第35話

俊とドライブ中に見かけたレストランでご飯を食べた後また駅前に戻りその日は解散することにした。

帰り際になって俊がこんなことを言い始めた。


「もしかしたら実家の奴らがちょっかいを出して来るかも知れないけど、そん時は気にせずぶっ飛ばしていいからな。」


「馬鹿野郎そんなことしたらお前の立場悪くなんだろうが。」


「大丈夫だって、なんとかするからよ。」


そういってあいつは車から降りていった。

俺はまだあいつがなにか思い詰めているのを感じたが『言いたくないなら聞かない』が俺らのルールだからとそのままその場を後にして帰宅した。



【side:佐藤 俊】


怜治の車から降りた俺は人通りの多い駅前から離れ、昔は賑やかだったが今ではすっかりシャッター通りとなった商店街を歩いていた。


「ここもすっかり過疎って寂しいもんだぜ。」


俺はそんな独り言いいながら昔近道としてよく通っていた裏路地に入った。

少し歩き表通りが見えなくなったタイミングで後ろから声を掛けられた。


「俊様、本家より使いに参りました。」


「なんの話?人違いじゃないっすか?w」


「ご冗談はおやめください。連絡用の式神を再三送っても御返事を頂けなかったのでこうして直接お話に参った次第です。」


こっちに戻ってきてからずっとつけられていたのは分かっていたし、だからこうやってわざわざ人気のない所を通ったら案の定、実家から使いだった。

使いの男は実家の任務でよく使われている紺色の作業着姿でぱっと見は運送業者やなにかの修理業者にしか見えない、だが俺にはこの男から漏れ出ている気力からかなりの実力者であることを察した。


「はぁ、悪いな。見張りがついてて中々返事が出来なかったんだよ。」


勿論それは嘘でわざと式神を無視していたのだ。

だが見張りが付いていたの本当で、

怜治と違い俺は暫く前から本部の外に出る許可が出ていたのはわざと俺の存在を実家にアピールする為だった。


「そうですか、では私から伝えさせて頂きます。」


『継承の儀式が失敗して神力が第三者に宿った可能性がある。なにか知っている事はないか?』


「そうか、継承の儀式をしたのか。ってことは爺さんは…」


「はい、前当主さまは亡くなられました。葬儀などもすべて終わっております。」


俺はなんとなく察していたが祖父が亡くなったという事を直接聞かされ多少なりともショックを受けた。

唯一俺が将来の当主となることを最後まで諦めなかった人で、親父や幹部連中と何度も言い争ったが最後には渋々ながらも認めざるおえなくなったのも知っている。

俺が実家を出ると言った時も他の連中は厄介払いが出来たって感じだったが爺さんと母さんだけは俺を心配してこっそりと色々な援助してくれていたのも知っていた。

実家を出てからは偶に実家に戻っても爺さんとは一度も会わせて貰えなかった。

俺はそれをしょうがないことだ、と思っていたがいざこうなると後悔しかない。


「…その伝言はどっちから?」


「次期当主の貴仁様からです。随分兄である俊様を心配していましたよ。」


「俺が神力を宿してないかの心配だろ?見ての通りだよ。」


俺は腕を広げて気力を少しだけ放出した。

放出した気力で怪異を呼び寄せる心配もあるが、俺に神力が宿っていないことを証明するには今できるのはこの方法だけなので仕方がない。


「なるほど、確かにその様子はないようですね。ですが以前お見掛けした時と比べて別人のようにかなり丹念に練り上げられた気力です。なにか特別なことでもありました?」


「いや、すこし真面目に修行するようになっただけだよ。」


俺がそう言うと男は納得出来ないような表情をしたが特に追及はしてこなかった。


「それじゃもう行くぞ、あまり長く話してあらぬ誤解が生まれると困るからな。」


「いえ、最後に一つだけよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「どうかここで死んで頂きたい!」


立ち去ろうとする俺を引き留めた男の背後から2メートルはある鎧武者の式神が現れ手に持った大太刀で俺に切りかかってきた。


俺は指を鳴らして透明な壁を生成して大太刀を簡単に受け止めた。


「はぁ…これも貴仁の指金か?」


「くっ!腐っても本家の出の者ですね!そうです、当主様からは強引にでも連れて帰ってこいとの事でしたが貴仁様はそれを不安視していて殺害しろとご命令しました。なのでここで死んで貰わないと困るのです。」


防がれた事に驚きながらも男は勝手にべらべら喋ってくれた。

よほど俺を確実に殺せると自信があるようだ。

だが勿論俺も、はいそうですかと言ってヤられるわけにはいかない。


俺は指を鳴らすと男とその式神に透明な杭を複数飛ばして動きを拘束した。

すると男は狼狽え始めた。


「これは式神や退魔士の術ではないな!まさか異能力に目覚めていたのか!」


「さぁどうだろうな?w」


「まて!まさか俺を殺すわけじゃないよな!?」


「お前人を殺そうとした癖に殺される覚悟は出来てないの?」


「やめろ!俺を殺すと人質も死ぬことになるぞ!」


男が人質がどうこうと言い始めたが俺にはまったく心当たりがなかった。

どうすべきか迷っていると俺のスマホが鳴った。

電話の相手は先ほどまで一緒にいた怜治だった。


「おい俊!お前んちのやつら即行で俺のこと襲いに来たぞ!」


「なっ!大丈夫なのかよ!?」


「それが…明らかに人じゃないものが襲ってきたから怪異だと思って車で轢いたら、いつもはしないぶつかった感じがして、バックミラーで見たら消えてなくし焦って降りて確認したら人間でだったんだけど、なんかお前んちの奴らしくて、俺を攫って人質にするとかほざきやがったからぶん殴って気絶させといたわ。これどうする?」


俺は実家の、いや弟の貴仁の手が予想以上に早いことに驚いた。

しかしそれ以上に自分の親友の破天荒さに驚いた。


「とりあえず困ったときのチヒえもんじゃない?」


「やっぱりチヒえもんか。」


そして真面目に考えることを放棄した俺は、自分を襲ってきた男を気絶させて後始末は伏見にぶん投げることにした。




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