第14話 体育祭

 体育祭当日。


 高専のグラウンドには全クラスの生徒が立っている。

 そして生徒たちの前に立つのはこの高専の頂点に立つ女性、醍醐日南だ。

 生徒の並ぶ列の一番後ろには各々担任が立っており、醍醐校長が前に立っているAクラスの後ろに立っているのは久我先生だ。


 何故久我先生が立っているのかと言うと久我先生は第一線から退いたのだ。先生は十二天将も辞めるつもりだったらしいが、十二天将の中でも経験値が飛び抜けて高い久我先生を完全に隠居させるのは難しいと陰陽頭に言われたらしく、十二天将の肩書きはそのままで高専の講師をすることになった。


「諸君は今日まで陰陽師の訓練を積んできただろう。その努力を生かせることは中々なかったと思う。だからこそ今日は存分にその実力を発揮して欲しい。怪我は気にしなくていい。常設の高専の回復師だけでなく、陰陽寮からも応援を呼んである」


 ちなみに体育祭の競技は陰陽師としての力が大きく作用するような競技が多いらしい。

 参加する俺らは何も競技についての情報を教えて貰っていないので、これから何をやるのかが全然分かっていない。


「第一競技は『押し合い』だ!!」


 押し合い?全然見たことも聞いたこともない競技だな。名前はシンプルだが、そんなシンプルなことをわざわざ体育祭でやることはないだろうな。


「押し合いとはこの霊具を使って霊力の押し合いをしてもらう。これはクラスの部と個人の部がある。クラスの部は事前のくじで決めたトーナメントで戦ってもらう。そして個人の部だが、これは各クラスの霊力量が多い上位三名でトーナメントでやる」


 先生の説明が終わると俺らは一番最初の試合なのでグラウンドの中心にやってきた。


 グラウンドに置かれている霊具は綱引きの綱のような形だが、中心にはメーターのようなものがあるのでこれで結果が分かるようになっているんだろうな。


「じゃあ一回戦、Aクラス対Cクラス始め!」


 俺たちAクラスは一気に霊力を綱へと込めた。綱に霊力を込めたのはCクラスも一緒だったが、そもそもの霊力量でAクラスが圧勝しているので一気にメーターが向こう側に傾き、そして一番端に着いた瞬間、霊具から大きな破裂音が鳴った。


「勝者Aクラス!」


「当然ね」


「まあ突出した実力者が1人居たところでアベレージが他のクラスに比べて高いAクラスには勝てないよね」


 このクラス対抗試合は基本的にクラス順に順位が着くだろう。もしAクラスが負けるとしたらBクラスだが、BクラスはAクラスより1試合多いのでこちらが圧倒的に有利だ。


「よっしゃぁぁ!!」


 Bクラスは二試合とも勝てたみたいだな。それにしてもBクラスは暑苦しそうな人が多そうだ。その筆頭であるあの男は個人戦の時には気を付けないといけないな。ちなみにうちのクラスの代表は近衛、義江さん、そして俺だ。

 俺は入学当初はそこまで突出した霊力量ではなかったのだが、霊力量の伸びが他の人に比べてかなり良かったみたいでここ数日の間でクラス三位まで上がったのだ。


「いつも勝てないAクラスに勝てるチャンスだぞ!!お前ら根性入れろ!!!」


 あの中心的な男がBクラスを鼓舞して、それに呼応するようにBクラスは一気に声を上げた。


 うちのクラスは山田が一瞬やろうとしたが、近衛や義江さんの顔色を見て直ぐに諦めたみたいだ。


「では団体戦最後の試合だ。Aクラス対Bクラス始め!!」


 始めの声と同時にAクラス、Bクラスは共に霊力を込めた。運動馬鹿が多そうなBクラスは瞬発力が良かったみたいで、始まった瞬間に半分くらいまで押し込まれてしまった。その後俺らの霊力がメーターに届くとジリジリとだが押し戻しているようだ。しかし誰かがバテれば一気に押されてしまうほど力は拮抗しているので油断は出来ない。


「声上げてけェェ!!!」


 Bクラスの先頭に立つ男は大きな声を上げて味方を鼓舞した。その瞬間うちのクラスはメーターの端まで押されてしまい大きな破裂音を鳴らされてしまった


 あの瞬間確かに鼓舞して多少は込める霊力が増したのかもしれないが、あそこまで一気に押されるほど増えた訳でもなかった。そこから導き出される答えは……誰かが鼓舞の声にビビって手を離したんだろうな。まあ団体競技はこういうことがあるから好きではないんだよな。


 ただ個人戦の方が点数が高いらしいから俺らが頑張ればいいか。


「今から10分後に個人戦のトーナメントを始めるから参加する生徒は準備をしておけ!」


 俺はストレッチをしながら自分の番が来るのを待った。


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