第8話 式神
「最初は今川少女頼めるか?」
「分かりました」
グラウンドの中心で義江さんが準備運動をしながら、校長の式神が現れるのを待っていた。
そして俺ら他の生徒はそれを見守るように少し離れたところで座っている。
「じゃあ召喚するぞ。【式神召喚】」
校長が霊符に霊力を流して地面に向かって放り投げた。霊符は地面へと落ちる前に生物の形に変化して行った。その姿は狼のようだが、狼にしてはかなり小さく、そして牙や爪がかなり短く感じられた。
『グルル』
「その子は私の式神の中では1番弱い。名前はポチと言って私のベットみたいなものだな」
確かに狼みたいな顔立ちだがどこか愛らしさも感じられる。校長がペットとして扱うのも分かる。
「じゃあ始めてくれ」
「では参ります。【水剣】」
義江さんは霊符を使って水の剣を作り出すのと同時に駆け出した。その速度は俺の動体視力でも捉えられるほどしか出てないが、対面しているポチからすればかなり速いものだろう。
しかしポチはジグザグに走りながら迫り来る義江さんをギリギリまで動かずに義江さんの動きを見極めて、義江さんが攻撃を仕掛けた瞬間に動いた。
対応されたことに動揺したのか、義江は第二の攻撃をすることが出来ず、ポチに攻撃を許してしまった。
ただポチに義江さんを傷付ける意思などなく、肉球をぶつけて少し押し出すだけに終わった。
「ふむ、今川少女は実力はあるが、実戦経験が少ないから予想外の攻撃に弱いな。まあそれは経験すれば身に付くものだから、特に気にしなければならないことは無いぞ」
「ありがとうございました」
勝てる自信があったのか、義江さんは少し落ち込んでいるように見えた。
「義江さん大丈夫?」
「ええ、ただ自分の実力を過信していたことに反省しているだけだから」
「まあ気にしなくていいと思うよ」
その後は校長が付けた順番通りに進んでいき、遂に俺の番がやって来た。
「では倉橋少年始めてくれ」
「【木刀】」
俺は霊符を使って木刀を生み出すのと同時に地面を蹴り、ポチとの距離を一気に詰めた。
俺は義江さんとは違い自身の脚に自信が無いため、正面から刀の技術で打ち勝つという選択を採った。これが吉と出るか凶と出るかは分からないが、後悔することは無いだろう。
正面から木刀を振るう俺に不意をつかれたのか、ポチは後ろに少し引いた。その隙をチャンスと思い、俺は一気に攻め立てた。
ポチの爪に阻まれていた俺の木刀だったが、何度も繰り返しているうちに少しずつポチの体にかすり始め、そして切先がポチの顔を捉えようとしていた。
俺は勝ったなと思ったが、目の前に居たはずのポチが消えてしまったので俺の木刀は空振ってしまった。
「まさかポチに勝つとはな。惜しいところまで行く者は居ると思っていたが、勝てるとは思っていなかったぞ!」
ポチは校長の腕の中におり、この瞬間霊符に戻っていた。
「ありがとう……ございます」
俺は戦闘でのアドレナリンで興奮状態だったため、言葉に少し詰まってしまった。
「うむ。次の生徒は前に出ろ」
次の生徒が出たのだが、ポチは大丈夫なのだろうか?
俺の心配は杞憂に終わった。校長が流した豊富の霊力によってポチの傷は完全に消えていた。それどころか先程よりも元気なように見えた。
その後はポチの圧勝が続いていた。そして最後の生徒となった。前に出た生徒は
「では始めてくれ」
「【火炎砲】」
「むっ!それはポチでは受け止め切れないな。【転移】」
近衛が霊符に霊力を流すと霊符から大量の炎がポチ目掛けて吹き出した。その炎の熱は離れているはずの俺らにも届いていた。
その攻撃を見て威力がかなりのものであると感じた校長はポチの目の前へ転移した。そして右手を炎向けて掲げた。そして炎が校長の手に触れた刹那炎は近衛の持つ霊符と共に一瞬で消えた。比喩表現などではなく、確かに消えたのだ。
「君の実力はやはり頭一つ分飛び抜けているな」
「ぬるま湯に浸った名家のボンボンや一般人に負ける訳にはいかない」
性格には難がありそうだな。
近衛の言葉に名家出身と思われる者たちが撤回するように叫んでいた。しかしその中に義江さんは居なかった。ここで他の生徒と同じように叫んでいたら少し幻滅していただろう。
ちなみに一般人の親を持つ俺を含めた生徒たちは,近衛の言うことが事実なので特に反論するなどはしていなかった。
◇あとがき◇
妖の等級は上から妖王、特級、そして一級から五級の七つです。
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