田はそういう所は優秀だよな。

 まあ人の情報を探っているところが女子から嫌われていてプラマイゼロぐらいの好感度なんだけどな。


「今日は少し遅くなったから、お開きにします。明日から少しずつ飾り付けや準備をやっていきます」


「義江さんは霊符書きやったことある?」


「ないわよ。私は陰陽寮で売られているものを使っているから一度も書いたことはないわね。そもそも霊符をわざわざ自分で書いて使っているのは、そういう家に産まれたのか、変人が多いわよ」


「へぇー、やっぱり霊符作るのが難しいの?」


「……いやそういう訳じゃないと思うわ。霊符は製紙する時に霊力を込めた紙に霊力を流しながら筆で書けば作れるから、作ること自体は簡単だと思うわ。でも霊符に刻まれている文字とか模様はかなり細かいから、それをわざわざ自分で書くよりは専門の人に任せた方がいいのよね。自分で書いても少し霊力の伝導率がよくなるくらいしかメリットがないから」


「霊力の伝導率は良くなるんだ」


「ほんの少しだけみたいよ。私はやったことないから分からないけど、家にあった陰陽師の本に書いてあったわ」


「ほんの少しねぇ……」


 喋りながら寮に向かっていたのだが、気づいたら男子寮の目の前まで来ていた。


 義江さんには悪いことしたな。学舎からは女子寮の方が近く、男子寮は少し離れたところにある。その代わりショッピングモールといった街には男子寮からの方が近い。


 寮があるのは学校の敷地内で街にいる陰陽師は入ることが出来ないから危なくはないと思うが、一応女子寮まで送るか。


「暗くなってきたから女子寮まで送るよ」


「悪いわよ。私が話すのに夢中で女子寮を過ぎたのに気付かなかったのが悪いんだから」


「遅かったじゃないか」


「雪乃さん」


 買い物から帰ってきたのか、雪乃さんは両手に買い物袋を抱えていた。


「雪乃さん?寮母さんかしら?」


「私はそこの晴明のメイドだ」


「メイドじゃなくて家政婦だろ」


「細かいことを気にする男は嫌われるぞ」


「メイド……」


 雪乃さんのメイド発言を聞いて義江さんは何も言わなくなってしまった。

 ふむ学校に忘れ物をしたような気がする。一度学校に戻るか!


「ごめん、学校に忘れ物したから一旦戻るわ」


「どこに行くつもりかしら?」


 ですよね。


 義江さんは俺の肩を掴み、俺をその場に留まらせた。俺の肩を掴んでいる義江さんの握力は俺よりも強いんじゃないかってくらい力強かった。


 これだけ握力が強ければ刀を上手く振れるんじゃないかと一瞬思ったが、刀は握力だけでなく全身の筋肉を使って振るから無理だなと思い直した。


「それで彼女は誰かしら?メイド?と彼女は言っているみたいだけど」


「メイドじゃなくてかせい――」


「私には違いがわからないのだけれど、これは私が馬鹿だからかしら?」


「い、いえ!そんなことありません。メイドも家政婦も同じ意味です!!」


 彼女の冷えきった声に背筋を伸ばして気をつけをしてしまった。その瞬間は気づかなかったが、よくよく考えれば敬語も使っていた。それだけ今の彼女は怖かった。


「それで彼女は誰なの?」


「さっきも言ったが、私は晴明のメイドだぞ」


「貴女には聞いていないの。私が聞いているのは貴方よ晴明くん・・・・


「雪乃さんは俺が高専に始めてくる時に車を運転してくれた人で、俺が寝たきりになった日に一緒に行動していた陰陽師の人だよ」


「それでなんで陰陽師が貴方のメイドをやっているのかしら?」


 ……なんでだっけ?確か雪乃さんが怪我をして陰陽師の仕事が出来なくなって、その原因が空亡の攻撃で、その空亡は俺を狙っていたから、雪乃さんが怪我をしたのは俺のせいってことになって俺が養うことになった……納得するか?俺だったら納得出来ないかもな。


「長くなりそうだから貴方の部屋で話しましょうか」


「でももう暗いから」


「晴明くんが送ってくれればいいわ」


「そうですか……」


 俺は義江さんに引き摺られるように部屋に連れ込まれた。ちなみに雪乃さんは引き摺られる俺を見ながら笑って後ろに着いてきた。


 メイドなら助けて欲しかったよ。


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