第27話 土御門の血筋

 ――土御門貴将side


 倉橋という苗字を聞いた時から考えていたことだったが、やはり土御門家からの落胤であったか。

 安倍氏嫡流土御門家は倉橋家という分家を持っているため、落胤などは倉橋を名乗っていることが多い。ただ土御門家の血を受け継いでいるからと言って光属性の術を使えるとは限らないし、そもそも彼の霊力量で封魔殿は使えないはずだ。


 今はあいつらに逃げられてもいい。まずはこの倉橋くんの目的と保護が重要だな。


「倉橋くんとは初めましてだね。私は陰陽寮の長官に位置する陰陽頭である土御門貴将だよ。今の君は本能で動いているみたいだけど、何が目的なのかな?」


「……」


「問答無用ってわけかい?」


 倉橋くんは手のひらをこちらに向けて術を放ってきた。

 陰陽師になってまだ短いはずなのに霊符もなしで術を発動出来るなんて将来が楽しみだ。


「君の使っている術は私の家の術だから私でも使えるんだよ。それも高出力でね【光龍砲】」


 うむ。倉橋くんの術は完璧に相殺出来たね。これで出力でも負けていたら、私の立つ瀬がなかったから威厳が保てて良かったよ。


「【乱光線】」


 私は無数のビームを倉橋くんの体を狙って放った。このビームは全く霊力を込めていないから、当たっても傷つく事はないが、霊力の自由を奪う特殊な力を込めているから、当たれば流石に無力化出来るだろう。これでも無理だったら腕の1本や2本奪わなければならなくなるから、無力化されて欲しいな。


「……」


 ……倉橋くんにビームは当たったが、痛がる素振りは見せないな。だが霊力の流れは止まっているのか、術を使ってくる素振りを見せないな。今やるべきだな。


「ちょっと痛いから歯食いしばってね」


 私は一気に倉橋くんとの距離を詰めた。倉橋くんは私が術が使えなくなっている相手に近距離戦を挑んでくることは予想していなかったのか、驚いているみたいだ。

 そんな隙を私が見逃すはずもなく、その顎にアッパーを思いっきり叩き込んでやった。

 ガードをすることなくアッパーを入れられた倉橋くんは木にぶつかって気絶したみたいだ。ただ受身を取っているみたいで頭はぶつけていない。気絶の直接的な要因はアッパーによる脳震盪だな。


「【光治の輪】」


 私は醍醐と沢と倉橋くんを光の輪っかで包んだ。


「……沢って人は一命を取り留めたみたいだね。ただ腕を失ったことには変わりないから、陰陽師としてはきついかな。……問題は醍醐か。傷としてはお腹に小さな穴が空いていただけだから、塞ぐのは簡単だったが、丹田を貫かれているから完全に陰陽師生命は終わってしまった。他にも転移の術を持つ陰陽師は居るが、霊力が少なくて学生の移動を何回も出来るほど優れていない。どちらをとるかだな。学生の安全を守るために高専からの外出を禁じるか、高専の防犯性は下がるが陰陽師としての経験を積むためにフェリーの定期便を出すか……いや、今決めるべきではないか。十二天将との協議が必要で……いや先に醍醐の後任を……何連勤で終わるかな」


 陰陽頭は意外にも社畜である。



 ――倉橋晴明side


「……ここはどこだ?確か山で妖の討伐をやっていて、そこで空亡に会って雪乃さんが目の前で……っ!雪乃さん!!」


 俺は目の前で雪乃さんが死にかけていたのを思い出し、一気に身体を起こした。そしたら身体中に筋肉痛のような痛みが走った。その痛み方は筋肉痛に似たようなものだったが、痛みの強さは身体を動かすのが難しいほどに強かった。

 ただその痛みよりも雪乃さんの生死の方が大事であり、俺は雪乃さんを探すためにベッドから降りようとしたが、身体が思うように動かず落ちてしまった。


「目が覚めたかい倉橋くん」


「誰ですか?」


「やはり記憶が無いんだね。二度目になるが私は陰陽寮の長官に位置する役職【陰陽頭】をやらせてもらっている土御門貴将だよ」


「陰陽頭!?す、すいません。こんな体勢で」


 俺は失礼だと思いながら慌ててベッドへと戻った。


「気にしないで。君の事情は理解しているからね。それで君は何か聞きたいことがあるんじゃないかな?」


「雪乃さん……沢さんはどうなったんでしょうか?」


「沢って人なら君の部屋にいる筈だよ」


「えっ?」


 俺はその言葉しか口から出なかった。


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