第11話 体力訓練
「今日から陰陽寮から特別講師に来てもらった。私と同じ十二天将である久我忠通だ」
「不本意ながらお前らの訓練を担当する久我だ」
教壇に立つ久我先生はかなり機嫌が悪いように見えた。
「これから1ヶ月以内にお前らが二級の妖を討伐出来るようにする」
「まだ俺ら三級ですら討伐したことないんですけど」
情報屋の山田が質問をぶつけた。
「関係ないな。才能がなくとも一級までなら討伐は出来るはずだ。それより上の特級や妖王の相手して勝てるのは努力と才能次第になってくるが、ここに居るお前らは甲判定なんだろ?なら努力さえすれば特級は倒せる。もし出来ないなら、そいつの怠慢だ」
久我先生の言葉は厳しいものであったが、正論であり、俺らの心に突き刺さった。
俺らは努力はしているものの特級や妖王を倒すことは想定していない。この高専の目標である一級討伐しか視野に入れていなかった。
目の前で妖王に教師を殺された俺でさえ妖王など届くはずないと諦めていた。それほどに妖王と区分される妖は格が違うのだ。
「まあお前らは学生だから勉学も大事だろう。だから俺が指導するのは放課後二時間だけだ。あとは自分でどうにか自主練をしてろ」
久我先生はここの教員らしく放任主義らしい。
そして普通の学生と同じような授業を受け終わり、放課後となった。
放課後のグラウンドにはAクラスの生徒が集まっていた。
「よーし、まずはグラウンド10周だ」
最初は久我先生が何を言っているのか分からなかったが、徐々に理解した生徒たちが避難の声を上げていた。その中でも先生の耳にはっきりとした言葉で届いたのはやはり山田だった。
「てっきり呪力の扱い方を練習すると思っていたんですけど」
「甘えんなガキ共。てめらに足りてないのは持久力だ。霊力なんてもんは授業中にでも鍛えてろ。じゃねぇとそこのみてえに直ぐ体力が切れちまうからな」
「私のことを言っているのか?私は十二天将の中では普通くらいだ。お前が脳筋でおかしいだけだ」
確かに持久力は授業中に鍛えることは出来ないが、霊力の扱い方なら授業中でも出来るだろう。ただ授業は疎かになってしまうが、久我先生はそこは考慮していないのだろう。
「じゃあ開始。ちなみに一番遅かった奴は1周追加な」
その言葉を聞いて俺を含めた多くの生徒が本気の目をして走り出した。俺のいる位置は中盤より少し前くらいなので、転びでもしなければ最下位になることは無いはずだ。
ちなみに一番後ろなのは……義江さんみたいだ。霊力については実家で鍛えられてきたが、肉体面については鍛えられていないのだろう。
助けてやりたい気持ちはあるが、俺も10周走るので精一杯なので追加で1周は走りたくない。それに手を抜いたのがバレたら何されるか分からないからな。
「てめぇらだけに走らせるのは不平等だからな。俺も走ってやるよ」
俺らが大体半分くらい終えた頃に久我先生が走り出した。その速度は俺の全速力よりも速く、ほんの一瞬で200mあるはずのトラックを1周していた。
そのままペースを崩すことなく周を重ねていき、俺らが6周目を終える頃には俺らの事を抜かしていた。
「情けねぇな。てめぇらはまだ学生のはずだろ?俺なんてもう還暦だぞ」
還暦ってことは60歳ってことか!?どう見ても50歳前半、よく見れば40代後半にも見えるぞ!?
てか40代後半だったとしても高校生が体力で負けるのはあまりないことか。それが60歳相手となればありえないことだ。
「今川は追加で走ってこい。他のやつはペアを作って木刀を使って実戦的な立ち合いを行え」
この状態で行うのか……かなりきついな。
そして俺のペアになったのはうちのクラスの首席であり、性格が悪い近衛道実だ。
「お前は妖王に会ったんだよな。どうだった?」
「やっぱり格が違ったよ。恐怖で動けなくなったからね」
「やはり一般人生まれ貧弱だな」
「きっとその場にいたのが君だったとしても俺と同じで動けなくなっていたと思うよ」
「舐められたものだな」
イラついてるな。その証拠に額に青筋が浮かんでいる。
「実力を見せて考えを改めさせてやる」
「出来るものならやってみろ」
どうして俺はこんなに挑発するような発言をしてるんだろう。
別に一般人というところを何と言われようと特に気にしてはいない。俺が気にしているのは多分あそこなんだろう。
木刀を持った近衛は地面を強く蹴り出し、走り始めた。
俺は木刀の軌道を見極め、上段から振り下ろされる木刀を絡めとるように弾いた。木刀を絡めとった俺は足払いをして近衛のことを地面に倒した。
俺は地面に倒れる近衛を見下すような目でみていた。
「なぜ俺が負けたんだ!」
「俺はお前が霊力の練習している時剣道をやっていたんだよ」
近衛は更に青筋を立てて地面を叩いていた。
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