第19話 倉橋対近衛

 山田と上杉の戦闘はあっけなく終わってしまった。

 上杉は刀を作り出しただけで術を使うことなく、その武術のみで山田のことを降した。ただ山田は術を使って善戦しているように外野からは見えたが、上杉は術を使っていないから、二人の間にはかなりの差があるんだろうな。

 その後の試合は特に見所がないものが多かった。ただ上杉と同じように圧倒的実力で相手を降していた武田は警戒すべき相手だな。


 そして残る試合は俺と近衛の試合だ。俺の中ではこの試合が鬼門となるだろう。今まで色々俺に突っかかってきた近衛を倒してきたが、今回はそうもいかないだろうな。今まで近衛を倒せたのは、自分の得意な剣術や霊力と駆け引きでの勝負であり、真正面からの陰陽師としての勝負は初めてだ。経験値が近衛に比べてかなり少ない俺では勝つのは難しいはずだ。

 だけど最初から負けると思ってやる試合はないよな。


「第二回戦、最終試合は近衛対倉橋!二人は舞台上に出ろ!」


「今まで色々縁があるな」


「俺は陰陽師として一般人に負ける訳にはいかない」


「試合開始だ!」


 俺は様子見で【木鎖】を使用した。


 近衛の足元で発動した木鎖は近衛の体を捕らえようとしたが、近衛の属性は火だ。簡単な火の術を使用して燃やされてしまった。


 まあここまでは予想通りだな。木鎖で捕まえられたら良かったが、そう簡単には行かないよな。


「【火炎砲】」


 ポチ相手に使った術か!基本的に属性の相性的に火属性の攻撃を防げる木属性の術は少ない。俺の術でも防げるものはあるが霊力の消費がかなり大きいからあまり使いたくないが……考えている暇はないか。


「【防火樹】」


 俺の足元から巨大な樹木が一瞬にして生えた。その樹木は近衛の火炎砲を一切焼けることなく受け止めた。

 ただ霊力をかなり消費するので持続力はなく、火炎砲を受け止めた数秒後には枯れてから消えた。ただ今この瞬間、俺の攻撃出来るチャンスが生まれたはずだ。


 俺は走り出し、次の術を使えるまでの僅かな時間の間に距離を詰めて物理で攻撃をしようとした。


「一度見たものは通用しないぞ!」


 近衛も剣を作り出し、近距離で戦おうとした。これはあいつなりのプライドなんだろうな。俺に剣術で一度負けて、そのままにしておく訳には行かないって考えているんだろう。


 俺にとっては好都合だ。このまま距離を取られて遠距離の攻撃をやり続けていたら、俺の霊力が尽きて防火樹を使えなくなって敗北するだろうからな。


「こい!」


「メェェェン!!」


「――っ」


 剣道部の時の癖で声を上げてしまった。ただ剣道部の掛け声に慣れていない近衛は萎縮したように見えたから、結果オーライだな。


 俺の上段から振り下ろした刀は近衛の剣で受け止められた。だが俺は武器である木刀を手放すとしゃがみ、足払いを掛けた。


 足払いされた近衛は転び掛けたが、一度やられているため直ぐに体勢を立て直し、俺の攻撃に備えていた。

 ほんの一瞬しか好きが生まれなかったから、俺は追撃を仕掛けられなかった。だが木刀は離してしまったので、供給されていた霊力が絶たれて消えてしまった。だから俺はステゴロで戦うか、もう一度木刀を作るかの二択になるが、きっと近衛はその隙を見逃さないだろうな。


「どうした!何もしないならこっちから行くぞ!」


「くっ……!」


 考える暇もくれないか。


 近衛は武器を失った俺へと無慈悲に剣を振り下ろした。俺は振り下ろしている剣の側面をぶっ叩き軌道を逸らした。地面へと突き刺さった剣を踏み付けて、近衛の顎目掛けて拳を振り上げた。


 無警戒の顎に下から拳で振り上げられた近衛は舞台の端まで吹き飛んで行った。

 しかし近衛が地面に衝突することは無かった。近衛が地面に当たる前に校長が転送を使って移動させていた。


「近衛は行動不能で倉橋の勝利だ!」


 属性の相性に打ち勝った俺にクラス関係なく湧き上がっていた。


 やっぱり俺の術の実力は近衛に劣っているな。俺が勝てた要因は、あいつのプライドが高くて遠距離勝負で戦わず、俺に有利な近距離戦で挑んできたことだ。結局はあいつの自爆での勝利みたいなものだから、まだ俺は勝てたつもりにはなれないな。


「次は準決勝だ!準決勝、第一試合は小佐々対上杉だ!二人は舞台上に出ろ!」


 あと少しで体育祭も終わる。せっかくここまで来れたんだから優勝したいな。


「フェアに行こうぜ!」


「よろしくお願いします」


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