第26話 秘術

 ――醍醐side


 確かに彼にとって酷になることを言ったかもしれない。私だって友達の雪乃を失いたくはなかったが、陰陽師である以上任務を取らなければならない、それが十二天将という全陰陽師の見本になる人間だから尚更な。


 なぜ彼は術を使えているのだろう?陰陽頭の術である【封魔殿】は妖王にも通じる強力な術のはずだが、それがまだ陰陽師になって1年も経っていない新人が突破出来るはずがない。もしそこのカラクリが空亡が倉橋を狙う理由となるのなら、ここで倉橋を連れて行かれたら人間は妖に対してだいぶ不利になるかもしれないな。


「いいじゃないか!やっぱり僕の思った通り強くなったじゃないか!!でもその力は人間が持っていても勿体ないよな。【転送陣】」


 やはり倉橋の霊力によって封魔殿の結界は解かれてしまっているか……。

 あの術は久我さんの腕を奪った妖を呼んだ術だよな?私にあの術は使えるのか?私の目視できる範囲で飛ばしたり、取り寄せたりは出来るが、見えないところから呼び寄せる術を使うとなればどれだけの霊力を使うのか見当もつかない。


「【封魔殿】」


 なっ!?倉橋がなぜ土御門家の秘術である【封魔殿】を使えるんだ!

 基本的に一族の秘術はその血統に結びついたものだから、他人が使うとなると深いところまでの理解と膨大な霊力が必要になる。今の倉橋が条件の二つともを満たしているとも思えない……しかし土御門家の出身だとも思えないが……。


「ちっ、ダルい術を使ってくんなよ」


「【光龍砲】」


 やはり土御門家の出身なのか……。


 倉橋の霊符から放たれた光の龍は空亡の右腕を食いちぎり、空へと飛んで行った。


「……まじであの時に仕留めておけばよかったと後悔してるよ」


 追い詰められているはずなのに空亡は焦るような様子は見せない。あいつはなにか奥の手でも隠しているのか?それとも援軍でも……。


「勿体ないから使いたくなかったが……【転送陣】」


 なっ!?結界が張られているんだぞ!?なぜ霊力を使用出来るんだ?それどころか大量に霊力を使うであろう転送陣を使うなんて……術の使用を止めなければ!


「土御門さん!」


「今の私に出来ることは無いよ。今から術を使用したところであの術を止めることは出来ないだろうし、無理に止めて術が暴走して妖が変なところにワープでもしたら二次災害が発生してしまう」


「今呼んだのはあの時とは比べ物にならないぞ」


「どうでもいい。死ね」


 今の倉橋には二次災害とかどうでもいいのか……。あいつの身に何が起きているんだ?あいつは元に戻るのだろうか。そんな考えが頭の中を巡って目の前の強敵であるはずの空亡に考えが割けない。


 倉橋の攻撃は空亡のお腹を貫いた。人間であればその場所には丹田があり、死ななかったとしても陰陽師生命は死ぬだろう。しかし相手は妖、しかも妖王だ。なにか対策をしている可能性は否定出来ない。


「わっちを呼んで……って腕無くなってるじゃない」


 二人目の妖王だと!?流石に土御門さんですら二人を相手にするのはきついはずだ。私は十二天将を相手取れるほど強くないし、倉橋は理性なく動いている今、協力するのは難しいはずだ。無理に私たちが手を出そうとすれば私たちが巻き込まれる危険性が出てくる……どうすれば。


「あの奥の女を狙ってくれ」


「その前に腕……分かったわよ【透牙とうが】」


 女は指を銃のような形にしてこちらに向けてきた。


 私を狙っているのか?だがなぜ私を狙うのだ、この中で一番戦力にならないのは私のはず、それにあいつらの目的は倉橋では無いのか?


 そんな考えを巡らせている間にもう1体の妖王は準備を終え、術を放ってきた。その術は私の丹田を貫き、私は意識を失ってしまった。


 暗闇へと落ちていく意識の中で私が考えていたのは『引退後は何をしようか』だった。


「計画は次に持ち越しだ。僕らに残っている時間は少ないが、まだ猶予はある。あいつの術さえ無効化出来ればまだチャンスはある」


「まあそれで空亡がいいのならわっちはどっちでもいいけど、わっちは――の襲撃は反対だから」


 そんな言葉を聞きながら、私の意識は完全に暗闇の中へと落ちていった。


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