第20話 体育祭決着

「上杉が戦闘不能で小佐々の勝利だ!」


 やはり小佐々が順当に勝ったな。小佐々の陰陽師としての実力は学年一なんだろうな……ただその才能が甲ではなく乙ってのが惜しい点だよな。


 次は俺の試合か。俺の相手の武田は上杉と同じように戦国時代の名門武田家の次期当主らしい。ただ武田は上杉と違って戦国時代の英傑武田信玄とその嫡男義信や勝頼は織田に敗北して亡くなっているため、その血筋は分家とかのものだろうな。


 その戦闘スタイルは武田の騎馬隊の名の通り、式神の馬を召喚して馬上からの攻撃で圧倒するような形だな。ただ戦国時代の武田の騎馬隊と違い遠距離の攻撃も馬上からしてくるため、その形態はどちらかと言うと伊達政宗の竜騎兵みたいなものだな。


「準決勝、第二試合は武田対倉橋だ!」


「……風林火山」


「よ、よろしく」


 こ、こっわ!?何この人、風林火山って小さな声でボソッっと言って終わりなんだけど!?こういう試合は因縁とかがない限り流石に挨拶とかするもんじゃないの?まあ風林火山を武田家が大事にしているのは分かるけど、それが挨拶代わりってこと!?


 ふぅふぅ……落ち着こう。単純にコミュ障なだけかもしれないからな。


「……ブツブツブツブツ」


 やっぱりコミュ障なだけじゃないかもしれない!ずっと一人でブツブツ言ってるよ。こんなのが武田家は次期当主で大丈夫なのか?

 

「試合開始だ!」


 ――っ!流石武田の血筋と言えるな。試合が始まった瞬間に目付きが変わった。人の動きを一切見逃さないような鋭い目付きだ。


「【式神召喚】」


 武田の召喚した式神は木曽馬のような姿形だが、その大きさが桁違いだ。海外の馬にも馬力で劣らず、木曽馬のように蹄は硬い。それは海外の馬と木曽馬の良いとこ取りのような馬だ。

 手綱は左手で持ち、右手には霊符を持っている。そこだけが武士とは違うところだろう。


 こっちに突っ込んで来やがった。右手の霊符に霊力を込めているだろうから、俺と当たる前に術を発動してくるはず。だからその前に体勢を崩す!


「【木鎖】」


 霊符に霊力を込めて馬の進路に放り投げた。


 霊符からは木鎖が作られ、馬の体を絡めとろうとしたが、馬は器用に避けながらこっちへと迫っていた。俺は馬の動きを予想しながら攻撃を仕掛けることにした。

 手始めに相手の体を貫くことも出来る【樹弾】を使うことにした。


「【樹弾】」


「――っ」


 今まで汗のひとつも見せなかった武田が初めて動揺したように見えた。まあ俺はこれまでこの術を一度も使って来なかったから、驚くのは仕方ないだろう。ただ俺の霊力では痣を作るのが精一杯だろう。しかし馬の脚にでも当たれば武田はバランスを崩して落馬するはずだ。そこが俺のチャンスになる。


「【軍配団扇】」


 武田は金属性の術で武田信玄が持っていたとされる軍配団扇ぐんばいうちわを作り出した。

 

「【風】」


 術の名前はシンプルだ。その攻撃もシンプルで軍配団扇に霊力を込めながら振ることで突風を引き起こした。

 その攻撃自体にダメージはあまりないが、俺の樹弾は勢いを失って地面に落ち、俺も舞台ギリギリの所まで風圧で押されてしまった。


「【火炎砲】」


 武田は近衛も使っていた術を使った。


 あいつは何属性の術を使えるんだ!?あいつは金属性だと思って油断していたが、火属性も使ってくるのなら霊力の残量を気にしながら戦わなきゃいけない!


「【防火樹】。武田は何属性使えるんだ」


「ブツブツ」


 なんか言ってるんだろうけど、やっぱり聞こえない!ただ聞いたら言ってくれたから真面目な奴ってことは分かったぞ。

 まあその情報は役に立ちそうにないがな。


「【烈火】」


 武田は霊符を俺の方に投げて来た。嫌な予感がしてすぐに避けたが、その予感は当たった。霊符が地面に落ちた瞬間、その霊符から激しく炎が吹き出した。もしその場に居たら防火樹を発動する前に焼き尽くされていただろうな。

 ただ攻撃の規模から見て霊力をかなり消費するように見えるから、あまり連発は出来ないんだろうな。


「今度はこっちから行くぞ」


 相手は馬に乗っているから、こっちが不利のように見えるが、遠距離の方が不利だ。こっちは木属性の術でしか遠距離で攻撃出来ないのに対して、相手は火属性の術を多彩に使える。これが近距離になれば物理で戦える。物理でも属性が関係するとは言え、遠距離ほどではない。だからこそ俺が勝利するには近距離で馬に勝つしかないってことだ。


 俺は馬の脚を狙い走り出した。武田も俺の意図が分かったのか、動きを見せた。武田は俺の事を正面から潰すことを選び、馬を走らせた。


 真正面から馬とぶつかれば俺は吹き飛ぶだろうな。これはギリギリで避けて脚を木刀で叩き武田を落馬させる。もし失敗すれば俺は吹き飛ばされて敗北。


 俺は賭けに負けてしまった。


 俺が避けようとした瞬間に武田の馬はさらに加速した。武田はこういう時のためにわざと余力を残していたんだろうな。

 予想だにしていなかったことに俺は対応出来ず、そのまま馬に吹き飛ばされ、場外判定で負けてしまった。


「倉橋が場外で武田の勝利だ!」


 これでAクラスは全員脱落してしまった。もし近衛が俺に勝っていたら、武田に勝てたのだろうか……。たらればはやめよう。負けは負けだ。


 決勝戦では氷属性の術で舞台上の気温を下げ、馬の機動力を奪いそのまま正面から武田のことを降した小佐々が勝利して優勝した。


 そして押し合いの団体戦、個人戦、そしてこの試合で一位を取ったBクラスが総合優勝になった。また当然だろう。ただBクラスは小佐々が印象的過ぎて、他があまりパッとしない感じで終わったのが可哀想だったな。


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