第13話 才能

「剣術を教えると言っても難しいな……言えることと言えば当たるギリギリまで見極めることかな」


「あ、当たるギリギリ……私には出来なそうね」


 まあ経験したことない人には難しいだろうな。人はそう簡単に恐怖を捨てることなんて出来ないからな。


 他になにか出来ることと言えば何度も打ち合いを経験することなんだけど、俺と義江さんだと実力差がかなりあるから、練習になるかどうか分からないよな。


「じゃあ俺と打ち合いを一旦やってみよう」


「分かったわ」


 義江さんの正面に立ち、俺も木刀を構えた。


 正面に立ち思ったのだが、義江さんの切っ先が少しだけ震えているように見えた。木刀の切っ先だけが震えているように見えるってことは、ほんの少しだけ手が震えているのだろう。多分だけど筋肉が足りていないんだろうな。


「義江さんどこからでも来ていいよ」


「じゃあ行くわよ」


 義江さんは何のフェイントも入れることなく真正面から木刀を振り下ろしてきた。


 あまりにも正直過ぎて驚いてしまったが、直ぐに体を動かして彼女の木刀を弾き返した。


 思っていた以上の力で弾き返されたからか、義江さんは尻もちをついて倒れてしまった。


「ごめん。大丈夫だった?」


「ええ、やっぱり強いのね」


「そ、そうだね」


 全くもって力を入れていなかったんだが、これを言うと義江さんのプライドを傷付けてしまうだろうから止めておこう。

 

「やっぱり私には剣術は向いてなさそうね」


「まあ今のままじゃあ難しいと思うよ。強くなりたいと思うのならもう少し腕に筋肉を付けた方がいいと思うよ」


「筋肉……」


 義江さんはそう呟きながら自分の上腕二頭筋を触っていた。見るからに柔らかそうで、筋肉とは無縁そうな腕だ。


 あの腕で剣術を鍛えるのはかなり難しいだろうな。技術が磨けたとしても思いっきり剣を振れる時間は短いだろうし、鍔迫り合いになったら、直ぐに負けてしまう。だからこそ筋肉は剣術において必要なのだ。


「筋トレは出来る時にやるわ。次は貴方の番よ!」


 うん、筋トレはやらなそうだな。まあ陰陽師に剣術は必須って訳では無いから、やらなくても支障は無いんだろうけど、剣道をやっていた身からすると勿体ないと思うな。剣術を普段からやっていれば精神力が強くなって自分がピンチに陥っても冷静でいられるようになると思うから、やらないよりかは、やった方がいいと思ってるんだよね。


 まあ今は義江さんに教わることだけを考えるか。


「じゃあよろしくね」


「ええ。まずは貴方の霊力の練度を知りたいから、全力で密度を高めた木刀を出してみて」


「分かった。【木刀】」


 俺が全力で出した木刀は鉄を遥かに超える強度となっている。ただそれでも木田先生がやっていた木刀には遠く及ばないし、近衛にも勝てていないだろうな。


「うーん、成長はしてるみたいだけど、まだまだ改善は出来そうね」


「例えばどこら辺だ?」


「例えば?……例えばは例えばよ」


「あはは……」


 思わず乾いた笑いが出てしまった。


 義江さんは感覚タイプなんだな。でも不思議な点が一つあるんだが、教え合おうって提案したのは義江さんだよな?なんの自信があって教え合いをしようと思ったんだろうな。


「ま、まあ貴方は術の才能もありそうだから努力すれば強くなれるわよ。私の剣術と違って……」


「義江さんも剣術の才能はあると思うよ。まあ筋肉がつけばの話だけどね」


「それは無理な話ね」


「あっそうですか」


 義江さんの意思は固いみたいだな。これから先義江さんが筋トレをすることはないだろう。


「貴方のほかの術を見てみたいわ。見せてくれないかしら?」


「いいよ。【樹針じゅしん】」


 俺は霊符に霊力を流した。

 霊符からは鋭く尖った木の棒が的へと真っ直ぐ飛んで行った。木の棒は的を大きく抉っていた。


 ちなみにこの的は特殊な素材で出来ているので数分経てば元通りになるので授業以外でも使えるようになっている。


「成長度が凄いわね。高専に入る前は陰陽師と一切無縁の生活だったのでしょ?」


「そうだね。晴明せいめいと呼ばれるから陰陽師が嫌いだったからね。……ああ、今は特に何にも思っていないから気にしないでね」


「やっぱり貴方は才能が凄いわよ」


 褒められて今日は終わった。


 そして月曜日の朝を迎えた。


「これから諸君には体育祭の準備をしてもらう」


「高専に体育祭ってあるんですか?」


「ある!だって諸君はまだ学生だ。このクラスの生徒は強制的に高専に入ってもらった。だから学生のうちしか出来ないことは出来るだけやらせてやりたい」


 うぉぉぉという声が教室に響き渡った。


 俺も体育祭はやりたい。

 自分の運動能力の成長を感じられるから、小学校の頃から運動会とかは好きだった。逆に歌は好きじゃないので合唱祭はやりたくなかった。


「みんな楽しそうにしてるところ悪いが、一限は化学だ」


 楽しそうな空気から一変、どんよりとした空気が教室に漂っていた。


 一限から化学は眠くなりそうできついな。


 今日も学生の日常が始まった。


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