第16話 勝者

 やはり霊力の量と練度は圧倒的に負けているな。ただ俺もかなり増えているので瞬殺だけは避けられた。

 しかし競ることが出来たのは最初の一瞬だけであり、その後はジワジワと押されている。

 何とか耐えようにも義江さんは博打を打つような性格ではないし、堅実にこのまま時間をかけて終わらせるだろうから、隙を狙うのは難しいだろうな。


「このままだと負けるわよ」


「分からないよ。だって俺は奥の手を隠しているからね」


 奥の手なんかあるはずもない、だからこれはブラフだ。ただこんなブラフに義江さんが引っかかる訳が無いので、これは少しでも疑いの気持ちを抱かせるのが目的だ。

 真面目な義江さんは俺のブラフに引っかかり、流す霊力に乱れが生じた。ただこの乱れも十数秒経てば元に戻ってしまうだろう。だからここで仕掛けなければ俺は負けだ。


「くっ!倉橋くん今のはブラフなのね」


「そうだよ。俺は奥の手を隠しておけるほど余裕を持っている訳じゃないからね」


「貴方は性格が悪いわね」


「ここにおいてそれは褒め言葉だよ」


 俺は義江さんの乱れた霊力が元に戻る前に全力で霊力を注ぎ込み無理やり勝ちきった。

 これにより俺はかなり体力と霊力を消耗してしまった。そのため次戦はかなり辛い試合になるだろうな。


「勝者倉橋!」


 そして他のところも試合が終わり準決勝となった。


「準決勝第二試合Bクラス村上対Aクラス倉橋だ!」


「よろしくね倉橋くん」


「ああ、よろしく村上くん」


 俺の対戦相手である村上くんは温和そうな喋り方で、顔も優しそうな人だ。陰陽師としての才能が無ければ教師でもやっていそうだ。


 ちなみに準決勝に残ったのは、俺以外全員Bクラスだ。そして第一試合で決勝へと駒を進めたのは、近衛との勝負で勝利したBクラスのリーダーである小佐々なのだ。Aクラスは俺と義江さんがトーナメントで当たったため準決勝に進めるのは最初から二人だけだったのだが、不甲斐ない近衛のせいで俺だけになってしまった。やはりAクラスの代表として準決勝で負ける訳にはいかないよな


「試合開始だ!」


 校長の掛け声と共に霊力を注いだ。俺らの注いだ霊力量は拮抗している。俺と村上くんは霊力量で言うとほぼ同じだ。だから勝つためには技量や舌戦で勝利する必要があるだろうな。


「村上くんは奥の手を持っているのかな?」


「その作戦は僕には効かないよ。そもそも2戦連続で同じやり方は通用しないんじゃないかな?」


 村上くんは苦笑いしながら言っていた。まあそりゃあそうだろうな。逆にこれで通用していたら、そいつは相当な馬鹿か、試合を見ていない阿呆だ。

 ただ舌戦が通用しないとなると技量で勝つしかないか……。


 俺たちは長い間拮抗した状態を続けた。俺はそろそろ限界を迎えそうになっている。ただ村上くんは涼し気な顔をして霊力を注いでいる。これはポーカーフェイスなのか、それとも本当に余裕なのかが分からない。もし本当に余裕だったら俺に勝ち目はない。ただポーカーフェイスなら俺にも勝ち目はある。


 俺は勝負に出ることにした。残り少ない霊力を一気に注いだ。

 こちらの霊力が勝ったことで一気にメーターがあちら側に倒れ始めた。しかし村上くんも慌てて対応したみたいで途中で動くのが止まったが、またジリジリと押し始めた。


 俺の勝ちだ。やはり村上くんも限界が近かったんだな。向こうは慌てて霊力を増やしたことで消費が多くなったんだろう。だから最終的に向こうはガス欠でこちらは少しだけ残った。


 そして時間を掛けてメーターは向こう側に倒れた。


「勝者Aクラス倉橋!」


 あとは近衛に勝った小佐々だけだ。


「決勝に駒を進めたのは、Bクラスのリーダー的存在であり、そのカリスマ性でAクラスを纏めあげた小佐々純成すみなり。それに対するは、一般家庭に産まれながら、その類まれなる才能でAクラスの代表に選ばれた倉橋晴明。頂点に立つのはBクラスか!Aクラスか!小佐々か!倉橋か!」


「フェアな戦いをしようぜ!」


「そうだね」


「決勝戦!!開始だ!!!」


 俺は初っ端から全力で霊力を注いだ。

 俺は小佐々くんに霊力量や技量では完全に負けている。だからこそ最初が肝心だ。ここで少しでも押し込んでおかないとジリ貧で負けてしまう。


「いい瞬発力だな!だが、地力が違う!!」


 俺はほんの一瞬の間に真ん中まで押し込まれてしまった。


 くっ、やはり小佐々くんは強いのか。完敗だな。技術とかそいうレベルの差じゃない。霊力量の格が違う。俺と小佐々くんとの間には天と地ほどの差があるな。これを高専にいる間に縮められる……いや超えられるようにしないとな。


 そしてメーターがこちら側に倒れた。


「押し合い個人戦。優勝者はBクラス小佐々純成だ!!」


 Bクラスは声を枯らしてしまいそうなほど湧き上がった。


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