第3話 陰陽道

 少女改めアラサー校長に教室へと案内されたのだが、教室はどこかピリついていた。教室に入った俺は敵を見るような視線で見られているような気がした。


 ただここは陰陽師を育成する場所だから殺伐とするのは仕方ないことなのかもしれない。


「よしこれで全員揃ったな。では体育館に行くぞ。ちなみに君ら甲クラスの担任を務める校長の醍醐日南だこれからよろしく」


 この学校は陰陽師適性検査の結果でクラスを決めたみたいだな。まあ実力者は集めて切磋琢磨させた方が実力の伸びはいいだろうから、合理的な学校ってことか。


 体育館は普通の高校と同じくらいの大きさだな。違いがあるとすれば、壁だったり天井だったりに御札が貼ってあるところだけか?今思ったけど御札が貼ってあるって怖くね?


 まあ陰陽師だから特殊な力が込められてるって場合もあるから、一概に怖いとは言えないか。


「諸君。君らは適性検査で戊以上の判定の持ち主だろう。甲判定が出た者達には陰陽寮を代表して謝る。済まなかった」


 そう言って壇上に立つ醍醐校長が頭を下げていた。まあ俺ら甲判定は入学金が強制だったから、将来の夢を閉ざされたから、夢に向かって頑張ってた奴は嫌だっただろうな。

 俺は特に夢なんてなかったけど、名前で陰陽師弄りされてきたから、陰陽師には成りたくなかったな。


「……ではこの【陰陽寮付属高等専門学校】についての説明をしよう。まずこの学校は最近増え続ける【あやかし】に対処するために陰陽寮によって建てられた学校だ。この学校の方針は『一級以上の【妖】を討伐出来る陰陽師を育成する』だ。陰陽師や妖について詳しくない者も多く居るだろう。ただ今ここで説明するとなるとかなり時間が掛かってしまうため、教室で担任に聞くが良い」


 校長にしては珍しく話が短かったな。


 それにしても一級ってのは多分【妖】?の階級区分なのだろうけどどのくらいの強さなんだろうか。十二天将なら簡単に倒せるのか?それとも十二天将クラスでも苦戦する相手なのか……まあこの学校に在籍していれば否が応でも分かることになるか。


「早く行ってくれないかしら?」


「おっと済まんな」


 考えてるうちに進んでいたみたいだ。この人典型的な令嬢みたいな女性だな。


 教室に戻って来て気付いたんだが、さっきの令嬢(仮)が隣の席みたいだ。可笑しくないか、普通体育館の並びが前後の奴は教室の席で隣同士になることはなくないか?陰陽師だからで納得するしかないか。


「改めて挨拶しておこう。私はこの学校の校長を務める陰陽寮十二天将が一人醍醐日南だ。よろしく頼むぞ少年少女諸君!」


「せんせー質問いいですか」


「なんだ山田少年?」


「十二天将ってなんですか」


「むっそうか、一般の家庭生まれには知らない単語だったか。ならば説明しよう!」


 なんか醍醐校長って少年漫画に出てきそうなキャラしてるな。


「では陰陽師の成り立ちから説明しておこう。陰陽師というのは継体天皇の時代まで遡る。その時代百済、現在で言う朝鮮半島から日本に渡ってきた五経博士によってもたらされた力を陰陽道という。そして100数年後の天武天皇が自ら陰陽道を学び、力を得たことでその有用性を理解し、陰陽寮を設けた。その陰陽寮が表立って活躍するようになったのは平安時代、【陰陽師】を率いる安倍晴明という英雄が産まれたのと呼応するように【妖】を率いる蘆屋道満という人間が妖に身を堕とした怪物が産まれたことで、陰陽師と妖の争いが一気に拡大していった。そこで一般市民にも妖という存在が広まり、陰陽師という職業も表に出てくるようになった」


 五経博士が百済から来たのは知ってたけど、陰陽道がその時に来たのは知らなかったな。


「十二天将が生まれたのはこの時だな。この時代、妖側に人型をした特級以上、現在で言う【妖王】と呼ばれる十二体の【妖】が存在した。蘆屋道満を含めた十三体に対応出来るように安倍晴明が十二人の猛者に自分の式神の力を授ける形で戦力を増強して対抗した」


「それでどうなったんですか」


「ふむ……敗北とは言えないが、勝利したとも言えないな。安倍晴明は蘆屋道満の首を落とす寸前まで追い詰めたが、妖王の序列で第一席と呼ばれていた最強の妖相手に十二天将では歯が立たず、安倍晴明が残っていた【妖王】と蘆屋道満相手に善戦したが、多勢に無勢で敗北、他の十二天将も安倍晴明で勝てなかった相手に勝てるはずもなく惨殺された」


 敗北したってことは、その妖王と蘆屋道満は生き残ったってことだろう。じゃあなぜ平安京は生き残ったんだろう?


「その後はどうなったんですか?」


「安倍晴明は死ぬ前に自分の死と共に発動するとある術を仕込んでいた。その術は妖王と蘆屋道満を封印する物であり、今でも裏世界に封印されていると言われている」


 言われているってことは文献は残っていないのか?


「君らが考えている通り、正式の文献等は残っていない。しかし土御門家管轄の封印の地があるからきっと事実なのだろう」


「ちなみに妖王って何人残っているか分かっているんですか?」


「第一席、第二席、第四席の三体が残っていると言われている。他に質問はないか?……よし!座学はこれまでにして実技訓練をしていこうじゃないか!」


「初日からですか?」


「そうだ!君ら甲判定は裏方に回ることはほぼないと考えていい。それなら出来るだけ早く鍛えるのは大事な事だ」


 確かに現場で作業するのに座学はそこまで必要ないのかもしれない。


「ではグラウンドに集合だ!着替えは個人ロッカーに入っている」


 そう言って醍醐校長は教室から出ていった。


 少女みたいな見た目で体育会系って違和感だらけだな。


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