第28話 家政婦
「どうして雪乃さんが俺の部屋にいるんだ?」
「雪乃?私は陰陽師としてはもう生きていけないから、家政婦として雇ってもらおうかなと思ってな」
「他にも出来る仕事はあるでしょ」
「聞いたところによると空亡という妖は君を狙っていたらしいじゃないか。だから君には私を養う義務があると思うんだ」
「……分かったよ」
それを言われると何も言い返せないからな。実際はあの日の記憶はほぼ無いに等しいのだが、雪乃さんが腕を失ったのは事実だし、俺がいる所に空亡が現れているのも事実だから否定出来ないんだよな。
しかし養うとは言ったものの学生である以上、学問を重視すべきなんだろうが、それでは二人分の生活費を捻出するのは難しい。俺はどうすればいいんだ……。
「そう深く考えなくてもいいさ。私は君の食事だったり掃除をしてあげるから、君はこの部屋に私を止めてくれればいいだけだ」
「それなら……でもその腕で、掃除は出来るとしても料理は出来るのか?」
「陰陽寮が用意してくれた義手がかなり優秀だから料理くらいなら出来るよ。まあ陰陽師として妖と戦うのは無理だけどね」
流石国営の組織だな。福利厚生もしっかりしている。まあ陰陽寮の要職を占めているのが皇族出身の名家が大多数ってのもあるか。一応明治時代の四民平等とは言われたが、華族、士族、平民と権利は同じだが呼び方は違っていた。戦後になってようやくそれも完全に無くなっていたが、上流階級への忖度は変わっていないからな。
確か雪乃さんや山田は名家出身ではないよな。高専の他の生徒は最低でも戦国大名の血筋と有名な人の子孫ってのが多いから、俺も含めて珍しい人間なんだな。まあ名家は政略結婚をして来て陰陽師としての血が強いから、陰陽師として大成するんだろうな。
「倉橋は……いやご主人様と呼んだ方がいいか?」
「
「……じゃあ晴明、私は買い物に行ってくる。晴明は来週月曜日から学校に登校できるらしいから、それまでは自宅待機だ」
「分かった」
雪乃さんは買い物に出かけたから、帰ってくるまで暇だな。取り敢えずリハビリでもしようかな。陰陽頭が言うには三日間寝たきりだったらしいから。
まずは霊力を廻す……以前に比べてかなり霊力量が多くなっていないか?だけど増えているから、霊力の使い方がかなり難しくなっているな。以前ほど素早く霊力を流せなくなっている。ただその分1回1回の火力は上がっているだろうから、使い方次第だな。
次は肉体方面だが、筋肉量はそこまで変わっていないか?いやそれどころか少し増えていないか。ただ筋肉も急に増えたから違和感が凄いな。取り敢えず筋トレでもして体に馴らすか。
「ただいま……ってめちゃくちゃ汗かいてるじゃないか。湯船は出掛ける前に入れてあるから、追い炊きして入ってきて」
「ふぅ、ありがとな」
湯船を入れてあるなんて用意周到だな。もしかして雪乃さんにとって家政婦は天職なんじゃないか?まあ雪乃さんは陰陽師として十二天将になりたかったみたいだし、なんとも言えないが。
でも寮のはずなのに個人の部屋にトイレとバス別、バスは電化、家具は備え付けと至れり尽くせりだな。それだけ陰陽寮は高専に陰陽師の育成をかけているんだろうな。軍人と違って陰陽師は武器を持ったからと言ってすぐに妖に勝てる訳では無いから、徴兵すればどうにかなるってものでは無いからな。
ふぅ、まだ1年も経っていないのに色々なことがあったなぁ。妖王に会って、体育祭をやって妖王に会って……もう1回妖王に会って……って流石に妖王に会いすぎじゃないか?今の時代でこれだけ妖王に会っているのは俺だけじゃないか?次に空亡と会うまでには妖王を個人で倒せるくらいまで強くなれたらいいな。
少し考えすぎてのぼせちまったな。
「いい湯だったよ」
「はい水。かなり長湯したみたいだから水分を取った方がいいぞ」
「ありがとう」
俺は雪乃さんから水の入ったコップを受け取ると一気に口の中に流し込んだ。キンキンに冷えていた水は、汗をかいて渇いた喉を一気に潤した。
「今から簡単な料理を作っちゃうから、ソファに座ってテレビでも見て待ってて」
「ああ」
包丁の音がキッチンからこちらまで響いてきた。まるで夫婦みたいだなとか一瞬思いかけたが、向こうは家政婦としてここにいるだけだと思い出し、煩悩を無くすために座禅をして料理が出来るのを待った。
「出来たぞ」
雪乃さんが持ってきた料理は白米に焼き鮭、味噌汁、そして小松菜の煮浸しと身体に良さそうな和食料理が並んでいた。
「料理出来たんだ」
「まあ一人暮らしが長かったから、これくらいは出来ないと体のコンディションを保つ事が出来なかったからな」
「なるほど」
確かに陰陽師は身体のコンディションも重要だから、一人暮らしの場合自分で食を考える必要があるのか。そう考えると家政婦が居るのってかなり楽じゃないか?
「じゃあ、いただきます」
「私もいただきます」
俺たちは一時の平和を満喫していた。
◇あとがき◇
この作品はフィクションです。
取り敢えず一章は終わりです。
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