第2話 陰陽寮付属高等専門学校

 迎えに来た陰陽師は佐藤さんと違って普通の私服を着ていた。


「私服なんですね」


「ああ、人事部の奴が狩衣を着てたから勘違いしたのか。陰陽師が狩衣を着るのは祭事くらいで普通は着ないものだ。人事部が狩衣を着てるのは一般人の元に派遣されることが多いから、陰陽師であることを分かりやすくするためらしい。……狩衣を私服で着てる奴は基本変人だ」


 遠くを見つめてるってことは、私服で狩衣を着てる人が誰か居るんだろうな。


「そうなんですね」


「その敬語気持ち悪いからやめてくれ」


 まあ敬語は苦手だから有難いんだけど、気持ち悪いは言い過ぎじゃないですかね……。


「分かったよ」


「それでいい。……自己紹介がまだだったな。私はさわ雪乃ゆきのだ。」


「雪乃さん……」


「なんだ?文句があるのなら言ってみろ。喧嘩なら受けて立つぞ」


 そうこの人は女性なのだ。もう一度言う女性だ。この人……沢さんは口調は荒いが、見た目は大和撫子という言葉が似合う黒髪黒目のポニテの女性だ。名付けの親もこの美しい見た目で口調が荒くなることは想像していなかっただろう。


 そして綺麗な顔をした沢さんにオラつかれると変な性癖に目覚めそうになる。まあ目覚めないけど。


「いや、何でもない」


「……まあいい。高専までは長いからな」


 絶望だ。沢さんが乗ってきた車はかなり高そうな二人乗りの外車、すなわち高専までの道を隣同士で2人っきりで行かなければならないってことだ。


 オムツ履いてくれば良かったかもなぁ……。


「なんだその目は」


「いや、陰陽師って儲かるものなんだなぁと思って」


「まあ命を懸ける仕事だし、高給取りではあるな。ただ私が強いってのもある。この業界は完全実力主義だから、弱い奴は命を懸けてるってのに一般のサラリーマン程度しか稼げないから、学生の間に鍛えられるだけ鍛えた方がいいぞ」


「そうなんだ」


 よしこれで話を変えられたから漏らさずに済みそうだ。


「何考えてたかは後で教えてもらうとして、時間が少々押しているんだ。早く乗れ」


 沢さんに急かされながら車に乗ったのだが、沢さんが女性であることを自覚してしまった。なにで自覚したのかは言わないでおくが、まあ狭い車で窓も閉まっていたから空気が籠っていたのだろう。


 車が発進してから1時間ちょい経ったが、沢さんが話し続けていたから気まずい雰囲気にならずに済んだ。

 ただ車の旅は始まったばかりだから油断してはいけない。相手は沢雪乃なのだから。


「なんか変なこと考えてるな?」


「いや考えてないっすよ」


「まあいい。……陰陽寮や高専について質問はないか?」


 遂に話題が尽きたのか?質問か……知ってることが少な過ぎて、疑問も全然浮かばないな。


「じゃあ高専って何処にあるんだ?」


「高専は陰陽寮が所有している島にある。その場所は高専の教員と一部の陰陽師しか知らない」


「えっ?でも生徒がその場所に行くからバレる筈じゃあ?」


「それはもうすぐ着くから分かる筈だ」


 その言葉から数分後沢さんは車を停車させたのだが、その場所は港とかではなく山奥だった。


 高専が島にあるって言われた時にはもう山道を走っていたから、疑問に思っていたけど、まあそこは陰陽師の力を使うんだろうなと思っている。


「ここからどうやって島に行くんだ?」


「ここから先は私の管轄ではないが……おぉ!居た居た」


「子供?」


 かなり背の低い人が小屋から出て来た。俺は子供だと思ったのだが、立派な大人らしい。

 俺の発言に怒った少女は俺の頭を引っぱたこうとしたけど、俺との身長差があり過ぎて届いていなかった。その様子を見兼ねた沢さんは少女の脇に手を入れて持ち上げ、俺の頭を引っぱたかせた。


「なんで引っぱたかれなきゃいけないんだ?」


「お前は天然なのか!?普通大人なレディーに向かって子供って言ったら引っぱたかれるのが普通だろうが!」


「そんな普通はないと思うが……」


 俺がそう言った瞬間、少女は俺の脛をげしげしと蹴ってきた。届かないのが分かったのだろう。流石に学習能力はあるみたいだな。大人なレディー(笑)を自称するだけある。


「むっ?なんかイラッとしたなぁ」


「気のせいだろ」


「そうか気のせいか!」


 やっぱり子供だな。


「日南さん、時間も押してるし送ってやってくれ」


「分かってるさ。じゃあ少年。私の肩に捕まるんだ」


「ああ」


 俺は少女の少年発言と沢さんが少女をさん付けで呼んでいることを疑問に思いながら肩を掴んだ。


「【転移】」


 彼女の言葉を理解する前に目の前の光景が変わった。体感時間1秒にも満たない間に移動したことに俺は感動を覚えていた。


「ようこそ我が【陰陽寮付属高等専門学校】へようこそ。私はこの高専の校長であり、十二天将が1人醍醐だいご日南ひなみだ。よろしく頼むぞ少年」


 俺が少女だと思っていたのは、まさか陰陽寮のトップ【陰陽頭】を支える十二天将の一人だったとは……でも少女には変わりないか。


「ちなみに言っとくが、私は20代後半だからな」


 少女じゃないどころかアラサーだったみたいだ。


◇あとがき◇

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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続きは本日19時に公開する予定です。

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