第24話 腕と足
霊符から飛び出した戌は久我先生の身体の中へと消えていった。
天空の力をその身に宿した久我先生は霊力に満ち溢れた鎧を身にまとい、その腕からは三つの爪が生えている。
その爪から放たれた攻撃は二級の妖を一撃で討伐し、知性のある妖たちを警戒させて知性のない三級以下の妖たちだけが俺たちの方へと襲いかかった。
「これならてめぇらでも自衛は出来んだろ」
そう言って久我先生は数十体の二級の妖と2体の特級の妖の方へと走って行った。
久我先生とは言え、複数の特級の妖と二級の妖を同時に相手取って勝てるのか心配になるが、俺達にはどうすることも出来ないので、自分の心配だけをすることにした。
「久我先生が言った通り、俺たちは自分の命だけを考えろ!」
体育祭で有名になった俺が叫ぶと他の生徒たちも顔を引きしめ、妖の攻撃に備えた。
「【木鎖】!」
俺は込める霊力の量を出来るだけ増やして、木鎖の発動範囲をかなり広げることに意識を向けた。そのおかげかかなりの量の妖を絡めとることに成功し、その隙を突いて他の生徒たちが仕留めてくれた。しかし木鎖の発動に意識を向けすぎたせいで俺を狙っていた妖に気付けなかった。
「【雷轟】」
俺の背後から飛んで来た雷の攻撃によって俺を狙っていた妖は一撃で討伐された。
あまりに強力な術にすぐには動けなかったが、慌てて振り返るとそこに居たのは賀茂さんだった。
「ありがとう賀茂さん」
「お礼言ってる場合じゃないよ」
「それは正論だな」
俺らがこう話している間にも他の生徒たちは命を懸けて妖と戦っているんだ。俺らがサボっていい理由はないよな。
そして時間を掛けながら俺たちは五から三級の妖たちを討伐していった。五級や四級は個人で当たり、やや強くなる三級は集団で当たることで誰も欠けることなく討伐しきることが出来た。
俺たちは少し離れたところで戦闘しているはずの久我先生のもとへと急いだ。
俺たちの目に入った光景は、ピンピンとした特級の妖が1体とかなり息が上がっている久我先生の姿だった。
しかし残っているのは特級の妖だ。そんな相手に久我先生は息が上がった状態で勝てるのだろうか?でも俺達には何も出来ない、それどころか足でまといにしかならないだろう。
「ハァハァ……ここにいるってことは討伐が終わったんだな。後はこいつだけだ。てめぇらは先に下山してろ」
「で、でも」
「俺たちは足でまといにしかならないから降りるぞ!」
声を上げたのは山田だ。俺は山田が食い下がろうとするのを無理やり引っ張って下山しようとした。
俺たちが下山しようとするのを邪魔するために妖が攻撃してきたような気がしたが、俺たちがダメージを受けるようなことはなかった。ただ背中に冷たいものが流れるような感覚がしたが、後ろを振り返ることはなかった。
俺たちは久我先生の帰還を山の麓で待っていた。
そして20分後久我先生は帰ってきた。しかし俺たちは喜ぶことが出来なかった。帰ってきた久我先生は右腕の二の腕あたりから先が無くなっており、全身血だらけで降りてきたのだ。
俺たちは慌てて回復出来るような術を掛けようとしたが、久我先生に止められた。
「失ったものは戻らねぇよ。おい醍醐、下手打った」
俺たちにそう言ったあとすぐに何処かへ電話を掛けていた。醍醐と言っているからきっと校長なのだろう。
そして電話が終わった瞬間、俺たちの目の前に校長は現れた。
校長は転移してきてすぐに久我先生の肩を掴み、何処かへと飛ばした。その行き先は病院なのだろうが、俺達には教えてくれなかった。
「何があったんだ?」
「実は――」
代表して俺が説明をしたのだが、話を聞いていくうちに校長の顔はしかめて行った。そして俺が話終えると校長は
「君らを学校に飛ばしたあと、私は他の生徒たちのところへも行くから、取り敢えず寮にいなさい」
そう言って、俺たちが言葉を発する前に学校へと飛ばされた。
俺たちが不甲斐なかったせいで久我先生が腕を失ってしまったのだと、俺たちは自分たちの力のなさを悔やんだ。
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