第9話 実戦訓練
高専に入学してから1ヶ月が経った今日、俺らはこの島を一度出て本土で妖相手の実戦訓練を積むことになった。
実力者揃いの教員や十二天将である校長も着いてくるので命の危険は万に一つもないだろうが、緊張で足が少し震えている。
「この山に五から四級の【妖】が蔓延っている。そこで諸君には最低一体以上の妖を討伐してもらう。安心しろ、危険が迫っていれば教員が助ける手筈になっている。だから存分に全力を尽くせ!」
そして俺らは妖が蔓延る山に足を踏み入れた。
妖が蔓延っているからか、山の空気はかなり悪く瘴気のようなものが漂っているような気がしている。
ただここに居るのは五から四級だけらしい。五から四級でもここまで空気が悪くなるのなら、妖王を前にしたら何処まで空気は悪くなるのだろう。そんな疑問を浮かべながら山を進む俺は空気が更に淀んだのを感じた。
「――っ!近いのか?」
俺は急激に息が詰まるような感覚に陥った。それは妖が近くにいる証拠だろう。この感覚がいつでも得られるのだとしたら、妖が意図的に待ち伏せでもしない限り奇襲を受けることは無いはずだ。だからこそ、この感覚は忘れてはならない。
俺の目の前に現れた妖は子供くらいの大きさだが、その妖のお腹は中年太りかのように出ていて額には一本の短いツノが生えていた。
その姿はまるで神話やアニメで出てくるゴブリンのようだ。
顔は醜悪なものだから気にせず攻撃出来るが、これが可愛らしい子供のようなものだったら難しかったかもしれないな。
『ウギャァ!!』
「気付かれたのか!【木刀】」
俺は木刀を持って妖の攻撃に備えた。
妖は武器などは持っていないのでその拳で俺を殴ろうとした。妖の動きはポチに比べてかなり遅かった。ポチの動きに見慣れている俺は余裕を持って攻撃を避けることが出来た。
しかしその攻撃の威力に動揺してしまった。子供くらいしかない身体から放たれたパンチは地面を大きく抉り、その攻撃で生まれた空気の圧が離れた俺のところまで届いていた。
「近付くのは危ないか……ならこれはどうだ【
俺はこの一ヶ月で覚えた術を発動した。
この術は霊力を込めた霊符を相手の足下へ投げることで発動する。発動した霊符からは注いだ霊力に応じた大きさの樹木が伸び、相手の動きを阻害する。
俺の【木鎖】は妖の胴体を絡め上げ、完全に動きを封じていた。
ただいつ術が解けるか予想が出来ない。そのため出来るだけ早く決着を付けるために霊力の密度を限界まで上げた木刀で妖の額をカチ割った。
祓われた妖は灰になって消えてしまった。消える際に妖からは微量の霊力が放たれていた。その霊力は俺の中へと入っていった。
人間が妖を倒すと妖の強さに応じて自身の霊力を増加させることが出来る。しかしその逆もあるため、人間と妖が殺し合うことは自然の摂理とも言えた。
やはり五級の妖相手だと感じ取れないほどしか増えないのか……。まあ無理することはないから一旦下山するか。
「もう戦わなくていいのかい?君はきっと強くなれるよ」
「っ!!?」
急激に背筋が冷えるような、形容しがたい感覚に襲われた。それは恐怖という言葉では表せないほどのものであり、話しかけられた瞬間に俺は腰が抜けてしまった。
「ありゃりゃ、腰が抜けちゃったのかい?」
「感知班は何をしてやがったんだ!!誰か醍醐さんを呼んでこい!!!」
俺を庇うように前に立っているのは木田先生だった。
「私はもう来てるよ」
後ろから声が聞こえたので、体を捻るように後ろを見ると額から汗を流している校長がいた。
そして周りからどんどんと教員たちが集まってきていた。
「お前はどうしてこんな所にいるんだ?」
校長は出来るだけ相手を刺激しないように質問していた。いつもの絶対的自信を持っている校長とは違い、今の彼女はかなり下手に出ていた。
「なぜ?それは僕が感知用の結界が張られているここに居る理由かい?それともなぜ封印されているはずの妖王がここに居るって質問かい?」
「……どちらもと言ったら?」
「別に答えてあげるよ。まず僕がここに来れたのは、僕が【転送】の術を持っているからだよ。それで封印されているはずの妖王がここに理由は……そもそも僕は封印なんてされたことないからだよ。だって僕がこの完全な人型になったのは最近なんだもの」
「そうか……なら勝てる!【
校長は霊符を使用せずに術を発動した。
校長の術は人型妖の頭があった空間を飲み込む渦が出来上がった。その渦は普段は移動に使う物だが、その渦にはある特性がある。それは、渦の中を通っている途中で発動を解くと移動前と移動先で切断されてしまう。校長はその特性を使って妖の頭を切断しようとしたのだ。
しかし人型妖は術を予想していたかのように必要最低限の動きで避けていた。
「いきなり攻撃するなんて酷いなぁ。ちょっと痛い目にあってもらおうかな【転葬】」
校長と同じ術を人型妖は校長よりも数倍早く発動させた。その攻撃の先にあったのは校長の頭ではなく木田先生の頭だった。
「えっ――」
それが彼の遺言だった。
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