二章 文化祭
第29話 高専における文化祭
俺は学校に復帰出来たのだが、久しぶりに会った校長からは覇気が消えて優しげな先生という印象があった。
「元気になったか倉橋。私は十二天将をやめて学校に集中出来るようになったから、これから君らにやってもらう行事を増やしていこうと思っている」
十二天将を辞めたのか……何が原因なんだろうか?やはり覇気が消えたことと関係があるのだろうか、校長の身に何があればあそこまで変わってしまうんだろうな。
きっと空亡との戦いで何かあったんだろうけど……痛っ!なにか重要なことがあったような気がするけど思い出せない。思い出そうとすると頭痛が走る。きっと脳が本能的に記憶を閉ざしているのだろう。
「行事ですか?」
「そうだ。皆には言ってあるが、まず初めに文化祭をやろうと思っている」
「文化祭ですか?でもこの高専は新設だから一年しか居なくてちょっとつまらなくないですか?」
「それは皆に言われたが、文化祭は高校生にとっては大事な行事だからな、奪いたくないんだよ。だからほかの先生方と協議した結果、陰陽寮に掛け合って所属している比較的若い陰陽師たちに出し物をこの高専でしてもらうことになった。だから出し物に物足りなさを感じることはないと思う。あとはお客さんだが、陰陽寮は一般人を高専に入れるのは反対しているんだよ。私としては別に入れてもいいと思っているんだけどな」
「やっぱりここでは陰陽師の授業をやっているわけだから、外部に陰陽師の技術が流出するのを危険視しているんじゃないですか?」
「倉橋もそう思うか?だがわたし的には、この高専にある技術と言っても陰陽師においては初歩的なものが多いし、一般人に流出したところであんまり関係ないと思っているんだよな」
「でも陰陽寮は政府の組織な訳で一般人の武装化とも言える術の流出を許せないんでしょう。それにその技術をヤクザにでも売られたら、陰陽師の仕事にヤクザへの対策も追加されますよ」
「それもそうか……外部のお客さんは諦めるか……まあ身内でも楽しめればいいか」
職員室で校長との話を終えた俺は教室へと向かった。教室に入るとすぐに義江さんがこちらへ近寄ってきた。
俺の目の前に立っている義江さんの瞳は少し潤んでいるように見えた。しかしすぐに目を擦って潤んだ瞳から涙を拭いとって一言。
「貴方の身に何があったの!」
周りにいるうちのクラスの人達もこちらに耳を傾けていることから俺が寝たきりで学校を休んでいたのを知っているのだろう。ただ俺自身も自分の身に何があって寝ていたのかが分かっていないので、説明のしようがないので何を話そうかと考えていた。
「……話せないのなら話さなくてもいいわ。私は無理に聞きたい訳じゃないから」
「そういう訳じゃないんだ。ただ俺自身、自分の身に何が起こったのか覚えていないんだ」
「そうなのね……何か相談したいことかあったら私に相談してね。私はいつでも相談にのるから」
「あ、ああ」
義江さんはどうしたんだ?いつものテンプレツンデレみたいな義江さんはどこに行ってしまったんだ?今の義江さんはただの優しい女子高生じゃないか!そんなの義江さんじゃない……ってノリで思ってみたけどかなり失礼だな。
「……倉橋くん、なにか変なことを考えていないかしら?」
「いや考えていないよ」
良かった。いつもの義江さんみたいだ。
義江さんとの話をあらかた終えた頃、校長が教室に入って来たため、俺たちは席へと腰を下ろした。
「先週話していた通り、今週の放課後は陰陽師としての仕事は忘れて文化祭に向けての準備に使ってくれ。取り敢えずテーマだけは今週中に決めてもらいたい。早めにこちらのテーマを決めないと陰陽寮とのすり合わせが難しくなってしまうからな。ただ陰陽師の仕事がないからと言って陰陽師史といった授業が無くなる訳では無いから、しっかり受けろよ。私からは以上だ」
――一日の授業を全て終え、放課後になった。
「うちのクラスが文化祭で何をやるか決めようよ」
放課後の教室でAクラスを仕切っているのは、個性的なうちのクラスをまとめるために調整役をやっている山田だ。
「くだらない」
そう言って教室を出ていったのは近衛だ。
やっぱり近衛はこういう学校行事みたいなのをワイワイするのは嫌いなんだろうな。
「……一応今週中までだから、締切までには近衛にも消えておくよ。だから今日はこの場にいる人だけで色々意見を聞いていくよ。ちなみに俺はメイドきっ――」
山田が意見を言い終える前に女子生徒たちからのブーイングが教室に響き渡った。
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