第34話
それから半月程、執務室という名の監獄に缶詰めか訓練室で基礎訓練をさせられていた俺はやっと外に出ることが許された。この半月本部から出る許可が下りず建物内での行動しか許されていなかったことを考えると軟禁というのが正しいのかもしれない。だが友人3人と伏見や辺見もいたので特に苦しいという訳ではなかった。
何はともあれ約一か月ぶりに自宅に帰ると思うと気持ちが弾んでも仕方がない。
俺は伏見の異能力で前に入院した病院に送ってもらい一か月前に止めた自家用車で帰宅した。
駐車場に車を停め、階段で2階に上がり手前から3番目の俺の部屋に着くと郵便受けには封筒やハガキが押し込まれた光景にげんなりしながらそれを回収し部屋の中に入った。
やはり我が家はいい、その一言に尽きる。
高校を卒業し就職してからの約10年を過ごしたこの部屋には様々な思い出がある。
だが今後は本部の一室に住むことになっているのでここを引き払わなくてはならない。俺はゆっくりする暇もなく必要なものをまとめ始めた。
愛用の型落ちの据え置き型ゲーム機、買ったけどほとんど使っていない携帯ゲーム機、PCでゲームがしたかったのに結局仕事に使っていたゲーミングPC、あとはなんのために買ったか覚えていないタブレット2台、などを持っていきやすいように準備をした。服?シャツとパンツ以外は休みの日に着るスウェットと会社に着ていく作業着、あとはスーツが2着以外ありませんがなにか?
それから2時間ほど引っ越しの準備をしていた俺のスマホが鳴った。
画面には佐藤俊と表示されている。
「おつかれさん、どうした?」
俺はすぐにスマホを操作してスピーカーモードで通話を始めた。
「おーっす、いま家にいるんだろ?昼飯でも食いに行こうぜ。」
「りょーかい、二人でか?」
「悠も健も今日は家で引っ越しの準備とか諸々したいって誰も相手してくれなくてさ。」
「俺もそうなんだが、てかお前はいいのか?」
「俺は前からちょくちょく帰ってたからもう準備はできてるから問題なし。」
「そうか、んじゃ車で迎えいくわ。この前と同じく駅前でいいか?」
「おっけー、んじゃ30分後くらいに駅前でな。着いたら電話くれよ。」
そうして電話を終えた俺は手早く準備すると集合場所に向かって車を走らせた。
待ち合わせの3分前に駅に着いた俺は駅前のロータリーに車を停車させていると俊が乗り込んできた。
「ういーっす、すまんな迎えに来てもらって。」
「気にすんな、とりあえず少しドライブでもするか。」
俊と合流してそのまま車で海沿いの道を車で走っていた。
車内は俺がスマホから流している音楽がながれいつもは騒がしい俊が静かにしていた。俺はその様子を見て察した。
「そんで、わざわざ俺だけ呼んでなんか話あんだろ?」
「はぁ、やっぱりお見通しか。そんなに俺は分かりやすいか?」
「伊達に上司のお気持ちを察して行動する社畜やってないからな。なんてな、俺だってお前かあの二人じゃなきゃそこまでわかんねぇわ。」
「そうか。」
「あぁ、そうだよ。」
そういうとまた暫し無言の時間が流れた。
そして意を決したように俊が口を開いた。
「あのさ、俺実は実家が退魔士を昔からやっててさ。俺もガキの時から色々やらされてたんだ―――」
俊はそれから自分の身の上話を始め、俺はそれを黙って聞いていた。
「それで俺はお前に謝りたいことがあんだよ。」
「そうか。」
俺はその一言だけしか返事をしなかった。
「いままで黙ってたこともそうだけど、いまお前に宿っている異能力は俺の実家が関係してるかもしれねぇんだ。だからお前をこんなことに巻き込んだのは俺の責任なんだ。許してくれとは言わない、恨まれて仕方ないと思っている。だってお前の人生を変えてしまったから…」
申し訳なさそうに俊がか細い声で俺に謝罪をした。
「そうか、気にすんなよ。 俺は別に気にしてないわ。」
「けど命の危険だってあるんだぞ?悪人だけど人だって殺すことになるんだぞ?それでいいっていうのかよ!」
「あぁ、お前が俺に謝ることなんてない。それもめぐり合わせだ、それに俺はまたお前たちと一緒にいれるようになれたのが何よりうれしいさ。それにお前らとならなにやったっていいさ。お前は違うか?」
「もちろん俺だって、怜治や悠や健と一緒にまた馬鹿やれると思うなら最高だって思ってるわ!!!」
「ならそれでいいだろ。また4人で馬鹿やろうぜ。」
俺はそう言って笑うと俊は顔を背けて鼻をすすっていた。
多分泣いてんのかもしれないけどいつもならイジるが今だけは勘弁してやろう。
そういって俺はもうしばらく車を走らせた。
「ところで怜治さ、お前さっきから黒い靄を車で轢いてるけどあれ怪異だぞ?」
「え?あれが怪異?!俺の精神的ストレスで見える幻覚じゃないのか?!」
「いや気づいてなったんかい、たぶん世界中みても怪異を車で轢き殺してるのお前だけだぞ。海外に怪異がいるのか知らんけど。」
俺にはその事実が今日一番の驚きだった。
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