第25話 任務
空亡が襲ったのは俺たちのところだけみたいだ。
空亡によって召喚された妖たちは久我先生によって討伐されたので特に問題は無いのだが、一番の問題は久我先生が陰陽師としての力の大半を失ってしまったことだ。
最後に残っていた特級の妖に腕を奪われてしまったことで、身体の中での霊力の巡りが悪くなり、全力で霊力を使うことが出来なくなってしまった。そして十二天将の式神を見に宿すことも出来なくなったので、久我先生は完全に十二天将を引退した。
その跡を継いだのは十二天将を除いた陰陽寮の最上位機関である陰陽介の中から選ばれたらしい。しかし十二天将の実力低下は避けることが出来ず、学生の育成過程を急ぐらしい。例にあげると多少の危険はあるが、俺たちは月に1回、島の外で妖の討伐に行かなければならなくなった。
そして俺はその討伐の任務に来ている。一応俺たちの身分は学生なので現役の陰陽師が付いてくれるらしいのだが、俺に付いてくれた陰陽師は、俺を車で連れてきてくれた
「あの時から数ヶ月が経ったか?だいぶ陰陽師らしくなったじゃないか」
「ありがとう沢さん」
「別にお礼なんて要らないよ。私は思ったことを言っただけだ」
沢さんも変わっていた。彼女の実力等は知らないので変化したかどうか分からないが、明確に変わっている点がある。それは彼女の額から瞼を通り、頬まで伸びる火傷のような傷だ。前回会った時はこのような傷はなかったので、俺が高専に入学してから今までの間に妖に付けられた傷なのだろう。
「ああ、この傷か?これは特級の妖を相手にしてしまって付けられた傷だ。私の実力で言えば特級を前にして生き残れただけでラッキーだったがな」
「その特級には勝てたのか?」
「いや、私の実力では傷を付けることが精一杯だった。だから私は死を覚悟していたが、たまたま通りかかった
「その陰陽介ってなんのことだ?」
「陰陽師の位だな。陰陽師は基本的に陰陽寮に所属しているが、陰陽寮に入ったら
だいぶ夢がある仕事なんだな陰陽師ってのは。俺も月1回の討伐で手当は貰えているが、基本的に三級以下しか討伐していないが、高校生のお小遣いにしては裕福と言える程は貰えている。これがトップクラスの陰陽師になれば特級だったり一級を討伐しているだろうから、億万長者なんだろうな。
来たな。俺の目の前に現れたのは禿げた頭にもじゃもじゃとした髪、鳥にしては短過ぎる嘴、背中には亀のような甲羅を背負った妖は伝説上の河童のような姿をしていた。しかし三級の妖なので術を持っておらず、尻子玉を抜くと言った伝説上の河童がやるような攻撃はしてこないはずだ。してくる攻撃は精々短い爪での引っ掻きだろう。
「一人で行けるよな?」
「当たり前だろ。【木鎖】」
俺は霊符を取り出し霊力を込めた。
俺の霊符からは
「【樹弾】」
そんな隙を逃すはずもなく、俺はもう1枚霊符を取り出し樹の弾丸を放った。回転しながら河童の頭部を狙う弾丸は頭蓋骨を貫き、妖は灰になって消えた。灰になる瞬間に妖の霊力が俺の身体へと入って来たが、それは微々たるものだ。いくら三級の妖を討伐し続けても久我先生たち十二天将に追い付くのは無理だな。
「あと数ヶ月で私を追い抜きそうだな。君の実力があれば陰陽介になれるはずだ。私にはなれなかった十二天将にもなれるかもな――」
俺は何か嫌な予感がして沢さんのことを吹き飛ばした。しかし俺の予感は嫌な方へも外れてしまった。沢さんは俺が突き飛ばしたせいで左腕が異空間に呑み込まれてしまった。
「沢さん!!」
「わ、わたしはだいじょうぶだ」
沢さんは腕を抑えて震えている。きっと出血多量でのショックによるものだろう。しかし今の俺には何も出来ない。
こんなことが出来るのはあいつしか居ない。
「空亡ォォォ!!」
「久しぶりってほどではないかな?でも今日は君を殺すよ」
「なぜお前は俺の前だけに現れる!」
空亡が初めて人間の目の前に出た時も職場体験の時も今回も共通して俺がいる時に現れてやがる。こいつは俺に何か思うところがあるのか?
「今から死ぬ人間が知る必要は無いよ」
「やっぱり倉橋の目の前に現れたな空亡」
「……これは罠だったって訳か」
「そういう訳だ空亡」
俺の背後から聞こえた声は校長の声だ。もう1人の声は成人男性のような低音ボイスではあるが、何処か空亡のことを舐め腐っているような声にも聞こえた。
「ちっ、今日も撤退だな」
「逃がすわけないでしょ。【封魔殿】」
男性が発動した術は俺でも分かった。全く霊力が言うことを聞かない、いや言うことを聞かないではなく丹田から出て来なくなってしまった。
この術がこの場にいる全員に適応されるのだとしたら、人間である俺たちの方が不利ではないか?
いや、そんなことより沢さんの傷を早くどうにかしないと出血死してしまう。
「校長沢さんの治療をしなければ死んでしまいます」
「……雪乃には悪いが日本を滅亡させる力がある空亡の討伐を優先する」
「ハッ?」
俺の丹田が急激に熱を持っているような気がした。その熱に身体が温められるような感覚に陥り、俺は気を失った。どこか朧気な意識で最後に見たのは光る自分の手のひらだった。
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