第7話 義江さん
ショッピングモールから戻った俺らは、グラウンドに来ていた。
ショッピングモールで遊んだから機嫌が良くなったのか、密度の上げ方を教えてくれるらしい。
「まず霊力というものは身体の中に存在している間は丹田と呼ばれる物に濃縮して閉じ込められているわ。だから霊力の密度を上げるというのは元の状態に戻すという意味もあるの」
「なるほどな。その丹田ってのはここにあるものの事だよな」
「そうよ。その丹田から外に出る時に体内を巡らせるために密度を下げて出るようになっているの。その逆のことを身体から出る瞬間にやれば密度は上げられるわ。コツは……まずは丹田から出るのを感じるのが大切だと思うわ」
なるほど……うーん、分かったような分からないような、かなり難しい気がする。
「一回お手本見せてくれない?」
「いいわよ【水剣】」
見るからに密度が高そうだ。何が違うんだろう……意識の問題か?俺は密度を上げよう、上げようと考えていたが、元の状態に戻すという意識が大事なのか?
「【木刀】出来てるか?」
「ほんの少しだけれど密度が上がっているから成功ね。あとは反復練習を続ければ段々と密度を上げられると思うわ」
「ありがとう。今川さんのおかげで成功できたよ」
「その今川さんってのやめて欲しいわ。義江でも義江さんでもいいから苗字で呼ばないで」
「じゃあ義江さんで」
やっぱりお家でなにか抱えているんだろうな。手伝えることがあれば、手伝ってやりたいけど、こちらから言うのはなんか違うよな。
もし義江さんが俺を頼るようなことがあれば、全力で助けよう。……俺ってこんなこと思う性格だったか?まあ高校生にもなれば性格くらい変わるか。
「……しくん……らはしくん、倉橋くん」
「どうした?」
「話しかけても何も反応しないから。どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ。今日はありがとう。義江さんのお陰で密度を上げることが出来たし、ショッピングモールも楽しかったよ」
「それはこっちのセリフだわ。私も気分転換が出来て良かったわよ」
この後義江とは女子寮入口前で別れて俺は男子寮へと帰った。
義江と別れた時女子寮からはキャーキャーと女子の声が響き渡ってきたが、気にしないことにした。
日曜は怠惰に部屋の中で過ごして月曜日を迎えたのだが、そこで待っていたのはクラスの情報屋と名高い山田
「倉橋は今川さんと付き合ってるのか!?」
「いや別に付き合ってないけど、どうして?」
「一昨日二人でショッピングモールで居るところを見たって言うやつが居るんだよ!」
「それは事実だけど、一緒に居たからって付き合ってるとかになる訳ではないだろ?」
学生ってのは情報が回るのが速いな。早めに学舎に来てよかった。これで義江さんが来てたら迷惑を掛けていたからな。
「人のプライベートを詮索するのは良くないと思うわよ」
「げっ!いまがわさん……」
「妖を見たような顔をしてどうしたのかしら?」
「な、なんでもないですよ。なっ!倉橋」
「あ、ああ、そうだな」
すごい勢いでこっちに擦り寄ってきたな。まあ俺からしたらプライベートを詮索されても困るようなことはしてないから別に構わないけど、義江さんからしたら困るか。
「それで今川さんは倉橋とどのような関係で?」
根性あるなぁ。あんだけビビっていたのに質問はするのか、流石情報屋だな。
「……秘密よ。だって女に秘密は付き物だもの」
義江さんは義江さんでだいぶ最初とイメージが違うな。
これが俺のお陰だったらいいなとか思う俺はキモイかもしれないな。
「みな席につけー!今日はみなに実戦訓練をしてもらうぞ」
「実戦って妖と戦うってことですか?」
「いい質問だな山田少年。妖と戦うには本土に戻る必要があるため、まだ先だ。今日は教員の式神を相手に戦ってもらう」
式神とはなんだろうか?
「式神ってなんですか?」
「式神というものは、霊符と霊力を媒介にして疑似生物を生み出すものだ。その注ぎ込む霊力が多いほどその式神は知能や実力が高くなり、少なければ命令しか聞かない生物になる。式神は霊力で産まれているから死にさえしなければ、霊符に戻してまた霊力を注げば傷も治る」
それって今の時代の倫理的に大丈夫なのだろうか。
「みなが気にすることはよく分かる。倫理的と言うが、妖を殺すのは倫理的にどうだ?もしくは戦争で人を殺すのは?倫理観などは所詮綺麗事だ。陰陽師は人、日本を守る仕事だ。そんな任務を遂行する為ならば出来ることはするべきだ。諸君は違うと思うか?違うと思うのなら言ってみろ。だが自分の考えを述べるのが条件だがな」
校長の言葉に教室にいる全員が息を飲んだ音が聞こえた。
確かにそうだ。倫理観は人間が設けたラインでしかない。そして人間は自分らの利益のために同族も他種族も殺してきた。そして妖を殺すのは自分らが死にたくないというエゴでしかない。だから俺らは倫理的という言葉で片付けてはいけないんだ。俺らは妖を殺して生きるからには出来ることはすべきなのだ。
「暗い空気になってしまったな。でもこれは心に留めておけ君らのおかげで多くの人間が助かるということをな」
校長の言葉で少し心が軽くなったような気がした。
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