第21話 平安危機

 体育祭が終わった俺たちは普通の高校生みたいに授業を受けていた。

 国語や数学、英語に日本史に化学基礎、体育などの普通の授業にプラスして、この高専では陰陽師史という陰陽師に焦点を当てた歴史の授業が行われている。


「今日は陰陽師史最大の危機『平安危機』についてやっていくぞ」


 ちなみに陰陽師史の授業を受け持っているのは各クラスの担任だ。教師たちは陰陽師である以上、陰陽師史について詳しく知っていないといけないらしい。


「まず平安危機の概要だが、事の始まりは蘆屋道満の墮妖だ。墮妖とは人の身でありながら、妖に身を墮とす禁術だ。この術は本来存在してはいけないものだったが、蘆屋道満は安倍晴明への対抗心で作り出してしまったものだ」


 蘆屋道満はもともと優秀な陰陽師だったらしいが、とある妖との戦いで安倍晴明との圧倒的な実力の差を感じてしまい、その後は安倍晴明に勝つためには手段を選ばなくなったらしい。


「墮妖した蘆屋道満を陰陽寮はその術と共に消すことを安倍晴明に命令したが、安倍晴明はあと一歩のところで蘆屋道満を逃してしまった。そしてこれが平安京を地獄に叩き落とす」


 平安京……この時代の首都だな。昔の日本は危機が起こる度に何度も遷都をしていたため、有名なところ以外は分からない人が多いだろうな。まあ平安京はその都の中でも有名な方だけどな。


「妖となり、その危険度は妖王クラスの蘆屋道満は当時個々で活動していた妖王たちをまとめあげ、平安京襲撃を企んだ。その頃、蘆屋道満が妖王を纏めるのを占星術でうらなった安倍晴明は自分一人ではどうにも出来ないことを悟り、仲間を募ることにした。これが今で言う十二天将だ」


 占星術ってのは中国で行われていた占いのようなものだが、安倍晴明は占星術にも長けていたらしいから、それはもはや占いではなく予測なんだろうな。


「そして霊力が満ちる満月の夜、道満は平安京を襲撃した。道満は手始めに平安京に張られた結界を破り、陰陽師たちの動きを見るため妖王たちを平安京内に送り込んだ。そして十二天将が1対1で妖王に当たっているのを見て自らも平安京に入り、安倍晴明に勝負を挑んだ。この後は入学当初に言った通り、陰陽師側は第一、二、四席の妖王と蘆屋道満を残して残りの妖王は倒せたが、安倍晴明が力尽きてしまったことで十二天将たちも次々倒されてしまった。ただ安倍晴明が生前準備していた封印術で四体の妖を封印することで『平安危機』は陰陽寮が多大な犠牲を払い終結した。これが陰陽師史最大の危機である『平安危機』の全貌だ。ただこれは朝廷が書いた文献などがある訳では無いので全てが正しいとは言えないが、平安危機があったのは確かだろうな」


 詳しく聞いて思ったのは、平安危機後の平安京での治安はどうだったんだろうかという疑問だな。

 まず平安京に張られていた結界が破られている訳だから妖たちは平安京の中に容易に入ってくるだろう。しかし陰陽寮の最高戦力とも言えた安倍晴明と十二天将が死んだわけだが、どうやって都を守りきったんだろうか?


「せんせー!その後の結界がなくて戦力も少なくなった平安京はどうなったんですか?」


 流石山田だな。俺たちの疑問を代表して聞いてくれる。


「ふむ。色々な説があるが、1番信憑性がある説は何も無かったという説だな。その理由としては平安危機以降も平安京が首都であったのは確実だから何も無かったってのが通説になっている」


「他にも説はあるってことですか?」


「そうだ。有名どころを上げると人身御供による結界の再構築説だったり、無名の英雄説だったり、上げだしたらキリがないな」


 人身御供ってのは生贄を捧げるってことだな。まあ人は霊力の塊みたいなものだから、人そのものを捧げれば結界は作れるだろう。

 無名の英雄は大いに有り得るな。そもそも平安時代は今から1000年程前だ。それだけ時が経てば文献の一つや二つ紛失しているだろうし、安倍晴明の死という大きなニュースに隠れてしまったってのも有り得るからな。


「まあここら辺は陰陽師史の学者に任せておけ、諸君にもなる権利はあるが、才能のある君たちには基本的に前線に出る陰陽師になってもらいたいがな。まあ強制はしないよ」


 その言葉には圧があった。まあ俺は学者なんて柄じゃないから、陰陽師になるだろうけどな。


「では次は実戦訓練をやっていくぞ!」


 実戦訓練は座学より楽しいよな。まあ体力訓練も付属していることが多いからきついのには変わりないけど……。


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