第18話 水と氷

「最後の種目は個人技の頂点を決める試合だ!障害物競走で優秀な成績を残した12人と個人競技優勝者の倉橋、小佐々の計14人でのトーナメント戦を行う。ちなみに倉橋と小佐々はシード枠になる」


 個人技の頂点を決めるってことは、術を使った戦闘をやるってことだよな。俺の術の属性は【木】だから近衛と直接対決になったらきついかもな。義江さん相手なら有利に戦えるだろう。他に注意しなければいけないのは小佐々だけど、あいつと当たるとしたら決勝だ。だから今は二回戦で当たる可能性がある近衛、義江さんを警戒すべきだな。


「第一回戦、第一試合は――」


 第一回戦は特に見所なく、強い奴が弱い奴を降して順当に進んだ。

 当たることを警戒していた近衛と義江さんはかなり余力を残して相手を降していた。近衛は1つの術だけで相手を降していた。それの対して義江さんは真逆の色々な種類の術を使って相手を翻弄しながら鮮やかに降した。

 他にも何名か警戒しなければいけなそうな相手もいたが、近衛と義江さんに比べればそこまでっていう相手だ。


「第二回戦を始めるぞ。第二回戦、第一試合は小佐々対今川!二人は舞台上に出ろ」


 この舞台ってのは土属性と金属性の教員が作り出した頑丈な土の舞台だ。第一回戦では一度も壊れるどころか、欠けもしなかったことから、その強度は確かなものだろう。


 第二回戦の最初から見応えのある試合だな。

 義江さんは水属性、小佐々は氷属性、二人は同じような属性をしているが、その性質は全くもって違う。水属性は液体を操ることに重点を置いているが、氷属性はその温度に重点を置いている。そのため氷属性は水属性に対してかなり有利に戦える。氷属性の温度を下げるという力で水属性の攻撃を凍らせて防ぐことが出来るからな。

 だから義江さんはかなり厳しい試合を強いられることになるだろう。


「試合開始だ!」


「フェアに行こう!」


「ええそうね」


 二人は相手の動きを探っている。


「【水泡】」


 最初に仕掛けたのは義江さんだ。義江さんは霊符を使って大量の泡を生み出し、小佐々の視界を妨害した。

 泡と言っても霊力で生成されているので、少しの衝撃で割れることは無い。それどころか込める霊力を増やせば、鉄よりも固くなるだろう。ただ水泡はその量が大事なので、わざわざ強度を求めることは無いだろう。


「良い術だな。だが俺は止められないぜ!【氷雪】」


 小佐々は霊力を込めた霊符を空へと放り投げた。


 彼の投げた霊符を中心に空には黒雲が広がって行った。その黒雲からは霊力を持つ雪が降り始めた。この雪自体に直接ダメージを与える力はないが、普通の雪に比べて熱を奪う力が強い。10分当たり続ければ動けなくなる程体の熱を奪われる。


 この雪が水泡に当たった瞬間、水泡は凍り地面へと落ちていった。地面には二人の霊力が混ざりあった凍った泡が大量に落ちている。


「このまま行けば俺の勝ちになるぞ?」


「くっ……やはり希少属性の術は強力なのが多いわね。羨ましいわ……【水弾】」


「【氷壁】!」


 義江さん正面から戦うことにしたのだろう。彼女はシンプルな水の塊を銃弾のように飛ばす術【水弾】を小佐々向かって飛ばした。

 それに対して小佐々は冷静に氷属性の防御系の術である【氷壁】を発動した。込められた霊力に応じて強度が増す氷の壁は、水の弾丸の勢いを殺し、凍らせた。

 ただその大きな壁は小佐々から見えていた義江さんの姿を遮っていた。義江さんは小佐々が【氷壁】を使うのを読んでいたのだろう。彼女は小佐々が【氷壁】を使った瞬間に動き出していた。

 義江さんは【水剣】を作り出すと小佐々との距離を一気に詰める。小佐々は一枚の霊符を取り出しているように見えたが、なんの術を使うは分からない。ただ義江さんの奇襲は刺さっただろう。


 義江さんは小佐々の背後を取り、その剣を無言で振り下ろした。この場面で漫画だったり、アニメだったりでは声を上げて振り下ろすだろうが、あれはフィクションだ。声を上げてしまったら奇襲の意味が無い。反射神経の良い奴だったらその声に反応して防いでしまうからな。

 義江さんの剣は小佐々のうなじを捉えた。


「いい奇襲だな!俺はフェアな戦いをしたいと思っているが、奇襲を卑怯な攻撃だと思っていない。だからこそ俺も奇襲は使うぞ」


 その言葉に義江さんは慌てて小佐々から離れようとした。しかし【水剣】が小佐々のうなじから離れたなかった。

 小佐々は自分の体に冷気を纏わせて、体に当たる前に【水剣】を凍らせて自分の体とくっつけたのだろう。その振り下ろした際の衝撃は喰らっているだろうが、打撃によるダメージはないだろうな。


 義江さんの動揺から生まれた一瞬の隙は致命的だった。小佐々を中心に舞台上が凍り付いた。それは義江さんも例外ではなかった。もし小佐々との距離があれば全身を凍らせることは避けられていたかもしれないが、小佐々と義江さんの距離は全くなかったため、顔を残して全身が凍った義江さんは全く動くことが出来ず、降参してしまった。


 ちなみに氷は火属性の教員が溶かしたため、義江さんに直接的なダメージはない。ただ体がかなり冷えているため直ぐに保健室へと連れて行かれた。

 俺はなんて声を掛けるべきか分からず、保健室には行けなかった。


「第二回戦、第二試合は山田対上杉!二人は舞台上に出ろ!」


 山田はうちのクラスの情報屋だ。そして相手の上杉はCクラスの一番手だな。戦国時代から続く上杉家の分家らしい。

 ちなみに室町時代の関東管領の上杉家と戦国時代の上杉家は別物だ。戦国時代の上杉家は元々長尾性を名乗っており、関東管領上杉憲政が北条家に敗北した際に長尾家に身を寄せ、長尾景虎(上杉謙信)を養子にすることで関東管領と上杉性を長尾家に譲ったことで上杉性を名乗ることになったので、二つの上杉家には直接的な血の繋がりはない。ちなみに室町時代の上杉家の血筋は途切れているとされている。


 Cクラスの上杉は分家の生まれながら、上杉謙信の生まれ変わりと言われるほど戦闘センス溢れる女性らしい。そう彼女は女性だ。

 和装にポニーテールの彼女は武人という言葉が似合う雰囲気を纏っている。


「よろしくお願いします」


 お辞儀も綺麗だ。この学校は名家生まれが多いため礼儀作法は大体の人が出来ているだが、この人はレベルが違う。彼女の礼儀作法は完璧という言葉が似合う。


「よろしく」


 彼女のを見てから山田を見るとなんか安心するな。


「試合開始だ!」


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